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5部 よみがえる月神編

月神セレンへ2

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 中央の大陸セレンへの道のりは、思ったより簡単に行けた。クオンが月神となったことで、バルスデの王族が管理している道を使う必要もなかったのだ。

「なるほど……神の力だな。あっさりと行けるなんて」

 一瞬にして移動してみせた力は、どれだけの魔力を要するのかと思う。

 少なくとも、クロエにはできない。この中で可能性があるのはリーナぐらいだろうと思うほどだ。実際には、土台があれば魔力はあまり使わないとクオンは言うのだが。

「土台があるのか。それはどういうものだ?」

 気になったのかフィーリオナが問いかければ、どう説明するべきなのかと悩む。

 知識などは確かに受け継がれているのだが、それを説明できるかは別問題だった。

「俺が作ったものではないですからね。なんと説明すればいいのか」

 考えるクオンを見て、とりあえず土台というものがあるとだけ覚えておくと、フィーリオナも返す。こればかりは仕方ないことだ。

 彼は転生者ではあるが、本人ではないのだから。リオン・アルヴァースになったならわかるが、そうではない以上は知識だけという情報もあるのだろう。

 そう認識することにしたのだ。

 今、クオンがやって来たのは氷の塔と呼ばれる場所。天空城の四方にあるだけで、特に意味があるようには思われない塔。

 リオン・アルヴァースの記憶に、当然ここはある。なにせ彼はここで生活していたのだ。

「へぇ、リオン・アルヴァースがね。ここで生活してたんだ」

 こんなところで、と言いたげなリーナに、だよなとクオンも思う。居場所がなかったというよりは、外部との接触を拒絶していたからなのだが。

「それにしても、散らかってるな。こういったところも似てるわけだな」

 お前もそうだろ、とクロエの視線が言っている。間違っていないだけに、クオンは視線を逸らす。

 小さい頃から片付けが苦手なのだ。いつも部屋に放り投げては、母親に怒られていた。さすがに、今は気を付けるようにしているのだが、それでも部屋はきれいとは言えない。

「なぜだろうな。納得がいくのは」

 クロエの言葉を聞き、フィーリオナがクオンらしいと思えてしまったと言えば、誤魔化すように辺りを見渡すからリーナは笑う。

 誤魔化し方が下手過ぎると思ったのだ。

 騎士団長としては、ある程度の誤魔化しはできるようなのだが、なぜかクロエやリーナには下手過ぎる。これでは、家族に対しても同様なのだろうと思うほどだ。

「このままになってるとはな……」

 それにしても、と言うクオン。記憶のまま残っているとは思っていなかった。

 誰も入っていないわけではない。誰かしら入っている。微妙に物の配置が変わっているのが、その証拠だ。

「記憶のまま?」

「あぁ。リオン・アルヴァースが使っていたままだな。物の配置が変わっているから、多少なり見ていたんだろうが……」

「掃除もしっかりされているようだぞ」

 塵ひとつない、とフィーリオナが言えば、同じように見ていたクロエも頷く。誰かが定期的に掃除しているのだろう。

 この地では塵が積もらないというなら話は別だが、とクロエが言うと、神のいる地ならあり得るのだろうかとリーナも思う。

 いや、そんなことあるのだろうか、とすぐさま考える。

「精霊じゃねぇの? ここには太陽神と虹の女神がいるんだし、精霊が手を貸しててもおかしくねぇって」

「精霊が?」

 そんなことあるのかと、三人ともがクオンを見た。

 精霊とは、大気中にいるが見ることはできない存在。だからか、いないのと同じだと思うようにしていた。

「あー…見えねぇもんな。つうか精霊は光ぐらいにしか見えないもんだが」

 月神としての能力なのか、目の前に光がちらついている。もちろん、見ようと思えば見えるというのが現状だ。意識しなければ見ることはない。

 気付いたのは目を覚ましてすぐ。これはなにかと記憶を辿り、ちらつく光が精霊と知った。さらに、虹の女神が精霊と会話できることを知り、口止めを行ったのだ。

「月神としての能力なのかはわからねぇが、精霊と会話ができる。つまり、虹の女神も会話できるわけで、口止めはしておいた。どんな奴らか、目で見て判断してぇじゃん」

 記憶の中にある情報しか知らないから、と言われてしまえばリーナとクロエは苦笑いを浮かべる。

 彼らしいと思っているのだが、ここでやるとは思っていなかったというのが二人の本音。

「そういえば、クオンはなんでも自分で確認するという話を聞いたような」

 騎士団長のやり方はそれぞれで、基本的には任されている。だから、フィーリオナも特には気にしていなかったのだ。

 どうやら、騎士団長としてのやり方ではなく、彼はこういう性格なのだと理解した。元々、自分の目で見たものしか信じないのだろう。

 だからこそ、リオン・アルヴァースの記憶はあくまでも情報として、自分の目で確認するつもりだ。

「そんなわけで陛下、ここの情報が欲しいのですが」

 セレンへ行くための道が王家によって管理されているなら、なんらかの情報を持っているのではないか。

 クオンが問いかければ、フィーリオナは少しばかり考える。情報と言われても、そこまで詳しいわけではないのだ。

「俺達がここを出歩いて問題ないのか、ぐらいはわかりますか」

 出歩けるか出歩けないかで、行動の仕方が変わってくる。堂々と出歩けるならいいが、そうではないというなら隠れながら見るしかない。

「そうだな……おそらく、目立つぞ。ここは外部との接触がほとんどない」

「つまり、全員顔見知りというわけですね」

 厄介だな、とクロエが呟く。見つかったとたんに、相手側へ筒抜けとなってしまう。

「というか、ここに入った時点でバレてないの?」

 リーナが不思議そうに言えば、そこは問題ないとクオンが答える。





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