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5部 よみがえる月神編

覚醒の終わり2

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 クオンが聖獣を受け入れ始めてから、三日が経った。姿に変化が起き、青い髪は長髪に変わっている。

 姿絵を見たことがあるフィーリオナから、月神リオン・アルヴァースは長髪だったことから、その姿に変化しているのではないかと言う。

 魂が刺激されたことで、昔の姿へ変わっている。全員でだした結論だった。

 ぐったりと横たわるクオンは、今も変化していく痛みと戦っている。伸びた髪で見えなくなっているが、瞳が完全な銀色に変わっていることも、リーナは知っていた。

 そして、彼女はもうひとつ知っていることがある。

(まただ……怪我が治る)

 月神としての力がクオンの身体を傷つけるようになり、その怪我は自然と治っていく。そのスピードは少しずつだが速くなり、これも月神の能力なのかと思う。

(終わりは近い……)

 なぜか、そう感じていた。なぜなのかはわからない。もしかしたら、無意識に干渉しているのかもしれないとすら思えた。

 自分の中にある女神の血は、どのような作用をもたらすのか。彼を癒してくれるものとなるなら、そうならいいのにと思いながら見守る。

 リーナの感じたものは間違ってはいなかった。さらに二日もすれば、クオンの異変は終わりを告げたのだ。

 今度は眠っているクオン。これは回復のためだろうと、様子を見に来たクロエが言う。回復すれば目を覚ますだろうが、それがいつになるのかわからない。

(回復すれば……違う。クオンは今、きっと聖獣といる)

 聖獣との繋がりを完全なものにするのだ。そのための眠りで、目を覚ませば彼は人間ではない。月神となっているのだと言い切れた。

 ついに、と思うが、感情としてはそれだけだ。それ以外のものはない。なぜなら、彼女もずっと考えてきたから。

(クオンの考えることなら、わかるんだから)

 彼は自分が月神とならなければいけない理由を考える。これが止まらないとわかれば、先へ行こうとするのも彼なら十分に理解できた。

 だから脱走を想定してクロエと待ち構えていられたし、自分の家にセイレーンが嫁いだからこそ、西の書物も残されていたのだ。

「不死たる神…だが、絶対ではない。神は完全でもない。神は……罪を犯すこともある」

「なんの呪文だ、それ」

 思わず呟いた言葉に、ずっと聞きたかった声が問いかけてくる。リーナは重なり合った視線に、思わず抱き着いていた。

 大丈夫だと思っていたが、それでも耐える姿を見続けていれば不安にもなる。治っているが怪我もしていたのだから、本当に大丈夫なのかと思っていた。

「どこも痛くないの?」

「あぁ。痛くねぇし、苦しくもねぇよ。心配かけたな」

 彼女がこのようなことをするのは珍しい。それだけ心配していたのだとわかるし、心配しながら見守るだけにしてくれていたのには感謝している。

 これでまた貸しを増やしたな、と思えば、気が済むまでこうしておくかとリーナの身体を抱き締め返す。

「信じてた…」

「あぁ、わかってた」

 リーナが自分を信じているからこそ、見ているだけだったのだ。

「でも、不安だった…」

「それもわかってる。だから、歌ってくれてたんだろ。歌だけは聴こえてきた。お前、俺に干渉したな」

 間違いなく割り込んできたのだと、今のクオンにはわかる。元を辿れば同じ血を引くからだろうか。自分への干渉を簡単に行えるようだ。

 それも無意識に行っている。厄介だと思った。自在に操れるよう、訓練でもしてもらった方がいいかもしれないと思えたほどに。

 だが、この力を自在に操れるのか。オーヴァチュア家の特殊能力ではあるが、女神の血が成す能力。簡単にできることではないだろう。

『星の女神になれば、可能なはずだぜ』

 聞こえてきた声に、リーナへ聞こえていないのかと一瞬確認する。干渉で聖獣の声も聞き取れるかもしれないと思ったのだ。

 繋がりを完全なものとし、現在は腕輪を通すことで話せている。リーナが腕輪に干渉してしまえば、当然だが聖獣の声も聞こえてしまうのだ。

(星の女神な……それでも、訓練は必要だろう)

 すぐにというわけではない。困ったものだと思う。

『お前で練習させてやれって。お前の女だろ』

(はいはい)

 わかったと言うようにあしらえば、今はリーナの相手だけにしようと切り替える。

 わかったからだろう。聖獣からの呼びかけも途絶えた。

「リーナ、ちゃんと寝てたか?」

 ホッとしたのはわかるが、そのまま寝てしまいそうな姿に、回復して早々の生き地獄がやってきそうだと苦笑いを浮かべる。

「誰のせいよ……」

「わかったわかった。俺のせいな」

 間違っていないだけに、このまま休ませてやるかと頭を撫でた。

 なにも否定できない以上、この生き地獄はとりあえず受け入れようと、眠るリーナを見るクオン。おそらくだが、このあとやってくるだろう幼馴染みと話すには、ちょうどいいと思えたのだ。

「いるんだろ、クロエ。陛下も一緒か」

 外へ向けて呼びかければ、部屋に入ってきた二人にやはりとしか思わない。

「お前、あれを察せるのか」

「察せるようになった、だな。仕方ねぇだろ。それ、精霊の気配なんだからよ」

 クロエが家を継ぐ者として受け継いだ物。それは精霊の気配がすると言われてしまえば、事実なだけになにも言い返せない。

「リーナがわかんねぇとは思わなかったけどな」

 わかりそうなものを、と言えば、慣れ過ぎている結果だろうとクロエは言う。自分の妹も同様なだけに、同じだと思っていたのだ。

「それで、お前の状態がどうなっているのか教えろ」

 これが本題だろうとフィーリオナが言えば、クオンは頷く。聞きたいからここにいるのもあるが、その先のことを考えるためにも必要な情報なのだ。

 この女王は、なにかやりたいことがあってここにいるはずなのだから。

「とりあえず、このままでいいですか?」

 横になっている状態でリーナが抱きついてしまったので、身体を起こすことができない。起こすとなれば、彼女を起こすことになってしまう。

 クオンの中に、リーナを起こすという選択肢がなかった。

「それは構わない。リーナも、あまり寝ていなかったようだしな」

 クロエが寝かせるように気を付けていたが、目を離すと寝なくなって大変だったとフィーリオナが言えば、だよなと苦笑いになる。

 彼女ならそうだろうと思っていたのだ。クオンが思うなら、クロエも思っていること。だからこそ気を遣ってくれたのだろう。

「で、陛下はなにをしたいんですか」

 自分達についてきて、なにがしたいのだろうか。当初の言葉も嘘ではないが、目的は他にもあるはずだ。

「やれやれ……知識量が変わったものだな」

「誰かの記憶があるから、ですが」

 そうだったな、と頷く。今のクオンにはリオン・アルヴァースの記憶がある。下手したら自分より知識はあるだろうと思えた。

「英雄王に会いたいのはもちろんだが、お前達についていけば事の詳細がわかるだろ。見届けたいというのもあったが」

 予言という形で知っていた月神の転生。その先を見届けたいという気持ちや、詳細を知って対策したいというのも嘘ではない。

 だが、とクオンは思う。他にもなにかある。目の前の女王には、もっと月神に関係ない事情があるのだ。

 個人的ななにかが。






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