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5部 よみがえる月神編

リーナの決意

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 朝陽が差し込み、目が覚めたリーナ。いつ横になったのだろうかと思えば、椅子に座ったままのクロエが見える。

 一見寝ているように見えるが、おそらく彼は寝ていないと言い切れた。この状態で、彼が寝るわけがないと言い切れたのだ。

 自分を寝かせたのは彼だろう。今のクオンにはできないのだから、他にはいない。

「おはよう、クロエ」

「あぁ、おはよう。起きたなら、あとは任せていいな」

 少し休むと言われてしまえば、違和感を覚えつつも頷く。寝ずにいてくれたのだろうし、休息は確かに必要なことだ。

(なんだろう。クロエから感じる違和感)

 気にしても仕方ないことかもしれない。クオンのことがあって、クロエに違和感を覚えている可能性もあるだけに、ハッキリとは言い切れなかったのだ。

 クオンと二人にしてくれているだけではなく、なにかを避けているように見える。このような状態でなければ、クオンも気付いたはずだ。

(落ち着いたら聞いてみようかな)

 クロエが強制的に吐かせることができるように、クオンならクロエから聞き出すことができる。自分ではできないとわかっているのだ。

「…どう、した」

 少しばかり考え込んでいれば、目を覚ましたクオンが自分を見上げている。

「…お風呂入りたいなって」

「入って、こいよ」

 風呂ぐらいあるだろ、と視線が言っているから、リーナは苦笑いを浮かべた。

 今の彼だから誤魔化せたのだ。そうでなければ、こうも簡単に誤魔化されてはくれない。

(ありがたいことだけど、それだけ余裕がないってことでもあるのよね)

 クオンが他のことへ気を向けている余裕がないという証だと思えば、表情が暗くなりそうになり慌てる。

 そんな姿は見せられない。自分が心配をかけるわけにはいかないのだ。

「行かない、のか?」

「行くわよ。だから寝てなさい」

 それとも、自分がいないと寝られないのかと言えば、普段通りのノリでふざけるなと返される。一休みできたのだろうと、リーナは少し安心した。

「戻ってきたら朝食ね」

 彼が食べられるのかわからないが、一応持ってきた方がいいだろうと思う。

 食べられなくても、この状態だと仕方ないとすら思っていたし、強制的に食べさせるだろうクロエも今は寝ているはず。

 そう思えば、まずは軽く身体を洗おうと部屋を出た。

 さすがセルティの使っている家だと思う。風呂はしっかりとしているどころではない。小さな集落の設備ではないと思える家なのだ。

 軽く身体を洗うだけにすると、すぐさま部屋に戻ろうとして驚く。

 ふと見た外、そこに兄がいたのだ。

(もしかして、陛下の書類を持ってきたのかな)

 兄は陽光騎士団の副官である。遊びで国を空けるほど暇ではないし、なによりも上に立つのはイクティス・シュトラウスだ。

 あの上官が兄を自由にするわけがない。政務にも加わっているシュトラウス家の当主は、それだけ忙しい人物なのだ。

 そう考えれば、一番可能性が高いのは書類を持って来ているだろう、と結論付けた。

(クオンが気に入らない、だけで来ないか)

 なぜ気に入らないと思っているのか。それに関してもクロエの予測で聞いている。

 兄が特殊能力者ということも考えれば、昔からなにかを感じ取っていてもおかしくはないし、それならば納得もいくと思えた。

(それに、完全に嫌ってるわけでもないのよね。お兄様、意外とクオンを気にかけてたし)

 シリウス家の状態を知っているからこそ、クオンが一人でいるときは遊ぶように仕向けていたのだ。

 クロエを使って仕向けていたことぐらい、幼いリーナでもわかっている。

「ん?」

 視線が合ったと思えば、手招きされた。連れ戻そうという雰囲気ではないことから、なにか話があるのかもしれないと思う。

 連れ戻す気なら、呼ぶのではなく踏み込んでくる兄だ。

「仕方ない、行くか…」

 すぐに戻りたいところだが、ここで兄を拒絶したところでいいことはなにもない。

(それに…)

 特殊能力を持つなら知りたいと思ったのだ。兄からはクオンがどう見えているのか。自分の特殊能力に関してもわかっているのか聞きたいと思った。

 すぐに行くと仕草で伝えれば、リーナは外へ向かって歩き出す。途中でクロエと鉢合わせたこともあり、兄が来て呼ばれていると伝えておいた。

 彼に伝えておけば、大体のことは問題ない。力づくなどとすれば、すぐさま割り込んでくれるだろう。

 兄がクオンを毛嫌いしていると知っているだけに、いるとわかればどこからかこっそりと見ているはずだと思っているのだ。

(クロエからしたら、私はクオンの傍にいてほしいものね)

 連れていこうなどすれば、どんな手段を使っても阻止するだろう。



「……ふう。クロエが見ているな」

 外へ出てきた妹を見て、フォルス・ノヴァ・オーヴァチュアはため息をつく。想定内のことではあるが、こうも警戒されるとは思っていなかった。

「下手な真似はしない。イクティス様からも釘を刺されているからな」

 リーナが接触しないようにしていたことは、イクティスに知られている。怒られることはなかったのだが、ここまできたら干渉はするなと言われてしまった。

 本人達が決めることだからと言われれば、わかっているとしか答えようがなかったのだ。

「なぜ、クロエが見てるとわかるの?」

 間違ってはいないが、自分ではどこにいるのかわからない。兄が気付いたこれは、特殊能力なのだろうかと首を傾げた。

「……これは、家を継ぐ者として受け継ぐ物で感じることだな。クロエも持っているようだから、あいつの居場所はすぐにわかる」

 家に忍び込んだときや、リーナにこっそりと会ったときには持ち歩いていなかったようだ、と言われれば納得できる。

 クロエがあれほどに警戒して訪ねて来たのは、居場所が簡単にバレてしまうから。逆に、これでフォルスの居場所を把握することもできるということだ。

 リーナも一度だけ見せてもらったことがある。真っ赤に輝く宝石で、けれど強い力を秘めている物。あれと同じ物がソレニムス家にもあったのかと、新しい発見だ。

「俺がクオンを近づけたくなかったのは、ずっと違和感があったからだ。生まれたばかりの赤子の頃から、な」

 これが兄の特殊能力なのだと、この瞬間に悟る。月神の転生者であるとわかっていたわけではないだろうが、それでも奥底に秘められた力に気付いていた。

 どれほどの力を持つのかわからないが、赤子が持っていれば警戒するのもわかる。

「同時に、リーナを、お前を巻き込むともわかっていた。一緒にいれば普通の生活は送れなくなる。銀髪で苦しむ日々を見てきたからこそ、そんな道を歩ませたくなかった。だが、決めたのだろ。すべてを知った上で」

 驚くような言葉の数々。兄がここまで考えていたなど知らなかった。

 クオンを遠ざけたいと思っていたのも、あのとき会わせないようにしたのも、すべてはこう考えていたからだ。

 なぜと思うことは多かった。苛立ったことも一度や二度ではない。それでも、兄が考えていたことを知れば、今までの行動も納得できてしまう。






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