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5部 よみがえる月神編
語られない結末
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魔王との戦いは想像を絶するほど長くかかった。女神の力をすべて揃えるのに時間をかけたのもあるが、その後もセレンへ行くまでが大変だったのだ。
それだけ長く過ごせば、関係も少しずつ変化が起きていく。
「やっとセレンへ行けるー!」
セレンへ行くための場所を見つけた晩、この戦いが終わると喜ぶのはシオン・アルヴァースだ。
「長かったからな。俺達にはそれ程でもないが」
人間には長すぎる日々だっただろう、と言うのはフォーラン・シリウス。数十年も旅をしていた双子は人間だ。本来なら、すでに老人になっていてもおかしくない。
それが少年のまま止まっている容姿。仲間が人間ではないことから、普段はあまり気にしていないことだが、終わりが見えて意識するようになった。
「結局、母親は見つからなかったな。お前達の旅は、本来母親捜しだろ」
フォーラン・シリウスの言葉に、苦笑いを浮かべる兄と無表情の弟。二人がどう思っているか知っているだけに、フォーラン・シリウスは笑うだけ。
面白い双子だと思っているのだ。
彼が一緒に旅をするようになってからでも、十年以上は経っている。巻き込まれてが始まりだったが、そのまま同行したのは彼の意思だ。
「フォーラン、もうすぐだろ。どっちが産まれるか楽しみだな」
旅同行時は恋人であったティア・マリヤーナとの間に、子供を授かったフォーラン・シリウス。
同じように、リュークス・ユシル・ラーダも家庭を築き上げていた。イリティス・シルヴァンに引っ付いていただけに、誰もが驚くような出来事だったが、リオン・アルヴァースはなんとなく気付いていたことだ。
「お前らはどうする?」
「前に言っただろ。星になって見守る! それが俺の終わりだ!」
当たり前のように言うシオン・アルヴァースに、そうだったなと笑う。
それで、と視線が向けられれば、同じだと答えるリオン・アルヴァース。すべてが終われば不死ではなくなるのだから、残りの人生がどれ程残されているかわからない。
すぐにでも終わってしまうかもしれないのだ。ならば、大切な人と過ごす人生より、見守る人生だろう。
「たまになら、お前も見ててやるよ」
「それは、感謝しておこう」
素直ではない言葉に、フッと笑いながら答えた。
人間として育ったことから、当然のことだが人間として考える。長い旅をしていた二人は、女神の力を手放せば人間に戻ると思っていた。
人間に戻れば、止まっていた分だけ一気に老化していくかもしれない。
(いや、すでに死んでいたのかもしれない。人間なのだから、女神の力で動けている死者かもって思ってたんだ)
だから、お互いに一度も恋人へ触れることはしなかった。死者が触れていいわけがないと。
大切にしながらも、どことなく距離を置いていた。
「人間はあっという間に死ぬんだな」
「お前と一緒にするな。ハーフエルフは長生きなんだからよ」
「エルフほどではない。リュークスが最後まで生きてるかもな」
ああいうタイプが最後まで生き残ると言われれば、納得したように二人は頷く。確かに長生きしそうだと思えたのだ。
「あいつは万生きても、納得するな」
さすがにそこまで生きてはいないが、それでも生きそうだと笑うリオン・アルヴァースに、他の二人も笑った。
「明日に向けて、さすがに寝るか」
希望に溢れていた最後の夜。いつものように三人で過ごし、最後の戦いだと意気込んだ。
中央の大陸セレン。そこにいる魔王を倒せばすべてが終わると信じ、すべてをかけて戦った。
けれど、どれだけ頑張っても歯が立たない。なぜなのかわからず、少しずつ心が折れていく。どこかで自分達は勝てないと、気付いてしまったのだ。
始めに竪琴の音が止まる。星の女神の力である竪琴は、リーラ・サラディーンが奏でることで結界にも治癒にもなれば、補佐として役立つ。
彼女の音色が止まれば、エリル・シーリスの攻撃も止まってしまう。鈴の音が攻撃的に襲っていたが、一撃たりとも通じないのだ。
「どうして、ですの……」
この力は女神の力だ。この世界でこれ以上の力はない。それなのに、なぜ通じないのかと思う。
「なにかが足りないのか、それとも四つに分かれた力ではダメなのか」
なんとか攻撃を維持しているが、リュークス・ユシル・ラーダも心折れかけていた。
自分の魔法には絶対の自信があっただけに、こうまでも通じないと、この先は死が待っているだけだとしか考えられなくなっていたのだ。
自分達はここで死ぬ。生きて帰ることはできないだろう。
当然ながら、三人がこういった状態になっていることはわかっていた。前で戦うからこそ、リオン・アルヴァースは感じている。
(この戦いは勝てない……)
それでも戦い続けたのは、自分が諦めてしまえば背後にいる仲間も死ぬからだ。
苦しい思いをして、兄と旅を続けた先で出会った大切な仲間。彼らだけでも死なせたくない。
(そうだ。俺達は死んでる存在だと思ってたから…)
流れ込んでくる感情に、クオンは当時のことを自分のことのように思い描けるようになっていた。
胸が苦しい。なにがなんでも、仲間だけでも助けるのだという気持ち。どこで間違えてしまったのかと、己を責める気持ちが入り乱れていく。
どうにかしなければと、気持ちだけが急いていくのだ。
焦りはよくない。冷静にならなければ道は開かれないと、クオンだから思えた。当時は、そんなことを考える余裕などなかったのだ。
「チッ…クソッたれが!」
力いっぱい攻撃して、弾かれる。これで何度目だろうかと思ったとき、一瞬にして前で戦う三人が吹き飛ばされた。
・
それだけ長く過ごせば、関係も少しずつ変化が起きていく。
「やっとセレンへ行けるー!」
セレンへ行くための場所を見つけた晩、この戦いが終わると喜ぶのはシオン・アルヴァースだ。
「長かったからな。俺達にはそれ程でもないが」
人間には長すぎる日々だっただろう、と言うのはフォーラン・シリウス。数十年も旅をしていた双子は人間だ。本来なら、すでに老人になっていてもおかしくない。
それが少年のまま止まっている容姿。仲間が人間ではないことから、普段はあまり気にしていないことだが、終わりが見えて意識するようになった。
「結局、母親は見つからなかったな。お前達の旅は、本来母親捜しだろ」
フォーラン・シリウスの言葉に、苦笑いを浮かべる兄と無表情の弟。二人がどう思っているか知っているだけに、フォーラン・シリウスは笑うだけ。
面白い双子だと思っているのだ。
彼が一緒に旅をするようになってからでも、十年以上は経っている。巻き込まれてが始まりだったが、そのまま同行したのは彼の意思だ。
「フォーラン、もうすぐだろ。どっちが産まれるか楽しみだな」
旅同行時は恋人であったティア・マリヤーナとの間に、子供を授かったフォーラン・シリウス。
同じように、リュークス・ユシル・ラーダも家庭を築き上げていた。イリティス・シルヴァンに引っ付いていただけに、誰もが驚くような出来事だったが、リオン・アルヴァースはなんとなく気付いていたことだ。
「お前らはどうする?」
「前に言っただろ。星になって見守る! それが俺の終わりだ!」
当たり前のように言うシオン・アルヴァースに、そうだったなと笑う。
それで、と視線が向けられれば、同じだと答えるリオン・アルヴァース。すべてが終われば不死ではなくなるのだから、残りの人生がどれ程残されているかわからない。
すぐにでも終わってしまうかもしれないのだ。ならば、大切な人と過ごす人生より、見守る人生だろう。
「たまになら、お前も見ててやるよ」
「それは、感謝しておこう」
素直ではない言葉に、フッと笑いながら答えた。
人間として育ったことから、当然のことだが人間として考える。長い旅をしていた二人は、女神の力を手放せば人間に戻ると思っていた。
人間に戻れば、止まっていた分だけ一気に老化していくかもしれない。
(いや、すでに死んでいたのかもしれない。人間なのだから、女神の力で動けている死者かもって思ってたんだ)
だから、お互いに一度も恋人へ触れることはしなかった。死者が触れていいわけがないと。
大切にしながらも、どことなく距離を置いていた。
「人間はあっという間に死ぬんだな」
「お前と一緒にするな。ハーフエルフは長生きなんだからよ」
「エルフほどではない。リュークスが最後まで生きてるかもな」
ああいうタイプが最後まで生き残ると言われれば、納得したように二人は頷く。確かに長生きしそうだと思えたのだ。
「あいつは万生きても、納得するな」
さすがにそこまで生きてはいないが、それでも生きそうだと笑うリオン・アルヴァースに、他の二人も笑った。
「明日に向けて、さすがに寝るか」
希望に溢れていた最後の夜。いつものように三人で過ごし、最後の戦いだと意気込んだ。
中央の大陸セレン。そこにいる魔王を倒せばすべてが終わると信じ、すべてをかけて戦った。
けれど、どれだけ頑張っても歯が立たない。なぜなのかわからず、少しずつ心が折れていく。どこかで自分達は勝てないと、気付いてしまったのだ。
始めに竪琴の音が止まる。星の女神の力である竪琴は、リーラ・サラディーンが奏でることで結界にも治癒にもなれば、補佐として役立つ。
彼女の音色が止まれば、エリル・シーリスの攻撃も止まってしまう。鈴の音が攻撃的に襲っていたが、一撃たりとも通じないのだ。
「どうして、ですの……」
この力は女神の力だ。この世界でこれ以上の力はない。それなのに、なぜ通じないのかと思う。
「なにかが足りないのか、それとも四つに分かれた力ではダメなのか」
なんとか攻撃を維持しているが、リュークス・ユシル・ラーダも心折れかけていた。
自分の魔法には絶対の自信があっただけに、こうまでも通じないと、この先は死が待っているだけだとしか考えられなくなっていたのだ。
自分達はここで死ぬ。生きて帰ることはできないだろう。
当然ながら、三人がこういった状態になっていることはわかっていた。前で戦うからこそ、リオン・アルヴァースは感じている。
(この戦いは勝てない……)
それでも戦い続けたのは、自分が諦めてしまえば背後にいる仲間も死ぬからだ。
苦しい思いをして、兄と旅を続けた先で出会った大切な仲間。彼らだけでも死なせたくない。
(そうだ。俺達は死んでる存在だと思ってたから…)
流れ込んでくる感情に、クオンは当時のことを自分のことのように思い描けるようになっていた。
胸が苦しい。なにがなんでも、仲間だけでも助けるのだという気持ち。どこで間違えてしまったのかと、己を責める気持ちが入り乱れていく。
どうにかしなければと、気持ちだけが急いていくのだ。
焦りはよくない。冷静にならなければ道は開かれないと、クオンだから思えた。当時は、そんなことを考える余裕などなかったのだ。
「チッ…クソッたれが!」
力いっぱい攻撃して、弾かれる。これで何度目だろうかと思ったとき、一瞬にして前で戦う三人が吹き飛ばされた。
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