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5部 よみがえる月神編

記憶の七英雄

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「暗くなってきた。もう帰ろう。魔物が活発になる時間だ」

 夕陽が沈みきってしまったのを見て、リオン・アルヴァースは声をかける。

 ここはどこだろうか、とクオンは見た。まるでどこかにある小島のようだが、今まで見た中にはなかった風景だ。

 そこにエリル・シーリスと二人でいる。

(あぁ、そうだ……)

 ここは南の大陸だと理解した。お世話になったセイレーン達の集落から、少し離れたところにある小さな小島。

 たまたま、抜け出していくエリル・シーリスを見て追いかけた。一人では危険だと思ってのことだ。魔物がいつ襲い掛かってくるかわからないのだからと。

 そして、そのまま話し込んでいた。居心地のいい空間に、悪くないと思ってしまったのだ。

「そうですわ……あら? あれはなにかしら?」

 帰ろうと言うリオン・アルヴァースの言葉に頷く彼女は、淡く輝く光を見つけてしまう。

「ん? なっ…」

 同じものを目にした彼は気付く。あれは女神の力だと。最後の力で、相棒が言うに星の力だと気付いてしまったのだ。

 甲高い鳥の鳴き声と共に、大きな鳥が姿を現す。銀色に輝く鳥が、淡い光を放ちながら軽やかに浮いている。

「きれいな鳥ですわね」

「あ、あぁ…」

 こんな鳥は見たことがないと、魅入っているエリル・シーリスを見ながら、リオン・アルヴァースの表情は翳った。

 なぜだか嫌な予感がしたのだ。彼女は間違いなく女神の力に選ばれている。その選び方が、イリティス・シルヴァンとエリル・シーリスは共通している気がしたのだ。

 ここにきて、なぜ疑問に思っていたことを確認しなかったのかと後悔した。イリティス・シルヴァンが追ってきたとき、なぜなのかと疑問を抱えていたはずなのに、考えることをやめてしまったことが悔やまれて仕方ない。

(俺の…せいか……)

 確認しなかったこと、彼女が女神の力に選ばれたことも、すべて自分のせいに思えた。

 この瞬間、クオンは理解した。自分といたらリーナが星の女神に選ばれてしまうという意味。

 そのままの意味だったのだ。本当に自分が星の女神にしてしまうのだろう。結果として、自分の人生に巻き込むことになるのかもしれない。

 これに関しては、しっかりと考えなくてはいけないことだ。

 戻るなり、明かりも点けず部屋にこもったリオン・アルヴァース。

「どうしたんだ?」

 様子がおかしいと、片割れであるシオン・アルヴァースが気付かないわけがない。

「なんでもねぇよ」

「ならいいけどよ」

 もちろん、彼が素直ではないことも理解している。なんでもないと言われてしまえば、口出しすることはできない。

 見ていて本当にやばいと思ったとき以外は、基本的には見守るだけにしていた。そうでないと、彼は不機嫌になるからだ。

「ティアが、星の力を感じるって」

 部屋が明るかったなら、あからさまにわかるほど表情が変わった。

 いや、彼が弟の変化に気付かないわけがない。おそらく気付いているだろう。生まれたときから一緒にいるのだから。

 気付きながらも、あえて気付かないふりをしているだけのこと。

「この辺りにいるのか?」

「たぶんな。けど、精霊が口を割らないからわからない」

 だから、しばらくはここに滞在だと言われれば、わかったと頷くしかなかった。

 言えなかったのだ。自分のせいで彼女を巻き込んでしまったことを。

 エリル・シーリスが女神の力に選ばれたと言うのは、簡単にできることだった。けれど言いたくないと思ったのは、彼女を自分達の戦いに巻き込みたくなかったから。

 彼女はイリティス・シルヴァンとは違う。イリティス・シルヴァンは自分から選び追いかけてきたが、エリル・シーリスが同じとは限らない。

 自由を奪う行為だとわかるだけに、言いたくなかった。

「俺が隠してる限り、隠せるんだな」

 兄が部屋を出たのを確認すると、傍らにいる水色の聖獣へ問いかける。

『あぁ、できるよ。けど、いつまでもってわけにはいかないぞ』

 どうにかできないかと問いかけ、星の力は月の力で隠すことができると教わった。ひとまず、これで誤魔化そうとしたのだ。

 けれど絶対ではない。シオン・アルヴァースならば、見つけ出すことが可能だと言うのだ。月の力より、太陽の方が強いのだと、力関係を教えられた。

「同じってわけじゃないのか」

『同じは同じだけどな。少し違いもあるんだよ』

 自力で輝ける太陽と、自力で輝けない月。この差が二人の力関係を上下する。だから同じで同じではないのだ。

「なんか、シオンがいなきゃダメみたいじゃん」

『まぁ、そうなるかもな。溜めはできる。教えてやろうか』

 なぜ最初から教えないと睨みつけるが、慣れたように聖獣は受け流す。

 そういえばと思いだす。兄の聖獣はなんでも教えてくれるようなタイプだったが、リオン・アルヴァースの聖獣は基本的にはなにも教えない。

 聖獣達も性格がそれぞれだ。必要になればその都度、必要な知識を引き出す。それを繰り返しながらここまで来た。

「で、エリルが選ばれた理由は?」

 確認するようにぶつけてみれば、聖獣はあっさりと認める。

『まっ、だからあながち間違っちゃいないな』

「やはり、か…」

 リオン・アルヴァースは覚えていた。この聖獣は女神を捜せと言ったのだ。女神の力を持つ者を捜せとは言っていない。

 とはいえ、なにも理解していなかったときにこれを言われても、正確に察することなどできない。

「最初に言えよ」

 もっとわかりやすく言ってほしかったと思う。

『聞かれなかったしな。言っただろ、女神を捜せと』

「あぁ、確かに言ったな」

 これが間違いではないだけに、これ以上はなにも言えない。ただ、面倒な聖獣だと思っただけのこと。

 滞在は長期的になるかと思われたが、そうはならなかった。聖鳥によって事情をすべて知ってしまったエリル・シーリスが、自ら話してしまったからだ。

「怒っていますの?」

「……いや。俺が怒ることじゃねぇ」

 自分が巻き込んでしまったのだから、むしろ怒られてもいいほどだと思っている。

 なにがあるかわからない戦いだ。死ぬかもしれないのに、ついてきていいのだろうかとすら思っている。

「わたくしは後悔などしていませんわ。自分で行くと決めたのですもの。ただ、リーラはなぜついてきたのかしら。それだけがわからないのですよね」

 困ったような笑みを浮かべる女性に、俺に聞くなとリオン・アルヴァースはため息をつく。

 なぜかついてきてしまったリーラ・サラディーン。引っ付いて離れない少女だけが、唯一の悩みだとエリル・シーリスは言う。

 彼女の歌で舞うのは好きなだけに、強く言えないのだ。

「まぁ、いいじゃん。楽しいなら」

 仲間が増えて楽しいな、と言うシオン・アルヴァースに、これでいいのかと思ったのは言うまでもない。兄がこれだから、自分が引き締めなければいけないのだ。






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