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5部 よみがえる月神編

石碑の聖剣

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 夢を見た。なぜ自分がと思いながら、リーナは目の前の光景に釘付けだ。

「腕輪……」

 神馬から受け取った腕輪が浮いている。淡く輝きながら。

 一体なにが起こっているのかと思うが、それよりも気になるのは目の前の風景だ。どこだかわからないが、一面が干からびた地面。それもひび割れている。

「なにが起きて……」

 見渡してみれば、見覚えのない風景。これは少なくとも北の地ではないと言い切れた。

 たとえ風景が変わり果てていようが、北の地ならわかる。ずっと見てきた場所なのだから。

「腕輪が、私になにかを見せようとしてるのかな」

 それとも、これが自分の特殊能力なのだろうか。

 オーヴァチュア家の特殊能力。兄がどのようなものを持っているか知らなければ、自分が持っているとも思っていなかった。

 初めて知った能力は、これなのかもしれないと思う。クオンの夢を抑えたのも、すべてこれなら意味があるのだと思いたかった。

 今、自分がこのようなものを見ているのも、なにかしらの意味があってのこと。その意味を探らなければいけない。

『エリル…』

 どこからか聞こえてきた声。苦しげに吐き出されたそれに、リーナは惹かれるよう向かって行った。

「これは……」

 見覚えはないが知っている。クオンから聞かされた夢の中に出てきた人物だからだ。

 青髪の少年がセイレーンの女性を抱いている。翼を失ったセイレーンの女性だ。

「エリル・シーリス……七英雄と名を残した、最初の星の女神だ」

「リオン…アルヴァース……」

 風景とは別に現れた青年は、夢として見ている少年よりも成長している。銀色の瞳には、どことなく冷たい印象を与える光が宿っていた。

「あなたが、これを……」

「あぁ。もっとも、干渉できたのは女神の血を濃く継いでいたのと、これを持っていたからだが」

 ふわりと浮く腕輪を手にするリオン・アルヴァースに、きっかけはこれだったのかと納得する。

 同時に、これをクオンが持っていなくてよかったとも思う。一気に記憶が押し寄せて潰れていたかもしれないと。

(今度こそ、ずっと傍にいる。傍でクオンを支えられるのは、私だけなんだから)

 クオンからもらった腕輪に触れながら強く思った。

 強い決意を感じ取ったのか、リオン・アルヴァースが困ったものだと笑った。

「まったく……警告してもこれか。お前らは……いや、こういったところは俺と変わらないのかもしれないな」

 呆れたように言う姿を見て、もしかしたら直接警告をしようとしたのかもしれないと思う。自分が巻き込まれないように。

「私はクオンから離れないわよ」

「だろうな。エリルと同じ目だ……俺と一緒に死ぬと言ったときと、な」

「あっ……」

 見ていた夢を聞いたし、セイレーンの女性が死ぬ夢を一緒に見ていた。

 彼女は、リオン・アルヴァースと死ぬ道を選んだのだ。最後まで共にいたいと思って。

(気持ちはわかるけど…)

 理解できてしまった。彼女はそれでよかったのかもしれないが、言われた彼はそうではないはず。どれほど苦しい思いをしたのか、想像することしかできない。

 結果、後悔として残ってしまった気持ちがあるのだろう。

「少し見せてやれば、気持ちが変わるかと思ったが。揺らがないなら、そいつをあれに渡せ」

 腕輪を放り投げて言うから、慌てたように受け取るリーナ。

 これは一体なんなのだろうか。彼の持ち物であったことはわかっているが、他にも意味があるのではないかとすら思う。

「それは、俺がシオンとお揃いでもらったものだ。それ以上でも、それ以下でもない」

 ただ壊せなかっただけだと自嘲気味に言う青年に、太陽神とお揃いだからこそ壊せなかったのだと気付く。それほど大切な物なのだと。

「あいつは自分で決めたんだろ、俺の記憶をすべて受け入れると。なら、この程度で壊れるぐらいなら始めからやめるべきだ。今ならまだ、引き返せるだろうさ」

 引き返せるとはどういう意味か、と視線が問いかけるが、それに関しても笑って済まされてしまう。

 クオンはすでにリオン・アルヴァースの記憶を見ている状態だ。

「フッ……。俺がすべて持っていけばいいだけだろ。それぐらいなら、できるだろうさ。あいつが覚醒しようがしまいが、俺は消えるからな」

 最後の悪足掻きをするのも悪くないと言えば、その姿は薄らいだ。用件が終わったから、もう終わりだと言うように。

 残されたのは、彼が持っていた腕輪だけ。夢の中でもハッキリとわかる、冷たい感触の腕輪だけだった。



 目を覚ませば、窓から射し込むのは月明かり。枕元に置いておいた時計を見れば、日付が変わった辺りだとわかる。

 クオンの代わりに神馬から預かった腕輪は、変わらずサイドテーブルの上に置かれていた。月明かりを浴びて輝く腕輪は、透き通った宝石のようにも見える。

「水晶みたい……でも、水晶ではないと思うんだけど……なにで作られたんだろう」

 不思議な腕輪だと思いながら見ていると、淡く輝きだす。まるでなにかを訴えかけてきているようだ。

「なんだろ……クオンに反応してるのかな」

 腕輪はクオンに反応しているのか、それともリオン・アルヴァースに反応しているのか。そこまで考えてから、夢に見たものを思いだす。

 彼は言った。これをクオンに渡せと。そうすることでなにが起きるのかわかった上でだ。

(渡した方がいいのかな。腕輪もクオンに持ってもらいたがってるようだし)

 けど、と思わなくもない。渡せばクオンが苦しむかもしれないのだ。これ以上苦しんでほしくないと思うのは、当然のことだろう。

 だからといって、これは逃れられないこともわかっている。

 しばらく腕輪を眺めていたが、これをクオンへ渡そうと決めた。なにがあっても、彼は立ち止まることはしない。引き返すこともだ。

 今なら引き返せるとリオン・アルヴァースは言っていたが、そんなことをクオンが聞くわけない。

「それで、クオンは部屋じゃなくて外にいるのかな?」

 腕輪はなんとなく、クオンが外にいると語り掛けてきている気がした。

 なぜわかるのだろうかと思い、深く考えることはやめる。どれだけ考えてもわからないこともあると、ここ最近思い知ったばかりだ。

 上着を手にすると、リーナは腕輪を片手に外へ出る。クロエが一緒のはずだが、という気になることもあるのだが、彼が休息をとっているからこそ抜け出した可能性が高い。

 そうでなければ、クロエが一緒にいる状態で外へ出たりしないだろう。

「これは、教えてくれてるのかな」

 キラキラと輝く光が行き先を示すように流れていく。運河のような輝きだと思いながらも、そのまま辿っていくことにした。

 間違いなく、クオンの元へ案内している。腕輪がクオンを持ち主と認識しているかのように。







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