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4部 女神の末裔編

聖剣と女神の力3

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「ヴェルトが?」

 その情報は唐突に入ってきた。ヴェルトが聖剣を手にしたと。

 少しばかり驚いたが、リーシュを守りたいと願う強い想いを知っているだけに、納得もいく結果だ。守るためなら、どんなことでもやりそうな青年だと。

「なにか新しい情報でしょうか」

 にこやかに問いかけてくるイクティスに、彼も侮れないとはイリティスの内心だ。

 中にいる魔物と外にいる魔物は同じ個体と見抜き、束縛までしてみせた。同時に倒さなければ、また別の場所へ逃げられてしまうだろうとも彼は言う。

 一度中へ逃げられてしまっただけに、イリティスもそうかもしれないと思い、同時に倒せるよう現状は見守っているのだが。

(彼にこのような力があろうとはね)

 さすがに想定外だ。イリティスが知っているクレドは魔力なしのエルフ、ということもあって、甘く見ていた自分を叱咤したほどだった。

「虹の女神殿?」

「ごめんなさい。なんでもないわ。中で聖剣を継いだ者がいると、連絡があったものでね」

 それで考え込んでいたと言えば、一応納得はしてくれた様子。完全に信じてはいないだろうが、嘘でもないと思っているのだろう。

 それで、とイクティスが見てくるから笑う。どうやら、彼も聖剣を継いだ者が気になるようだ。

「そういったところは、クレドにそっくりね。あの子も、知りたいときはそんな表情していたわ」

 本人なのではないかと思うほどだが、違うのはわかっている。都合よく転生してくるわけがない。

 仮に転生して記憶を持っていたとしたら、この対応はしないだろう。太陽神すらこき使ったクレドだ、もっとイリティスにも求めてきたことは間違いない。

(判断基準がこれも、どうかと思うのだけど)

 そう思わせるほど似ているのだ。親もこうなのかもしれないと思えば、クレドの子供自体が似ているということだろう。

「そんなに、似ていますか?」

 考え込むイリティスに、自分はそれほど似ているのだろうかと不思議そうにしている。

「似ているわね」

「そうですか。まぁ、僕は父に似ているようなので、父がクレド・シュトラウスに似ているということなのでしょうね」

「なるほど。そういうことなのね」

 似た者親子となり、そのまま続いているのかと笑った。

「それで、聖剣を継いだ人物ね。会った方が早いと思うのだけど」

 どうせ会っていくのだろう、と言われてしまえば、イクティスは笑うしかない。

 会うつもりがなくても、村の中へ入れば自然と対面するだろう。仲間が村にいる以上、ここでさようなら、というわけにはいかない。

「その通りですね」

 彼女からの評価なら信用できると思ったのだが、会うのだから自分で確認するべきかと思い直す。

「まぁ、面白い子ではあるかもね」

 会ったときには気付かなかったが、しばらく一緒にいて思いだしたのだ。以前、ミヤーフ神殿ですれ違った子供だと。

 つまり、リーシュはなにも言わなかったが、彼は王子だということになる。

「あなたが言うのですから、間違いはないでしょうね。楽しみですよ」

 笑いながら言うイクティスに、少しだけ不気味さを感じるのであった。

 彼は、クレドと似ているがそうではない。おそらく、隠された本性があるのだろうと、このときイリティスは気付いたのだ。

 見た目以上に厄介な存在だと。

 グレンを連れてくればよかった、などと思いながらイリティスは精霊達の声へ耳を傾ける。

 目の前にいる彼を相手するには、間違いなくグレンがいいだろうと思ったのだ。自分ではまともに相手できないとすら思っていた。

「シャル、どう……」

 村の中から光の柱が立ち上ると、シャルが驚いたようにどこかを見ている。

 気付いたイリティスがそちらを見て、その光景に驚く。イリティスだけではない。イクティスも驚いていた。

「フェーナ……」

 一人の女性が目の前にいる。どことなく透けているような姿に、誰も言葉を発することはない。どう声を掛けたらいいのかわからないのだ。

 むしろ、声を掛けたら届くのかすらわからない。

『イェルク…先に消えるわね』

 透けているフェーナが聖槍へ触れながら言えば、三人ともが理解する。彼女は消える前に、挨拶をしに来たのだ。

 聖剣に焼き付いた存在だが、本人と変わらない存在でもある。恋人である彼に会いたいと思うのも、十分に理解できる行動だった。

 それが最後の挨拶となれば、なおのことだ。

 これを意味することは、フェーナ・ノヴァ・オーヴァチュアの聖剣を引き継いだ者は、自分のものにしたということ。

 シャルはどうやったのか、ということよりも、今彼を解放させたいと思う気持ちの方が強かった。

 同時に眠らせてあげたい。そう強く思ったとき、聖槍が問いかけてくる。どのように使いたいのかと。

(そういうことか。俺は槍だから気にしなかったが、彼女はレイピア使い。使い手がレイピアを使わないなら、自分に使いやすい聖剣へと変えたはず)

 つまり、それが自分のものにするという意味だ。

 ならば、と彼は聖槍へ意識を向ける。同調させるように声へ意識を向ければ、力に宿るものを感じ取れるようになった。

(なるほどな。俺は槍のままでいい)

 剣も使うが、他とのバランスも考えれば聖槍がいいと思う。聖槍を手にした戦いのときも、槍が欲しいと思っていたところだ。

 聖槍だからこその利点もある。形を変える必要はない。ただ、自分の槍となってくれればいい。

 問いかけてきた声に答えれば、強い光を放ちだした。

 手にしていた聖槍が軽くなったと感じたとき、目の前に一度だけ見た男性が現れる。聖槍の使い手であったイェルク・ソレニムスだ。

『まさか、このタイミングでやるとはな』

 どことなく笑っているような表情で見てくるイェルクに、シャルは笑ってみせる。感謝しろと言うように。

『あぁ…感謝するべきなのだろう』

 たとえ本人ではない焼き付いた意識であっても、彼らは本人達と同じ記憶を持ち、同じ感情を持つ。互いを恋人と認識しているのだ。

『ありがとう。私達を会わせてくれて』

 フェーナが微笑むのと同時に、二人の姿は光の粒となって消え去った。

「シャル、合図よ!」

 感傷に浸る時間もなく、精霊からの合図はやってくる。こちらの動きに合わせて、中も動くというものだ。

「……聖槍よ」

 握り締めた聖槍。小さく呟くと、以前よりも格段に強い力が解き放たれていく。

 これなら一撃で消し去ることができるだろう。塵も残さないほどに。

「頼むぞ、精霊達」

 向こうは問題ない。いつ動くのか、わざと声に出してから斬りかかれば、あとは精霊と村の中にいる仲間を信じるだけ。



 明るくなりだした空に、まだ終わりではないとセルティがリーシュを見る。

 魔物はすべて倒したが、村中に撒き散らかされた花粉が問題だ。効果は人それぞれのようだが、どちらにしても毒に変わりはない。

「精霊の巫女なら浄化ができるだろ」

「できますが、一気になんて……」

 一人ずつやったとしても、自分の力では無理だと思う。いくらなんでも、村すべてを浄化することなどできない。

「できる。血の解放をしているだろ」

 血の解放という言葉に、ハッとしたように見る。やってみたことは間違いないが、精霊達は応えてくれなかった。解放されていないのだ。

 自分には女神の力を使う資格などない。そう突き付けられたのだと思っている。

「……リーシュ、お前は使えるはずだ。お前の影響を受けたのがいるということは、血の解放をされているということだ」

 セルティの視線がヴェルトへと向けられれば、なにを言っているのかと言いたげにするリーシュ。

「あいつは、どう見ても女神の影響を受けているぞ。お前以外にはいないだろ」

 思わぬ言葉に、驚いたように水色の瞳を見開く。

 血の解放をしてもらえなかったのではなく、すでにされている。いつしたのかは思いだせないが、すでに戦う力は己の中にあったのだ。

(私の力……)

 使えるだろうか。今度は不安に陥る。

 今までとは次元の違う力だ。使いこなせるかわからない。使いこなすことができなければ、村は消え去ってしまうかもしれないのだ。

「信じろ、リーシュ」

「ヴェルト…」

「俺達はみんな、お前を信じてる。精霊の巫女だからじゃなく、お前だからだ!」

 ヴェルトを見れば、力強い瞳で真っ直ぐにリーシュを見ていた。

 そのまま他の傭兵達を見れば、同じような表情で頷く。信じていると伝えるように。

「……やってみます」

 自分は一人ではない。ここには自分を信じている仲間がいる。彼らの気持ちが自分を支えてくれるのだ。

 身体の奥底へと意識を向け、そこから力を引き出していく。

(普段と変わらない。ただ、誰かに対してか村に対してかの違い)

 それだけだと考えた辺りで、リーシュの中から強い力が溢れ出した。その力は村全体を飲み込み、本当の意味で戦いは終わりを告げる。






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