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4部 女神の末裔編

聖剣と女神の力2

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 現実に戻ってみれば、自分の横に突き刺さる細身の聖剣。ようやく自分になにが起きたのかを理解する。

 悔しいと思ったとき、突然空から降ってきたのだ。自分の隣へ突き刺さった瞬間、彼は彼女と会ったのだ。語り掛けてきたのも、この聖剣だと気付く。

「やるか…」

 フェーナとの会話は夢でも幻でもない。これは自分に渡された、外の魔物と戦える力だ。

 自分のものにしなくてはいけない、という過程はあるものの、これでまともに戦うことができる。それならやるだけだと剣を手にした。

「ヴェルト…」

 驚いたように見るリーシュと、聖剣を手にしたと気付いて笑うセルティ。

(面白くなってきたな)

 この土壇場で聖剣を手にした青年。その力がどのようなものなのか、彼は理解しているのだろうかと思い、表情を見て愚問だと思い直す。

「傭兵組合の情報屋、だったな。シュトラウスの名を継ぐなら、結界ぐらい問題ないな」

「問題ありません」

 ならば、下がっていろと彼は言う。この先、足手まといにしかならないから。

 困惑したのは一瞬のこと。すぐさま了承すると、シザは三人の傭兵を下がらせる。リーシュも下がらせた方がいいかと思ったのだが、彼女はヴェルトの気持ちを左右する存在。

 このままでいいのかもしれないと思い直す。彼女を守ろうとすれば、実力以上の力を発揮する。

(それに、あのハーフエルフ……)

 名乗り合っていないことから、誰なのかはわからない。わかるのは、この場にいる誰よりも強いということと、精霊の巫女と関わりのある人物だということ。

 任せていいだろうと視線だけで語り掛ければ、三人の傭兵達もわかったと頷く。

「リーシュ、そこから動くなよ。一応、彼が守ってくれそうだが……そう簡単に使える力でもない」

「はい…」

 どことなく不安げに見るリーシュに、問題ないと笑いかけるセルティ。

「見せた方が早い。見せれば、この人間ならやれるだろう」

 さすがにリーシュでも理解できなかったのだが、剣を一振りしたのを見て驚く。彼もだとは思わなかったのだ。

 封じを解かれた剣は、どこからどう見ても聖剣だった。

「人間、見て学べ」

 セルティが言えば、聖剣を握り締めていたヴェルトも気付く。助っ人として現れたハーフエルフが持つのは、自分が今手にしたものと同じだと。

「お前なら、見ただけで十分だろ」

 すべてを見透かしているようなハーフエルフで、不愉快だと彼を見る。自分がすることはあっても、されることは嫌いなのだ。

「リーシュが選んだ男なら、これぐらいやってもらわないとな」

 馴れ馴れしく呼ぶなと思ったが、今はセルティに噛みついている場合ではない。この聖剣を自分のものにして、目の前の魔物を倒すのだ。

「聖剣よ…」

 目の前で解き放たれた力。彼は自分のものにしているのだと、ヴェルトでもわかる。

 力強く輝く聖剣は、今手にしているのよりも強い。これだけの力を発揮することができるということ。

(彼女が使うには、これがいいんだろうな。けど、俺はこれじゃダメなんだ。そうだな……俺はもっと重い剣がいい)

 ニヤリと笑ったのは、聖剣に問いかけられた気がしたのだ。どんなものがいいのかと。

 だから答えた。自分が使うなら、もっと重い剣がいい。普通の長剣と変わらないものでいいが、重さは欲しいと。

 まるで力の意識が流れ込んでくるかのような感覚。力に意識がある、ということ自体がおかしなことなのだが。

(この力は……この世界を守ってきた者が生み出したもの)

 薄っすらと感じ取れるのは、世界を守ろうとした者がいたということ。この力を使って戦った者もいた。

(力を積み重ねているような感じだな)

 言われなくてもわかるのは、この力を使って戦っていたのがフェーナだということだ。

 そして、今度は自分が使う。さらなる力を積み重ねて。

「……俺に、力を貸しやがれ。聖剣よ!」

 聖剣と意識を同調させれば、フェーナの姿が見えたような気がする。実際には見えていないのだが、この中で生きているような錯覚に陥ったのだ。

(これは、一種の契約みたいなものか)

 精霊契約を交わしたときと、感覚が似ていると気付く。聖剣という存在と契約を交わしたのだ。

「ヴェルト!」

 目の前に迫る蔓を見て、慌てたように呼びかけてくるリーシュ。けれど、大丈夫だと言うようにヴェルトがニヤリと笑う。

 左手に握り締めた聖剣は、輝きながら形を変え始めたのだ。

 聖剣の輝きは身体の痺れを治したどころか、疲れ切っていたはずなのに力がみなぎってくる。今までの戦闘などなかったかのように。

 これならあの魔物を倒せる。

 力の使い方はなんとなく理解したつもりだった。幸いにも、目の前で見せてくれている。あとは実戦でどうにかするだけだ。

「目障り…力…スベテ食らウ……」

 ヴェルトが聖剣で蔓を切れば、魔物は言葉を話し始めた。簡潔に事情を聞いていた傭兵達も、さすがに魔物が喋ることに驚く。

 本当に喋るとは思わなかったのだ。

「食わせるかよ! これは、色々な奴らが積み重ねた力なんだからな!」

「その通りだな。この世界を守ってきた者達の想い、魔物風情に食わせる気などない」

 喋ってくれたことでわかったこと、それは目の前にいる魔物が外から来た親玉であろうこと。倒せばすべてが終わることだろう。

「精霊の言葉が聞けるなら、村の外と合わせられるな」

 この魔物は外の魔物と同時に倒す必要がある。イクティスからそう連絡が入ったのだ。

「あんた、精霊の声が聞けるのか?」

「いいや。だが、連絡を受け取る手段があるだけだ」

 さすがに秘密だと言われたが、精霊からの連絡を受け取れる手段など言えないかとヴェルトも納得した。

「受け取る手段はあるが、直接声は聞けない。露払いはしてやるから、あとは任せるぞ」

 何事もないように蔓を切り落とせば、攻撃のすべてを引き受けるセルティ。苦もなくすべてを受け止める姿に、ヴェルトは実力を垣間見た気がした。

 あくまでも垣間見ただけだ。自分に見せるため聖剣を使っているが、彼は本気で戦ってはいない。底知れない強さを秘めている。

「イルフィル、タイミングを教えてくれ」

『承知した』

 契約を交わした風の精霊へ呼びかければ、すべてを聞いていた精霊もわかっていると言うように答えた。

 言われるまでもなく、この村を守るために動くつもりだったのだ。

 契約を交わしたことで主を優先するとはいえ、精霊にとって精霊の巫女は特別だ。当然、この村が大切なことに変わりはない。

 守るためならなんでもすると思うことも、当たり前なことだった。

「なら、やるとするか」

 聖剣を構えると、ヴェルトは合図が来るのをひたすらに待つ。セルティの動きを見ながら。







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