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4部 女神の末裔編

聖剣と女神の力

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 銀色の閃光が閃く村の中。魔物の攻撃を苦も無く受け止めるハーフエルフを見ながら、ヴェルトは悔しげに拳を握り締めた。

 たった一人の女性を守るためにひたすら鍛え上げてきた剣術。魔力がないとわかっていたから、これだけでも守れるようにと思ったのだ。

 足りないと思っていたからこそ、精霊からの提案を迷うことなく受けた。精霊の力を得るために。

(まだ、足りねぇのかよ)

 あのような魔物と戦うことができなければ、この先彼女を守ることはできない。

(力が、欲しい。もっと強い力だ。外の魔物と戦えるほどの力が……)

 精霊の力で足りないというなら、それより強い力を手に入れるのだ。たとえどんな代償を支払っても、構わないとすら思っていた。

『その気持ちに嘘偽りはない?』

 次の瞬間、どこからか聞こえてきた女性の声。なぜか警戒心を与えない声で、ヴェルトは視線だけで周囲を確認する。

『あなたは、彼女を守るためならどんなことでもすると、そう言うのよね』

「あぁ、なんだってするさ」

 この気持ちに嘘偽りはないと言えば、一瞬にして風景が変わった。

 真っ白な空間へ放り込まれたような感覚と、どこかで感じたような力に包まれている感覚。

 目の前には一人のハーフエルフが立っている。なぜかハーフエルフと断言できたのだ。

 見た目ではエルフとハーフエルフを区別することはできない。魔力を持たないヴェルトは、相手を魔力で判断することもできないというのに、直感がハーフエルフと告げている。

『精霊の巫女といた影響かしら。少しばかり特殊のようね』

 クスリと笑った女性は、初めましてに思えない。ずっと身近にいたような気はするのだ。そんなことあるわけないのに。

「何者だ」

 まずは相手が誰であるかを知ろうと思う。この空間も気になるが、信用していいのかも確認したい。

『私はフェーナ。フェーナ・ノヴァ・オーヴァチュアよ。正確にはこの聖剣に焼き付いた意識、かしら。本人ではないけれど本人といったところ』

 名前を聞いた瞬間は警戒したが、聖剣と聞いた瞬間に警戒心は解けた。

 嘘だと思い警戒したのは、彼女が死んでいると知っているから。けれど聖剣と聞けば、そのようなこともあるのかもしれない、と意識が変わったのだ。

 アシルやシザから聞いておいてよかったと思う。そうでなければ、この状況を瞬時に理解することはできなかった。

 聖剣に焼き付いた存在というのは、正確に理解したわけではない。けれど彼女が本物だと思うことはできる。自分を包む力が聖剣のものだとわかったからだ。

「ずっと、俺の周りにいたのか?」

『えぇ、いたわ。あの子を守ろうとしているのがわかったから』

 リーシュを示すのはわかるが、なぜ彼女を守るからなのかはわからない。目の前にいる彼女と縁があるとも思えなかった。

 不思議そうにしていると、フェーナはクスリと笑う。

『精霊の巫女とは繋がりがないけれど、彼女の祖になる女性は私の友人なのよ。私の大切な友人』

 この言い方は正確ではないわね、と苦笑いに変わる。彼女はフェーナであってフェーナではない。自分の友人と言っていいのかは悩ましいところだ。

『外からの攻撃によって、私は目を覚ましたわ。そのとき、絶対に彼女は動くと思っていた。世界を見守る者の一人として』

 だから、自分の力は彼女を守る者へ与えるのだと決めていた。

 誰に与えるか決めていたのに動かなかったのは、聖剣の力を渡したところで自分のものへできなければ、まったく意味がないから。

「どういうことだ」

 言われていることは、聖剣を渡すということなのはわかっている。渡されただけでは、自分のものではないという意味は理解できない。

『これは私の聖剣よ。聖剣は基本的に持ち主しか使うことができない代物。だから、あなただけのものにしなければいけない』

 理解できたかと視線が問いかけてくる。

 ヴェルトはなんとなくと頷く。目の前に浮かぶ聖剣は、彼女のための聖剣。レイピアと変わらない細身なのを見れば、一目瞭然だ。

(あれは、俺には使いづらそうだ)

 自分が使いやすいものにする。作り変えるのだと、なんとなく理解した。

「なるほどな。神の力ともなる聖剣を、平時に作り変えるのなんて、無理だよな」

 だからこの瞬間に接触してきたのだ。今ならあの魔物を倒すために、聖剣を自分の物へ作り変えることができるかもしれないと。

 わかってしまえば、文句など言えるわけがない。当然のことだとすら思ったほど。

『あなたはなんでもすると言ったわ。これを自分のものにしなさい』

 それが渡す条件だと言われてしまえば、ヴェルトはニヤリと笑った。

「言われるまでもねぇ。そんな細い剣、俺には使いづらいだけだからな」

 作り変えていいなら、むしろありがたいぐらいだと言ってみせれば、フェーナは楽しそうに笑う。彼を選んで間違いないとすら思ったほどだ。

『一応、作り変えることができなくても力は使えるわ。私がサポートする形でね』

 自分のものにしてもらいたいところだが、簡単にできることでもないと思っている。

 ヴェルトもわかっているから、それは助かると頷く。なるべくなら自分の力でやりたいところなのだが、未知なる力を使うのだ。

 絶対にやれるという自信はない。

「限度はあるのか?」

『私という存在が消えるまでよ。消えれば聖剣は二度と使えないわ』

 どれぐらいもつかなど、正確な情報はないと言われてしまえば、ならば一回でどうにかしようと闘志が燃え上がる。

 いつ消えるかわからないものを持っているのは、さすがに困ると思ったのだ。

『もうすぐ、空に月の光が戻る。この世界を守る輝きとなって……。虹の女神殿に伝えておいてちょうだい』

 どういう意味かとヴェルトが見れば、伝えればわかると一言。

 このまま説明しているような場合ではない。精霊の巫女といるならば、自然と知ることができるだろうと言われてしまえば、この場は引き下がろうとヴェルトは頷く。

 彼女の言う通りで、この場でいつまでも話している場合ではない。今はあの魔物を倒し、村を守ることが第一だ。

「伝言は間違いなく伝えておくさ。悪いことじゃないみたいだし」

 聞く限りでは、これは悪いことではない。なにか、この戦いでの救いとなるようなこと。

 それが相手の望むものであるかは別として、と思ったのはなぜかわからない。あの女神が望んでいないことが起きる、と思ってしまったのだ。

『勘が鋭いのね、あなたは』

「そうじゃないとやっていけなかったからな」

 自然と身に付いたものだと言えば、フェーナは笑った。

『頑張りなさい』

 外からの魔物は手強いわよ、と言うと姿は薄らいだ。現実へ戻ろうとしているのだ。






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