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4部 女神の末裔編

助っ人現る3

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 このままではどちらも倒すことができない。それどころかこちらがやられてしまう。

 そこまで考えたとき、目の前で蕾が花開いた。

「一歩遅かったか!」

 気付くのが遅すぎたと手を握り締める。ゆっくりと開かれた蕾は、同時に花粉のようなものを撒き散らかす。

「クッ…」

 降り注いだ花粉を浴びれば、身体が痺れて動けなくなる。

 幸いなのか、ヴェルトは痺れるだけで済んだ。けれど他は違う。それぞれ症状は違うようで、痺れている者もいれば苦しげにしている者もいた。

「なんで…」

 このとき、花粉を浴びずに済んだのはリーシュだけ。どうしてと驚く少女が真相に気付くのは、さほどかからなかった。

「風…ヴェルト…」

 自分を守らずに、リーシュを守るために精霊の力を使ったのだ。

 だから浴びずに済んだと知れば、悔しくて涙が出そうになる。戦えないことがこれほど悔しいなど、考えもしなかった。

「どうして…」

 どうして自分だけ無力なのか。戦えれば、足手まといになることもなかったのに。

「まだ、終わってねぇ……」

 痺れた身体で一歩を踏み込むと、目の前に蔓が迫ってくる。

「ヴェルト!」

 リーシュの悲鳴が聞こえる中、いかに軽減させるかを考えていた青年。死ぬ気などはなく、この場だって切り抜けようと頭をフル回転させている。

「悪い……待たせたな」

 次の瞬間、割って入った男性が一人。思わぬ助っ人に、誰もが驚きで動きを止める。

 ここにきて、助っ人が現れるとは思っていなかったのだ。

「セルティ…」

「あぁ、もう少し早く来られたらよかったんだが。さすがに騎士団の仕事を終えた後でなければ、動けなくてな。外はイクティス様が向かった」

 闇夜の中、月明かりに照らされた人物はセルティ・シーゼル。北の大国で騎士団長を務めているハーフエルフだった。

 彼本人が来てくれたらと思いつつ、無理だと思っていたリーシュは、あまりのことに言葉を失う。

 彼だけでも驚きなのに、もう一人連れてきているとは思わなかったのだ。

「状況を手短に詳しく話せ」

 剣を構えると、魔物の詳細を寄越せと言いながら戦闘に入るセルティ。希望が見えた瞬間でもあった。



 聖槍の一撃ですべてが終わる。そう思っていたシャルとイリティスは、思わぬ展開に苦戦を強いられていた。

 体内で力を放つように聖槍を使った瞬間、シャルは逃げられたと感じたのだ。それ自体は間違っていない。外へ現れた魔物は、根を使って村の中へと入った。

 すぐさま追いかけようとした三人は、その場に現れた蕾と無数の植物型魔物と戦う羽目に。

 しかも、なぜか力が増していく。なぜなのかと思っていたところ、リーシュからの連絡が入る。聖槍と聖弓の力を利用して成長していると。

「やられたわね。最初の一撃で力をすべてものにされたということだわ」

 当然ながら、その前に使っていた聖弓の力も取られているのだろう。動きを止めようとして効果がなかったのも、力を吸い取ったからかもしれない。

「成長すれば強くなる。強くなれば、雑魚も強さを増す。困ったものですね」

 アシルが魔物を斬り捨てながら言えば、シャルの表情も険しくなる。

 今はまだ叩けているが、強さも増しているなら想定より早くに限界がやってくるかもしれない。

 早く手を打たなければいけないのだが、聖槍が使えないとなれば自力でどうにかするしかない。厄介な魔物がやってきたものだと思う。

 これは聖槍や聖弓の力を想定して送り込まれた魔物だ。

(つまり、同じような力を持つ者を増やしたところで意味がない)

 手数がかかっても、聖槍に頼らず倒すしかないということになるが、再生機能がある限り簡単にはいかない。

 早く中へ行くべきなのもわかっていたが、それすらできない状況に苛立つ。さすがにシャルでも苛立ったのだ。

「シャンルーン、周囲の魔物だけに専念して。あなたの力も成長の源になってしまうかもしれないわ」

『わかった』

 聖弓の力はそのまま聖鳥の力。魔物が成長する源になっている可能性が高い。

 どちらも封じられてしまえば、イリティスでも想定外だと険しい表情を浮かべる。

「二人とも、まだ大丈夫かしら」

 自分は後方にいるだけだからいいが、魔物と直接戦う二人はそうではない。自分よりも体力を奪われているだろう。

「俺は問題ないです」

「まだいけますよ。雑魚の相手しかしてませんから」

 その雑魚は数が多くて、一番動いているのがアシルだ。大丈夫ではないだろう。

 このままではいけない。わかっていても、打つ手が思いつかないのはイリティスも同じこと。

(グレンを呼んだところで、聖剣の力も成長の源になってしまえば意味がない)

 それとも、彼の力なら通じるのだろうか。一瞬考えてしまったが、確証がない以上は呼ぶこともできない。呼び出して、魔物がさらに成長する結果になったら大変だ。

「お困りのようですね。僕にも、手伝わせていただけますか」

 悩むイリティスの前に、場の空気に似合わないほどにっこりと笑いながら現れたエルフの男性。

 髪色が見知ったものでなければ、さすがに警戒していただろう。

「まさかと思うけど」

「そのまさかです。イクティス・シュトラウスと申します。今はのんびりお話をしている場合ではないでしょう。加わります!」

 笑みを浮かべていたのが嘘ではないか、というほど鋭い視線を浮かべている。

「あぁ、ついでに報告しておくと、中にはもう一人行っているので、ちょっとやそっとではやられません。安心して、こちらに専念してください」

 誰が助っ人にと思ったが、今は彼の言うことを信じてこちらをどうにかするしかない。

 イリティスが頷けば、シャルは心当たりがあるのか微かに笑う。

(この方がイクティス殿なら、中にいるのはセルティ殿か。問題ないな)

 この場を切り抜けられそうだ、と剣を握り直す。

「イクティス殿にお任せします」

 それまで聖槍は使わないという意思表示をすれば、イクティスもなにかを察したのか笑みを浮かべる。彼が仲間内だと気付いたのだろう。

 名乗らなくても、雰囲気だけでなにかしらを察することはできる。間違いないと思えば、イクティスは了承したと言う。

「それでは、ここまで気付いている情報をください。できれば、あちらもわかるなら欲しいですね」

 中もわかるなら教えてくれと言われれば、イリティスがすべてを話す。

 戦力の情報を求められれば、そちらは傭兵組合のことだからとアシルへ任せる。中にいる傭兵のことに関しては、彼から聞くのが一番だ。

 しばらく話を聞きながら戦っていたイクティスは、なるほどと小さく呟く。

「では、反撃といきましょう。そのためには、虹の女神殿に協力していただきたいですが」

 中と連携が必要になる、とイクティスは笑った。






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