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4部 女神の末裔編

助っ人現る2

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 蔓が周囲に襲い掛かると、それぞれが避けながら斬り落としにかかる。

 戦うのはヴェルトとトレセスに傭兵三人。シザが後方支援を行う。

 接近戦も可能とするようなのだが、後方支援もできると聞いて頼んだのだ。彼女の他には、後方支援を行える人物がいなかったことが大きい。

「植物なら火には弱いと思うが…」

「そうではないみたいですね」

 シザが炎を放ってみたが、目の前の魔物には効果がなかった。

 まさか、外で炎を浴びて耐性ができたなど、ここにいるメンバーは知る由もない。たとえ外でのことを知っていても、想像できないことだろう。

「チッ…」

 蔓がすり抜けて後ろへ向かえば、ヴェルトが風を使って切り刻む。

「水使うなよ」

「わかっています」

 相手が植物である以上、水を使うことはできない。火が通じないなら、水が通じる可能性もあったのだが、通じなかったときのことを考えれば使えないというところ。

 通じないだけならいいが、強くなられたら困る。わかっているからこそ、トレセスは自力で戦わなければいけないと思っていた。

 精霊の力をこのような形で封じられるとは思っていなかっただけに、内心は悪態ついているところなのだが、今はそのようなことを考えている場合でもない。

 今は目の前の魔物に関して考えなくてはいけないと、真剣に見る。

「これが噂の魔物でいいですか」

 攻撃をよけながらトレセスが確認を取れば、シザが少しばかり悩んでいるようだ。まだ判断できないということなのか、それとも違うということなのか。

 これに関しては、トレセスどころかヴェルトでもできない。任せるしかないと待つことに。

「外から来た魔物ということは間違いないようです。精霊達が言うには、この世界の存在ではないと」

「なら、倒すことに変わりねぇ。それが俺らでやれるかやれないか、という違いがあるだけだ。できない魔物なら、耐えるだけだ!」

 悔しいことだが、状況は理解しているつもりだった。自分ではどうやっても無駄な魔物、それが外から来た魔物なのだから仕方ない。

 自分でできる限界を超えるつもりはなかった。リーシュを守れなくなるようなこと、できるわけがない。

 斬り落とした端から再生されていく蔓。それだけではない。どことなく魔物の身体は成長している。

「クソッ、なにを元にして成長してやがるんだ」

 心当たりがなさ過ぎて、元を絶つことができない。それでもわかるのは、なにか成長させる元があるということ。魔力なのか、植物や生物なのかさえわかれば、まだ手を打つことができる。

 このまま成長すれば、どうなってしまうのか。

「花が咲く……。この魔物は植物です。このまま成長するということは、蕾ができて花が咲く。可能性ですが」

 確証があることではない。しかし、可能性が高いとも思っているシザ。

 花が咲くと、もっと事態は悪くなるような気がした。それまでになんとかしなくてはいけない。

 シザの言葉を聞いたヴェルトも、直感でやばいと感じた。蕾が開いた瞬間に大量の花粉でも撒かれたら、と思ったのだ。

 村中に毒が撒き散らかされるかもしれない。そんなことをされたら、どこへ逃げてもやられてしまうだろう。

「トレセス、多少の危険は承知で突っ込む!」

 成長させるわけにはいかない。絶対にだと自分に言い聞かせると、ヴェルトは懐へ入るように斬りかかった。

 ヴェルトをサポートするよう、三人の傭兵達も動き出す。この三人はシュスト国へ行く際に同行したこともあり、ヴェルトやトレセスとの連携は取りやすい。

 だからこそ、ここを任されているのだ。

「あれは、根か……」

「断ち切ってみますか」

 攻撃の際に一瞬見えた根に、ヴェルトは渋い表情を浮かべる。あれを切ったら成長が止まるのか、と考えたとき、止まらないと直感で感じた。

「違う、もっと別のものがあるはず……別の……あれだ!」

 身体と呼ぶべき部分は複数の蔓でできており、微かだが穴のようなものが見えたのだ。

 そこへ小さな石が吸い込まれるのを見て、成長の元となるなにかを吸い込んでいるのだと気付いた。

 あの穴を潰せば、吸い込むことはできなくなるかもしれない。他にもあるかもしれないという気持ちはあったが、それでも潰した方がいいと判断して狙う。

 同じようにトレセスや三人の傭兵達も狙うように攻撃を始めた。成長させないために、あの穴は潰さなくてはいけないと。

 凄まじい力が穴から放たれたのは、一人の傭兵が槍を突き刺そうとしたときのこと。

 吸い込むだけと勝手に決め込んでいたことで、攻撃の直撃は避けられない。シザが咄嗟に結界を張ったお陰で、なんとか受け止められたが、腕は焼けてしまった。

 これでは槍を握って戦うことは無理だ。

「マジかよ!」

 しかも、穴はひとつではなかった。いくつもの穴があり、そこからよくわからない力を放ち始めたのだ。

「やばいことしたっぽいな」

 傭兵の一人エアルフ・ジャンバールが言えば、悪いとヴェルトが言う。

「あんたのせいじゃない。これは俺達全員の落ち度だ」

 見つけたのはヴェルトかもしれないが、同じ判断をしたのはみな同じ。そう言ったのがガンツ・オラフェという名の傭兵。

 槍使いの傭兵はクラウド・メナートといい、シザからの治癒を受けている。槍を握れるようになれば、まだ戦えると頼んだのだ。

「攻撃に注意してください。内側に入り込む者と、外から蔓などを切る者で分かれましょう」

 トレセスが言えば、三人がわかったと構え直す。

 外から誰も来ないということは、そちらでも問題が発生している可能性が高い。目の前の魔物は、自分達でどうにかするしかないと思ったのだ。

 戦闘が始まってどれぐらい経っただろうか。爆弾を踏みつけてしまい、穴から放たれる凄まじい力は彼らを追い詰めた。

 気力でなんとか戦っているが、それも限界まで達している。だからといって諦める者は一人もおらず、クラウドも前線に戻って戦っていた。

 それでも状況は打破できない。欠片も希望がないと、シザですら思ってしまったほど。

「リーシュ! 外はどうなってる!」

 聖槍か聖弓の力が欲しい。悔しいが、どちらかがなければこの場は切り抜けられないと、ヴェルトは情報を求める。

「別の植物型と戦ってる。……もしかして、あちらの戦いで使われた力を源に……」

 ハッとしたようにヴェルトが魔物を見た。もしもそうなら、目の前にいる魔物は外での戦いで使われている聖槍や聖弓の力を源にしているのかもしれない。

 それなら成長していることも納得がいく。

「大問題ですね。巫女殿、このことを外にも伝えてください」

「すぐに!」

 イリティスへ伝えれば、あちらでもなんらかの対応を考えてくれるだろう。

 おそらく、聖槍と聖弓の力を止めるということになる。戦況がさらに不利になったな、とヴェルトは舌打ちした。





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