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4部 女神の末裔編

女神の一時帰宅2

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 一通りの話を聞いたイリティスは、一晩休んだら戻るつもりだったのを取りやめ、アクアの星視が終わるのを待つことにした。

 グレンの元へ連絡がくることになっていたから、結果を聞いてからと思ったのだ。

 すでに精霊から、訪ねることへの了承はもらえている。精霊の巫女から出した連絡では駄目だったが、セレンからの連絡は断らなかった。

 断れなかったのだろうとは思っているが、これでなにを隠しているのか確認できるかはわからない。素直に話してくれることを願うしかないのだ。

「シュレに頼まれたか?」

「えぇ、聖弓を使える場所の提供をね」

 共有の部屋で待っていれば、グレンは何事もなかったかのように現れた。

 それだけで連絡がきたのだとわかる。

「星視の結果は詳しく聞いてない。とりあえず、シオンの無事は確認できたそうだ」

 このままいくと、セレンに全員戻ってくることになるだろう。そのとき話せばいいと思い聞かなかったと言われれば、苦笑いを浮かべながら頷く。

 少なくとも聖弓や聖槍を継いだ者達は一緒に聞いてもらいたいところだ。

 それに、とイリティスは思う。この先、聖剣を継ぐ者も現れるはずだ。話をするのは、すべてそろってからでもいいかもしれない。

「シオンの無事がわかっただけいいだろ。帰れないなにかは起きているが、それ以外の問題はないと思っている」

 さほど心配はしていないと言うグレンに、そうね、と答えるイリティスは、正直彼のように信じ切れていなかった。大丈夫と思いたかったが思えない、というのが正直な気持ち。

「もっと自信を持て。イリティスがいるところに、あいつは必ず戻ってくる。なにがあってもだ」

 真っ直ぐに言われた言葉は、彼が信じる一番の理由だ。だからこそ、彼が簡単には殺されないと信じていられる、最大の理由。

 そのためには、帰ってくる場所は守らねばいけない。

(イリティスを守ることが第一だ)

 世界を守るというよりは、彼の帰る場所がイリティスの元である以上、彼女を守ることが優先される。

「また動くなら、明日アクアが戻るから、聖槍の使い手を連れて行け」

 本当は自分が動きたいと思っているのだが、なにも起きていない状態で動くことはできない。代わりの戦力だと言われれば、イリティスも頷く。

「助かるわ。私は接近戦ができないし」

 護身術程度ならできるのだが、魔物相手、それも外からの魔物ではほとんど役立たないだろう。接近戦ができて、さらに聖槍を使える。

 外からの魔物がやってきても対応できることは、今のイリティスには助かること。

「あの村は、シオンと縁がありすぎる。狙われるのではないかと思ってるのよね」

「あの村を狙うかはわからないが、東と西に現れたなら南にも現れるとは思ってる」

 さすがに、グレンは場所を限定して考えることはできなかったが、それでもイリティスの前に現れるとは思っていた。

 自分だけならわかるが、都合よくアクアの前にも現れるというのは疑問に思う。意図的に狙われたのではないか、と思う方が納得できたのだ。

「なにか、そこにも理由があるのかしら」

 外からの魔物が襲い掛かる理由。なにかなければ、都合よく現れるわけがない。

「俺は、シオンの力を持つからだと思っていた。少なくとも、アクアの星視を合わせて考えても、俺が狙われる理由はこれしかない」

 シオンと同じく太陽の輝きを表すなら、狙われて当然だろうと思っている。

 力に惹かれて襲い掛かるのではないのか。言われた言葉に、なるほどとイリティスは納得した。

「元を辿れば、私の力もシオンだものね。当然、私の力で眷属となっているアクアも同じということかしら」

 太陽神と虹の女神は別を表すが、彼女を虹の女神と成した力は太陽神の物。そう考えれば、イリティスもシオンの力をもつのと同じ。

 イリティスの力で眷属となり、不死となったアクアにも同じくシオンの力があると判断されているのかもしれない。

 それに、とグレンは言う。彼女が持つ竪琴はシオンの力で使えるようになっている。ここも理由のひとつではないのだろうかと。

「星の女神が与えた竪琴を再び使えるようにしたのは、シオンだったからな。身を守るために必要だったとはいえ、こうなると少し後悔だな」

 苦笑いを浮かべながら言うグレンに、イリティスも同意する。

 三千年前とは違って、今は魔力だけでも戦うことを可能とするのだが、それでも戦闘には向かない。自分以上に戦いは不向きだとわかっている。

 狙われることとなるなら、その可能性を与えるような真似はしなかっただろう。

 聖槍を継ぐ者が現れなかったら、今頃は仲間を失っていた。

「ディアの聖剣は北だとわかっているが、今は確認をする余裕がない。星視でなにかわかればいいが、隠している場合は無理だ。今の問題は継いだ二人が自分のものとすることと、フェーナの聖剣だ」

 なるべくなら、北はギリギリまで関わりたくない。月神の転生者がいるということもあるが、すべてを知っている者がいるのは大きいのだ。

 行くときは彼らと関わるとき。そう決めていた。

「北に関わる時期は、あなたに任せるわ。一番グレンが絡まれるでしょうから」

 英雄王と伝えられている以上、グレンに対して気を遣う者が現れるだろう。注目も浴びるだろうし、問題が起きたらと考えれば、なるべく近づきたくないと思っているのは知っていた。

 イリティス自身はいつ北へ行っても気にならないので、タイミングは任せようと思う。

「まぁ、必要が出たらすぐにでも行くかもな」

 苦笑いを浮かべたまま答えるグレンは、行くと面倒なことになりそうだ、と考えているのがありありと出ていた。



 翌日、アクアが戻る時間もわからないことから、イリティスは精霊を先に訪ねることとした。どちらにしても、誰かを連れて行くと答えてもらえないかもしれない。

 ならば一人で行くべきだろうとも思っていた。

『お初にお目にかかります。虹の女神よ』

 着くなり、すぐさま声をかけられたイリティスは、目の前に浮く光の塊を見て精霊だと気付く。

 以前シオンが会ったときも光の塊だったという話を思いだすと、精霊には実体がないだけではなく、自分達のような姿すら持たないのかもしれないと思う。

 世界を見守る存在という意味では、自分達よりも彼らの方が正しいのではないか。すべてを見ていてくれるのだから。

「あなた達をどう呼べばいいのかしら」

 精霊達には名前が存在しない。少なくとも、イリティスが知る限りでは名を持つ精霊はいなかった。

 昔の仲間が契約していた精霊なら、仲間がつけた名があるのかもしれないが、聞いたことはない。契約精霊は主にしか従わないからだ。

 主と契約精霊だけの大切な名を暴くような真似はできない、という気持ちもあった。





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