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4部 女神の末裔編

シュスト国

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 傭兵組合の傭兵達がひっそりと集まる水連亭。十日ほど滞在して、砂漠越えの準備を行ったヴェルトとトレセスの二人。

 同行するのはアシルとシザに三人の傭兵達。大人数で行くには目立つだろうし、腕利きが数人いればいいとヴェルトが言った為、アシルが選んだ。

 もちろん、実力の確認がしたいと自ら手合わせまでしている。

 これが実力の確認だったのか、それともただ自分がやりたくてやっただけなのか。トレセスは後者だろうなと、苦笑いを浮かべながら見ていた。

 いや、どことなく呆れていたかもしれない。

 準備を整えるのに時間をかけてしまったが、砂漠へ行くのだと思えば長くはないだろう。適当な準備で越えられる場所ではないのだから。

 それに、とヴェルトは思う。帰りの砂漠越えも考えなくてはいけない。

 シュスト国で砂漠越えの支度ができる保証はないのだ。そのときはどうするか、という部分もアシルと話し合って決めた。

 その結果、持ち物が多くなった気もするが仕方ないとヴェルトはため息をついたほどだ。

 傭兵達を見ながら、手を借りられたのはよかったと思う。彼らは全員、魔力装置を持っていたのだ。

 どうやらこの地に来るなら必要だろうと、組合から渡された物らしい。アシルとシザは二度目の砂漠だが、他の三人は初めての砂漠で助かったと言いながら見せてくれた。

(魔力装置か……南にもあったという噂だが)

 それが原因で国が滅んだとも言われている。以降は、魔力装置が南へやって来たことはない。

 当然だとヴェルトは思う。魔力装置は北でしか作られていないのだから。

(北に行けば手に入るだろうが、高そうだな。そんな金はねぇか)

 あれば生活が楽になる。欲しいと思う反面、高価なものだということもわかるだけに、手に入れることはできない。

 砂漠へ入るまで、そこからシュスト国へ着くまでの長い時間を使い、ヴェルトはアシルとシザから知識を求めていた。

 元々、彼を捜していた一番の理由は知識を求めてのこと。南には伝わらない英雄の物語を。

 この先、誰よりも大切なリーシュと共にいるための知識。聞ける限りのことを聞き出した。

 精霊の試練で見たシュスト国。お陰で懐かしいという気分は湧き上がってこなかった。ただ、随分と寂れたなと思うだけ。

(あのときも思ったが、こんなに酷い状態だったか?)

 実際に見たら、また違って見えるだろうかと思っていたが、実際に見ても感じるものは同じ。

 傭兵達が調べた情報によれば、民は口を割らなかったと言う。なぜかはわからないが、よそ者を警戒してではないことだけは間違いない。

 なにせ、ヴェルトのことは話している。他に理由があってのことだろう。

(暴動のためか)

 すでに水面下で動き始めているのかもしれない。だから話さなかったのだとしたら、どうにかしなければいけないと思う。

(あの兄だ。逆らったりすれば、全員殺す)

 どれだけの民が犠牲になるかわからない。

「一年前に来たが、また寂れたか?」

「そのようですね」

 アシルとシザから見ても寂れたように見えると言えば、自分が出てから酷くなったのだとわかる。

 自分が兄への歯止め役になっていたのか。その辺りだけはわからない。そんなことは考えもしなかったからだ。

 国を出たのは失敗だったのか。何度目かわからない気持ちに襲われ、間違っていたのだろうと思う。

 少なくとも、国を出るときになにもしなかったことは間違いだ。出る前に王位を捨てると、ハッキリさせておくべきだったのかもしれない。

 ハッキリさせても、兄はこうしたかもしれない可能性はある。

「考えても仕方ねぇか。とりあえず、行こうぜ」

「当てはあるのか?」

「ねぇ」

 あっさりと言って入っていく姿に、トレセスは苦笑いを浮かべ、アシルは驚いたあとに笑った。彼らしいと思ったのかもしれない。

 二ヶ月も一緒に過ごせば、ヴェルトという人物の性格はわかる。王になれば面白い国になったかもしれない、と思うほど気に入っていた。

 その意思がないとわかっているだけに、言葉にすることはなかった。

「大丈夫なんですかね」

 簡単に状況を聞かされていた他の傭兵達だけは、不安げに街並みを見ている。

「問題ない。武力行為が必要となったとき、お前達は力を貸してくれればいいんだ」

 そのために連れてきた三人だ。他のことは、本人達の意思に任せると言えばアシルはヴェルトを追った。

 石造りの家が並ぶシュスト国。砂の海と同化しているように見えるほど、緑はほとんどない。

 三千年前と変わらない石造りは、この砂漠地帯で唯一の素材と言っても過言ではない。これしか住居を造る手立てがないのだ。

 緑がまったくないわけではないが、すべて城の庭に使われている。

 それどころか、オアシスを中心に城は造られているなどと、民は知らないことだ。

「マジかよ。つまり、王族は水に困らないってわけか」

「あぁ。王族と護衛騎士がやたら優遇されてるってわけさ。クソだろ」

 吐き捨てるように言うから、全員の視線がお前も王族だろと言いたげにしている。

「なんだよ。トレセスだって優遇される側だからな」

 自分だけがそう見られるのは不服だと訴えれば、確かにそうだと傭兵達の視線がトレセスへ向く。

 ヴェルトのことばかり気にしていたが、トレセスも護衛騎士である。この国では優遇されていた。

「優遇されているだけのことはしてきましたが」

「魔物討伐するのなんて、お前ぐらいだったもんな」

「えぇ、誰かがついてきて苦労しました」

「行くに決まってんだろ」

 トレセスが苦労したんだな、と憐れむように傭兵達は見る。この王子を護衛するのは大変そうだと。

 くだらない会話をしながら歩き、ヴェルトは周りを鋭く見ていた。あまりにも人がいな過ぎて、これが気になっていたのだ。

 誰か捕まえて話をしようと思っていたが、簡単にはいかなそうだとヴェルトの表情が険しくなる。

「仕方ねぇな。あそこに行くか」

「当てがあるじゃないか」

 おそらく、彼が城を抜け出して遊び場にしていた場所だろう。だから行きたくなかったのかもしれないが、この状況では他に手立てがない。

 だからそこへ行くと決断したヴェルトは、寂れているがきれいな街並みから、ボロボロの外れへと向かっていく。

 さすがにこのようなところに来ているとは思わなかったのか、トレセスも驚いたように見ている。

「ヴェルト様、こんなところにいたのですか」

「あぁ。城から抜け出してた道なりにあるんだ」

 この一言だけで、彼がどこから抜け出していたのかわかりため息をつく。

 ヴェルトと再会してから、一体何回ため息をついたのだろうか、と思うほどトレセスは呆れている。ここまでくると開き直った方がいいだろうか、とまで思う。






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