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4部 女神の末裔編

喋る魔物2

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 想像以上に平穏な日々を過ごしていたイリティスは、ようやく目当ての魔物と対面していた。

 北と連絡を取る日だと聞かされていたことから、同じ日を狙って会うことにしたのだ。

(害はないけれど、さすがにね)

 世間的にも、このような魔物がいるなどと言えない。遭遇した者はそれなりにいるだろうが、魔物が殺さなかったなどと信じていないのだ。

 大体は、運がよかったと思う者ばかり。気付く者がいるとしたら、傭兵が魔物に挑まれた場合だけだ。

「ここへ来てもらって、悪かったわね。あなたが噂の魔物かしら」

 強い者に挑むのが好きな魔物だ。東にいる可能性が高いのではないかと思っていたが、本当にいるとは思わなかった。

 見つけ出したシャンルーンへ、日にち指定をかけて呼び出したのだ。

「儂は構わヌ。知りたいこともあったアル」

 鳥と呼べばいいのか、鳥人と呼べばいいのか悩む魔物。頭は鳥だが身体は人。足は鳥という、三千年前からいる喋る魔物。

 強さをとにかく求めることから、ひたすらに挑むのだが、決して殺しはしない。グレンとシオンも何度か手合わせしているし、話もしている。

 女神メルレールが四つの塔へ守護者として置いた魔物。守ることだけしか本来しないのだが、目の前にいる魔物だけが違う。

 原因は、氷の塔を住処として使っていた月神リオン・アルヴァースだと知れば、二人とも苦笑いを浮かべていた。

「エルフよ、名を聞いてもよいか」

「イリティスよ。イリティス・アルヴァース」

 三千年も放浪していたからだろうか。聞いていたよりも言葉が流暢になっているな、とイリティスは思う。

 もう少し言葉が片言だったと聞いていたのだ。

「アルヴァース……女神の子と同じアル」

「妻だもの。同じで当然でしょ」

「妻? よくわからヌが、わかったでアル」

 理解力的な部分に関しては、やはり魔物だなと苦笑い。もしくは、強さ以外に興味がないだけなのか。

 考えてみたが、おそらく後者だなと結論付ける。

「あなたに名前はあるのかしら」

 女神がつけていればあるのかもしれないが、魔物である以上はないかもしれない。氷の塔の守護者として呼ばれていた可能性もある。

「リオンはブライと呼んだでアル」

 なるほど、と頷く。名がないと困ることから、リオンは呼び名を付けたのだろう。

 名乗り合えるなら、まともに会話ができそうだ。そこまで思うと、彼女は本題に入る。

「単刀直入に聞きたいのだけれど、あなたは外からの異物を感じ取れるのかしら」

 外から来た魔物はこの世界では異物だ。どのような姿であっても、守護者として創られたブライは特殊な存在に違いない。

 むしろ、守護者であるからこそ感じ取れるはず。

「うむ。あの妙な魔物でアルな。見つけては消すようにしているでアル」

 人間臭い仕草で考えると、ブライは最近増えたなと呟く。ずいぶん前から察知していたということだろう。

 さすがだと思うと、この魔物が味方でよかったとも思った。陰で外からの魔物を退治してくれていたのだから、それで助けられた人達がいる。

「鍛えるにはちょうどいいでアル」

「そ、そう」

 どことなく嬉しそうにしている姿を見ると、苦笑いを浮かべるしかない。まさか外から来た魔物を鍛えるのにちょうどいいと言うとは、さすがに思わないだろう。

 こういったところを気に入ったのかもしれない。シオンとグレンの性格を考えれば、納得のいくことだ。

 ブライが外からの異物を感じ取れるということは、東にいることは偶然ではないのかもしれない。

 そんな考えが頭を過ったが、グレンがいるのだから問題はないはずだ。

「それで、あなたが知りたいことは?」

 なにかを聞こうとしていた。ブライが一体なにを知りたいというのか。

 強さだけを求めるのに、自分へ知識を求めることが少しばかり気になっていた。

「太陽の輝きを感じないでアル。守護が薄まっている気がしたアルよ」

「太陽の輝きを感じないって、そんなこともわかるの?」

 シオンの留守を感じ取っていようとは思わない。これも女神メルレールに創られた存在だからだろうか。

 力に敏感なのだろうが、それが気になるのかとも思う。こちらを気にしているとは思っていなかったのだ。

「わかるでアル。儂は女神に創られたでアルから。女神の子だけはどこにいても感じ取れるのでアル」

 なるほどと呟く。女神の力には敏感なのだろう。だからシャンルーンの力に惹かれて、今回は捕まえることができたのかもしれない。

 聖鳥シャンルーンの力は、太陽神であるシオンのもの。太陽の輝きを感じなくなったことから、ブライもこちらと接触しようとしていたのかもしれない。

 イリティス達は精霊から協力してもらえば、少し変わった魔物など捜し出すことはできる。けれど、ブライが力で判別しているなら捜すのは大変だ。

「不在はあっているでアルか」

「えぇ。戻ってこないのよ。だから、外からの攻撃を警戒しているの」

 ブライなら感じるなにかがあるかもしれないと思い、接触するために捜していたと伝えれば、ブライも納得した。

 こちらからブライへ接触しようとしたのは、危険がないか確かめた一回だけ。それ以外は、たまたま出会う以外は会ったことがない。

「わかったでアル。儂も警戒するでアル」

「それは助かるのだけど、なぜ?」

 正直なところ、この魔物には関係ないことだと思う。この世界がどうなろうと、気にする必要はない。

 それとも、守護者という意味で創られたことが響いているのだろうか。世界を守るようになっているのかも、と考えて首を振る。

 そんなことあるわけがない。

「儂は、強い者と戦いたいだけアル。月の輝きとまた戦いたい」

 それだけだと言われれば、力ない笑みを浮かべる。わかりやすい理由だと思ったのだ。

「役立つかわからヌが、女神には兄妹がいたアル」

「大地の女神なら知ってるけど」

 妹だと名乗った大地の女神。聞いた当時、空と地でわかりやすいな、と思ったのだ。

「妹でアルな。兄がいると聞いたアルよ」

「兄!?」

 まだいたのかと驚く。同時に、なぜこのようなことを知っているのかと疑問を持つ。女神がそんなことを聞かせていたのか、それとも知識として与えられているのか。

「天空城の守護を任されていたのが、女神の知識を持っていたアル。退屈だったアルからな」

 リオンのせいでブライだけが、自我を持ってしまった結果なのだろう。

 聞いたというよりは、知識を引き出したというのが正解だろうと思えた。ひたすらに話しかけていたのかもしれない。

 それで知ったこと。助かる情報だ。

「兄のことはわかる?」

「恐れていたようでアル」

「恐れていた……」

 それだけ強い力を持つのかもしれない。もう少し情報が欲しいところではあるが、ブライは恐れていたことしか知らなかった。






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