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4部 女神の末裔編

傭兵との再会2

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 中身はどうなっているのかと、ワクワクしながら入ってみると、案外普通で拍子抜けした。外観と違い、中は誤魔化していないなと思ったぐらいだ。

 それでも決してきれいというものではないので、これがこの街の現状だと思うことにした。

「いらっしゃいませ。お客様、お泊りですか?」

「あぁ。二名なんだが、大丈夫か」

 至って普通の店員。どこにも怪しいところはない。

 考え違いだったのかと思ったが、それを判断するのはまだ早いと思い直す。表向きは宿屋なのだから、これが当たり前だ。

「問題ありません。見ての通り、旅人が減っているので」

 確かに宿の中は人が少ない。おそらく見せかけだろうとわかりつつ、ヴェルトは大変だなと宿帳に記帳する。

 さすがに自分の名をそのまま書くことはできないため、城下で遊んでいた際の偽名にして。

 トレセスも偽名にしたのは、護衛騎士となる家系は知られている場合が多いから。特に、トレセスのような護衛を束ねる立場になれる者なら、どこから漏れているかわからない。

 念には念を入れて、大切な主を守るための行動だ。

 記帳した名を見ながら、店員はハッとしたように二人を見る。

 反応を見た二人は、なにを慌てているのかと思う。そう、店員はどう見ても慌てているのだ。

(さすがに、砂漠越えした先で手配などされてねぇと思うんだけどな)

 そこまで行動が早いとは思えない。トレセスは父王が亡くなってすぐ、国を出てきたと言っていた。

 なによりも、トレセスの偽名だけはこの場で考えたものだ。兄が知っているわけない。

「すみません。ここでお待ち頂けますか?」

「それは…」

「構わねぇよ」

 なにかあれば力でねじ伏せるだけ、と語り掛ける視線に呆れた。

 わかっていたが、ここで一悶着起きそうだ。この先、何回このようなことが起きるのだろうかと思うと、なんとも言えない気持ちになる。

(とんでもない人を主にしてしまった)

 いまさらのように思うと聞こえてきた足音に前を見た。

「そんなピリピリするな。普段通りにしてないと、そっちの方が怪しいだろ」

「すみません。そんなつもりはなかったのですが」

 小声で言われた言葉に、自分がピリピリしていたと気付き苦笑いを浮かべるトレセス。少し警戒しすぎたようだ。

「よぉ、久しぶり!」

 店員と共にやってきたハーフエルフは、ヴェルトを見るなりそう声をかけてきた。

 見せないようにしていただけで、警戒していたヴェルトは表示抜けしたように見る。その人物は、接触したいと思っていた傭兵組合のハーフエルフだったのだ。

「おい、まさかと思うけどよ」

「ここは傭兵組合の持ち家だ。それを宿屋として使ってるだけだな」

 あっさりと言われた言葉。二人ともが思ったことだろう。いいのか、話してと。

 ここまであっさりと言われるとは、さすがに思わない。いいのかと突っ込みたいところをなんとか堪える二人。

「まさかあんたのいるところだと思わなかったが、とりあえず名前は? この前は名乗らなかっただろ」

 色々と突っ込みたいが、目的の人物に出会えたことはいいことだ。捜す手間が省けたのだから。

「場所を移そう。さすがに、ここは普通の旅人も来るからな」

 そうだな、と同意するヴェルト。誰が聞いているかわからないところで、このまま話し続けることはできない。



 場所を移した三人。おそらく、宿の中にある隠し部屋のようなところだろう。

 いくつかある隠し部屋の、一番いい部屋だということはわかる。つまり、目の前にいる彼がここの責任者ということだろう。

「改めて、傭兵組合所属のアシル・エンジェリスだ。南の大陸を調べるために派遣された、組合専属の情報屋に付き添って来た」

「情報屋?」

 南には馴染みのない言葉。二人ともが、なんだそれ、というように見ている。

 気付いたアシルは苦笑いを浮かべながら、南の遅れを痛感した。まさか情報屋が通じないとは、さすがに思っていなかったのだ。

「傭兵組合は東の大陸で主導権を握る組織だ。それぐらいはわかるか?」

「悪いな。砂漠には傭兵の噂までこねぇんだよ。ただ、なんとなくはわかってる」

 シュスト国が閉鎖的なせいで、傭兵組合に関する情報は砂漠まで届かない。二人は砂漠から出たからこそ、東にあるという傭兵組合を知っているのだ。

 それも噂程度のレベル。立ち寄ったところで聞きかじった程度なのだ。

 困ったような、どことなく呆れているような表情で、アシルはどこから話すかと思う。

「いや、いい。傭兵組合の詳細はさほど大事でもないか。情報屋は東では当たり前だ。傭兵組合が各地の情報を集めるための組織。それでわかるか」

 すべてを話していてはきりがないし、噂程度であっても知っているなら問題はない。必要となれば話せばいいだけのことだと切り替える。

 こうなるなら、前回会ったときに話しておけばよかったとも思ったが、その時点では再び会うとは思ってなかったのだから仕方ない。

「問題ない。最低限で考えることができるなら」

「ということです」

「お前な……」

 ジロリと睨むヴェルトと受け流すトレセス。アシルは思わず笑った。

 いいコンビだと思ったのだろう。

「情報屋がいるということは、私達の素性はわかった上で声をかけてきたということですかね」

 無視をすると決めたのか、トレセスはアシルへ問いかける。

 言いたいことはあったが、まずはこちらだとヴェルトも思ったようだ。トレセスへ物言いたげな視線を向けつつも話へ戻る。

「俺達は南の情勢を調べるため、定期的に情報屋と共に来てた。定期的というが、それほど頻繁でもないとは言っておく」

 一度にかかる期間が長いため、さすがに何度も来られるわけではない。支部があればこのようなこともしなくていいのだが、と半ばぼやくように言うアシル。

 なぜか歴代の王から許可が下りない。王が変わる頃になると、情勢を調べるついでに交渉してきていたのだ。

「お前とここで会ったのも、ちょうどシュスト国へ行くためだった」

 まさか抜け出した王子だとは思わなかった。わかっていたら、彼を引き留めていたかもしれないと思っていたほどだ。

「別れたあとに行ってきてな。情報を集めていたときに、城下でお前が使っていた偽名を聞いた」

 当然のことだが、民達はヴェルトが王子だとは気付いていない。

 ただ、見かけなくなったという話を聞いただけだと言う。

「けど、同時期に王子がいなくなってれば予測はできるだろ。さすがに、それがここで会った人間だとは思わなかったけどな」

 偽名だけ知らせていたことから、記帳を見た店員は彼を呼びに行った。呼ばれて向かった先にいたのがヴェルトで、アシルも酷く驚いたのだ。






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