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4部 女神の末裔編

精霊との対話3

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 さすがにすぐさま表情を戻したが、見透かされるのは好きではないのだろう。真っ直ぐに前を見ていた彼が、少しばかり視線を逸らした。

「で、神様がいるのはわかったし、巫女がその家系っていうのも納得だが」

 自分が知って意味があるのか、という部分が気になると言う。

『お前は巫女と関わり続けるのだろ』

「もちろん。俺はずっと傍にいるつもりだ」

 国へ戻る気がないヴェルトは、可能な限りリーシュの傍にいると決めていた。

 自分の事情で離れることはないと思っていたが、リーシュの問題で離れなければいけなくなった際は、おとなしく従う気でいる。

 彼女に迷惑をかけてまで、共にいようとは思っていないのだ。

『力がなければ、この先を共にすることはできない。それだけの事態が起きるのだ』

「はっ?」

 なにを言いだすのかとヴェルトは身構える。この精霊は、自分を試しているだけなのか、それとも本当になにかしらの事態が起きるというのか。

 そもそも、精霊達は先の世でも見透かせるのかと思う。この先の出来事など、誰にでもわかるものではない。

 警戒心が湧き上がる。このまま精霊の言うことを信じていいのかという、警戒心が。

『この世界には外の世界が存在する。かつて、この世界を滅ぼそうとした者が外にはいる』

 南の大陸には七英雄の物語しか伝わっていないことから、突拍子もない話を聞かされる二人。

 さすがにヴェルトの思考もついていけないのか、なんとも言えない表情を浮かべている。

「この世界が神の創った世界なら、神々が住まう世界があると思えばいいのか?」

 なんとか理解したヴェルトが、結論付けたのはこれだった。

『それでいいと思う。我らも外へ行けぬことから、外があり神がいるとしかわからぬ』

 そりゃそうだと頷く。精霊もこの世界の一部として創られたのだから、外の世界など知るわけがない。ならば、どこで外という存在を知ったのか。

 精霊達が外を知ったきっかけもある。そうでなければ、普通なら知ることのない話。

『すべての始まりは三千年前。南には伝わらない英雄の物語がある』

 太陽神と月神の戦いから、その後に起きた外からの攻撃。そして、外から守るために助言をくれた存在。

 それらが語られれば、信じられないと言うようにヴェルトは頭を振る。

『この世界を守っていた光は弱くなり、再び外から攻撃が始まった。巫女はその名のままに動くだろう。我らは実体がない故に、必ず巫女を守れるわけではなく、太陽神達が動けば優先されるのはそちらだ』

 だからこそ、精霊の巫女を守る存在を求めていた。世界の命運がかかった戦いに加わるだろう巫女を守るための、巫女だけの護衛となりえる存在が。

 彼ほど適任はない。ずっと見守っていた精霊達は、満場一致でヴェルトを決めたのだ。

『巫女を守る存在となってくれるのであれば、多少の融通は利かせる。我らにも優先順位があるため、それを越えることはできぬが』

 これが精霊契約を持ちかけた理由だと言われれば、納得するしかなかった。彼らには、彼らにとっての目的があってのことだったのだ。



 目的があってのことだと言われた方が、正直気持ちは楽だと言える。トレセスも構わないと言われたのは、いざとなったときに助けとなるからだ。

 ヴェルトにとって必要な存在と判断された。ヴェルトにとって必要ということは、巫女のためになるということ。

「それで力が手に入ると思えば、悪くないんだろうな」

 考える時間が必要だろう、と精霊から一晩の猶予を与えられた二人。

 行動は変わらないが、考える時間をもらえることはありがたい。思ってもみない話に、一回整理したいと思っていたのだ。

「お前の気持ちは変わらないのか?」

「変わりません。むしろ、さらに欲しくなりましたよ」

 厄介ごとに巻き込まれていきそうな主に、自分もさらなる力が必要だと思ったトレセス。

 ヴェルトが国を継がなくてもいい。それでも主は彼だけだと思っているトレセスとしては、守るために力が必要なら得るだけだ。

「とりあえず、精霊契約のために試練を受けることだけは確定だな」

「はい。問題はその後ですね」

「あぁ……」

 リーシュといることで、国の王位問題より危ないことに首を突っ込むことになるとは思っていなかった。知識が必要だなとぼやく。

 南の大陸で暮らす者としては、十分すぎるほどの知識を持っているヴェルト。正直なところ、シュスト国を継いだとしても問題ないほどだ。

 けれど、文明が遅れている国の知識と、文明が発達している国の知識ではまったく違う。

「どこに行けば手に入るか……」

「もしかして、それをずっと考えていましたか?」

 先のことを考えているのかと思っていたトレセスは、意外だと言うように見る。彼ならもっと先のことを考えていてもおかしくない。

 なにせ、常に先を見て動くのがヴェルトだからだ。

「先を考えるだけの知識がない。争いばっかしてるから、大切なものが失われるんだよ」

 知識など塵ほども必要と思っていなかったのだろうと吐き捨てる。

 もっと違う形で歴史を刻んでいれば、知識不足で困ることなどなかったのに。何度思ったかわからない、先祖はバカだという言葉を思い浮かべた。

「傭兵組合の支部へ行きますか? そこへ行けば、詳しい者がいるかもしれません」

 ヴェルトに知識を与えたハーフエルフのように、他にもいるはずだ。

 悪くないとヴェルトは考える。少なくとも、傭兵達は自分より知識を持っているだろう。各地を移動している傭兵なら、尚のことだ。

「まずは精霊契約だな。終わったら行ってみよう」

 場所はわかるのかと問いかければ、リュナスの港にあるはずだと言う。

 東と行き来するための船が出ている港なら、支部がある可能性は高い。ここになければ、砂漠手前の街だろうとトレセスは言う。

 砂漠地帯に作りたいと思っているなら、可能性は港の方が高いかもしれないとも付け足す。

「確かに、そうかもしれないな。なら、もう休むか。契約を失敗するわけにはいかないからな」

「失敗しろと見ながら言わないでください」

「お前は失敗しても問題ないだろ」

 魔力があるのだからと言われれば、引きつった表情で主を見る。

 確かに魔法は得意なのだが、どうにもそのことを気にしているように聞こえたのだ。

(妬みか…)

 まさか、と思うと、トレセスは横になった。この王子がそんなことぐらいで妬むわけがないと思いながら。






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