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4部 女神の末裔編

虹の女神3

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 傭兵組合は支部が各地にあるので、基本的にはどこであっても情報を得られるのが強み。さらに強みがあるとしたら、傭兵組合お抱えの情報屋だろうか。

 よくもここまで鍛え上げたものだと、イリティスでも感心する。

「ただ、厄介なハーフエルフが一人いるんだよな。面白いからいいんだが」

 厄介なのか、気に入っているのか。一体どちらだ、とイリティスは内心思う。どう見ても厄介だと思っていない。

 表情を見る限りでは、おそらく気に入っているハーフエルフがいるのだ。

「アクアには星視をできるよう待機してもらうか?」

 ここを留守にして油断させるなら、彼女も外へ出てもらうこととなる。出るなら西で待機してもらうのがいいだろうかと、イリティスも頷く。

 彼女に情報収集を求めてはいない。向かないとわかっているからだ。

「シオンがいない今、ここに探りは入るでしょうから、アクアに出てもらう方が安全でしょうしね」

 戦闘能力は一番低い。なにかあったとき、一人で残したら戦うことができないのだ。安全なところにいてもらうのが一番だという気持ちもある。

 それぞれが各地に散らばり、天空城を留守にする。このとき、外からどのような反応があるのかを試すのだ。

 セレンを攻撃してくるのか、それとも世界を全体的に攻撃してくるのか。

「月神の転生者を攻撃する、という可能性も考えておくべきだな」

「……そうね。シオンがわかるのだから、外から来る神となる存在もわかるわよね」

 太陽神と同等の力を持つ月神を見逃すことはないだろう。下手したら、覚醒する前に殺そうと動くかもしれない。

 なによりも気になるのは、それが原因で覚醒してしまうのではないかということだ。

『刺激を与えたら、おそらく覚醒するだろうな』

『ルーンもそう思うかな。転生前の記憶を取り戻すひとつの要因に、魂を刺激するなにかだと思うよ』

 そうね、と小さく呟くイリティス。彼女もシオンとの接触によって刺激を受けていた。

 意図的に彼が封じてしまったことで、しばらくは思いだすこともなかったのだが。それ以前は、シオンと触れ合うことで過去を垣間見ていた。

 月神を刺激するものはシオンだろうが、それ以外にないとも言えない。命の危機に面したとき、刺激される可能性も十分にあった。

 このとき、誰もがわかっていて言わなかった。月神の覚醒は避けられないと。

 シオンが戻らなければ、確実に目覚めるだろう。彼を助けるために。

「私はリーシュの元へ行くわ。なにかあったら連絡してちょうだい」

「わかった。セレンが攻撃された場合はどうする?」

 こればかりは勘でどうにかなるかわからない。察することができるかもしれないが、できないかもしれないのだ。

 ここにも住民がいるだけに、襲われたらほっとくことはできない。すぐさま助けに行かなければいけないのだ。

「時計を使うわ。精霊達に頼めば、時計に連絡を入れられると思うの」

 魔力装置が組み込まれているから、精霊達に干渉してもらうことができるはずだとイリティスは言う。精霊なら同時に知らせも出せる。

 当然ながら、セレンが襲われたときもすぐに知らせてくれるのは精霊だ。

「それなら間違いないか。わかった。俺はアクアに伝えてから、支度して出てくる」

 決めればすぐに動くのがグレン。笑いながらイリティスは見送った。

 彼がいてくれてよかった。暗くならない青空を見ながら、イリティスは心の底から思っていた。

 もしも一人だったら、シオンが帰ってこないこの状態をどうしていたのか。なにもできなかったかもしれないとすら思う。

『心配すんなよ。なにが起きてるかなんてわかんねぇけど、あいつは死なねぇよ』

 待っている人がいるのに、おとなしく殺されるような男ではない。

 ヴェガが言えばシャンルーンも同意するように頷く。普段は口喧嘩するほどの関係だが、気に入らないと言いながら認めているのだ。

 彼はイリティスを残す真似だけはしないと。

『ただ、思うこともある。本気でやばくなったとき、あいつが覚醒しちまうんじゃないかって』

 逆に言えば、月神が覚醒した瞬間に、太陽神の危機を示しているようで嫌な気分だとヴェガは唸る。

 誰よりもシオンの力を知っている聖獣だからこそ、その危機は敵の強さを示すこととなるのだ。

「そうね。もしも覚醒して現れたら、そのときはある程度の覚悟が必要ね」

 外からの攻撃は神からの攻撃と同意。犠牲を出さずに乗り切れるものではないだろう。

「とりあえず、ヴェガは留守番していても、グレンといても構わないわ。好きにしてちょうだい」

 彼の動きを制限する権利は、イリティスにはない。普段はグレンといることを選んでいるし、今回もそのままいるのでも構わないと思った。

『俺はあいつの言ってたハーフエルフが気になってるぜ!』

 グレンについて行こうと飛び出していく姿を見て、声を上げて笑う。

 こういったところはヴェガらしいと思う。リオンともこんな感じで過ごしていたのだろうと思えば、少しは救いになったのかもしれないとまで思えた。

「こうでもしてないと、気になってしょうがないのでしょうね」

『素直じゃないの。リオンと同じだからね』

 積極的に力を貸すと言っているのは、彼が外へ行ったシオンを気にかけているから。それだけではないのだ。

 ヴェガが一番気にかけているのは、シオンと共に行った太陽神の聖獣。

「惚れてるのかしら」

 今までは気にしていなかったが、こうも気にしているのを見ていると惚れているのかと思わなくない。

 聖獣は力そのものでもある。そういったところを考えて、恋とは無縁と思っていたことに気付かされたイリティス。

 創られたことも、力そのものであることも間違ってはいない。けれど、彼らが感情を持って生きているというのも間違いではないのだ。

『ローズとヴェガは、ルーンとは違うから。ちょっとわからない』

 自分には恋心などないと、あっさり言うシャンルーン。だから気持ちはわからないけど、ヴェガはあるかもしれないとも言う。

 感覚で、なにか自分達とは違うと思っているのだが、それがどう違うのかもわかってはいない。

『まぁ、シオンとリオンの影響を受けてるからかもね。ルーンはイリティスの聖鳥だけど、イリティスの力ではないもん』

 だからイリティスの影響を受けるわけではない、と言いたいのだろうことはわかる。

 そしてその通りだとも思う。シャンルーンはイリティスのためにいる、シオンの力だと理解しているのだ。

「私達も動きましょうか。リーシュに連絡を入れてね」

『うん。ルーンはイリティスと一緒』

 ただセレンを空けるだけではなく、外でなければできないことをしようと動き出した。






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