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3部 永久の歌姫編

星視と予言の力3

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「イリティスは明日にでも精霊達を訪ねてくれるそうだ」

 星視を終えた後、グレンへ連絡を入れたアクア。寝ることなく待ってくれていたグレンに、申し訳なくなる。

 けれど、彼は昼寝をたくさんしたから気にするなと笑う。

「そっか…イリティスちゃんに任せたら大丈夫かな」

「だと思うが、イリティスも外の魔物と接触する可能性がある。少し長く出るなら、考えないといけないと思う」

 彼女はアクアに比べれば、多少の接近戦を可能とする。けれど、使うのが聖弓である以上、接近戦になった際は動きに限界があるのだ。

 外からの魔物と戦った際は、絶対的に前衛が必要となってしまう。

「グレン君は行っちゃだめだよ」

「わかってる。だから」

 シャルを借りるかもしれないと言いたいのだ。聖槍を継いだシャルが適任だろうと。

 グレンと共にいるシュレは、イリティスと同じく聖弓を使う。彼ではダメなのだ。

「うん、わかった。そのときはシャルに頼むよ。あたしにはソニアもいるから」

 セレンにいる分には、特に問題もないだろうと思っている。彼は強いから、護衛としても最適だ。

 いざとなればグレンが動く。けれど、それはどこで起きるかもわからないことから、なるべくセレンにいてほしいというのがアクアの気持ち。

 言わないが、イリティスも思っていることだろう。わかっているからか、グレンもなるべく動かないようにしている。

 そうでなければ、彼ならどこであろうと動く。じっとしていることは苦手だから。

「詳細は帰ってからでいいぞ」

 星視を終えてすぐに連絡してきたことを考えれば、早く寝ろと言いたいのだ。すぐに城へ戻ることもわかっているから、なおさらに思う。

「じゃあ、これだけ。シオン君は無事だった。それしかわからなかったけど」

「それだけわかれば、十分だ」

 自分とは違い、それだけで問題ないと言うグレン。

「アクア、心配はするが、あいつが死ぬとは思ってない。だって、ここにイリティスがいるからな」

 あいつはそういう男だろ、と言われてしまえば、そうだねと答える。彼はそういう人物だ。イリティスのためならなんでもやるし、イリティスがいるところに戻ってくる。

 なにを不安がっていたのかと、苦笑いを浮かべてしまったほどだ。

「俺達がするのは、帰ってくる場所を守ることだ。そうだろ」

「うん、そうだね」

 守らなきゃと、再確認するように呟く。アクアには深い意味などない。ただ、シオンとイリティスのためだけにこの世界を守るのだ。

「月神が戻ったら、あたし達はどうなるのかな」

「どうもならない。俺達は絶対の不死じゃないんだからな」

 今までとなにも変わらない。そのときがくるまで、変わらずに過ごすだけだと言う。

 だったら、久しぶりに旅がしたいなと思った。彼と旅をしたのは、まだ不死になる前だけだ。今したら、きっと楽しいと思えた。

「それはいいな。文明もかなり変わってるし、楽しいかもしれない」

 東には定期的に行っていたが、他がどうなっているかは知らない。

 特に、北は旅したいと思っていたのだ。

「残りは放浪してみるのもありか。どれほど残されるかわからないがな」

「うん」

 どちらもが感じていた。この戦いで不死としての自分達は終わるのではないか。そうなれば、最終的には消えてしまう。

 後悔は欠片もない。自分達で選んだ道であり、この戦いに加わるのも自分達の意思だ。

 加わらなかったとして、誰も責めることはしない。彼らは絶対の不死ではないのだから。

「消えたら…なんでもない」

 死ぬと消えるは違う。消えてしまったら、生まれ変わることはできないのだろうか。

 思わずそんなことを言おうとして、なにを言っているのかとやめる。自分達で選んだ道なのだ。本来の寿命を捻じ曲げる行為を。

 それなのに、また生まれ変わることを望むのは間違っている。

「まぁ、望めば奇跡ぐらいは起きるかもしれないが、起きなくても悪くはない」

「グレン君…」

 察したグレンの言葉に、アクアは嬉しそうに頷く。彼が言いたいことも理解できたのだ。

(うん、確かに悪くないかもしれない。グレン君と消えるのも)

 それでも願いたくなる。もしも、自分達に生まれ変わることが許されるなら、もう一度出会いたいと。

(そのためにも頑張らないとか)

 世界が滅んでしまったら、そんな望みも願えない。



 翌日以降の行動は早かった。のんびりと旅路を楽しむことはやめ、神殿の奥にある門を利用して城へ。

 戻るなり女王と話す時間は取ったものの、一日滞在しただけでセレンへ戻ることにしたアクア。イリティスのために、いつでもシャルには動けるよう待機してもらいたかったのだ。

 本人はもちろんだが、彼を連れ出すということでイジャークへも声をかけた。

 さすがにセネシオは連れていけなかったのだが、本人が行きたそうにしていたのは笑うしかない。予言者である以上、連れていたら助かる部分はある。

 シルベルトからも構わないと言われたのだが、なにがあるかわからないからこそ、西から戦力を奪う真似はできない。

「これは、魔力装置ですか?」

 アクアが取り出したのは、鳥の形をした置き物。一見どこにでもあるような物だが、見る者が見れば普通ではないとわかる。

「うん。これはあたし用の魔力装置かな。シオン君が作ってくれた」

 おそらく、これもクレド・シュトラウスに頼んで作ったのだろう。

 竪琴で魔力を使うこともあって、グレンのように道を利用できない。そんな彼女に、メリシル国とセレンを繋ぐ道を使える魔力装置を作ったのだ。

 これがあるお陰で、アクアはメリシル国へ自由に行けている。他は一人で行くことはないし、もし行くときはグレンと行動することが多い。

 だからこれだけあればいいのだと彼女は言う。

「面白いですね。アクア様の魔力にしか反応しないようになっているようですし」

 さすがだとセネシオは笑う。魔力装置の技術は西へ回ってきていない。

 どれだけ親しくしていても、これだけは北のみで受け継がれている技術なのだ。

「アクア様、なにかあればいつでも声をかけてください。予言者として、私の力が必要ならいくらでも手助けします」

「うん、ありがとう」

 彼にはとても助けられたと思っている。予言者としての能力がこれほどとは思っていなかったのだ。

「メリシル国は基本的にはこの国を守ります。ですが、あなた方や北からの要請があれば、いかなることであっても動きます。それを忘れないでください」

 女王が言うと、わかったと頷いて魔力装置を発動させた。この戦いは世界がかかるもの。

 状況によっては、また頼るかもしれない。頼っていいのだと言われていることに、どこか嬉しく思いながら戻った。





※4部の更新は4月1日21時からです。

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