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3部 永久の歌姫編

ひとときの休息2

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 二人に息抜きをさせよう。そんな考えで意見が一致したのは、セネシオとシュレだった。

「今頃、ゆっくり過ごせてるといいね」

「……そうだな」

 名乗りで予言者と知ってしまったシュレ。神官が剣を研ぐ姿に、これはいいのだろうかと思ってしまう。

 普通、神官とは武器を持ってはいないはず。シュレでもそれぐらいは知っている。

「これは気にしないで。僕の個人的な趣味だと思ってくれればいいから」

「あー……わかった」

 どうせ夕方には戻るのだ。それまでの付き合いだと思えば、気にしても無駄だと思う。

(こんな神官もいるんだな……)

 気にするだけ無駄と思えば、シュレは外を眺める。やることがなくて退屈といったところだ。

 集落が近いなら出かけられるが、聞いたところ数日かかると言われてしまい、おとなしくしている。

「神官って、大変だな」

「慣れだよ。とは言っても、隠してるだけのお転婆なんていくらでもいるから、そういったタイプには退屈かもしれないね」

「だろうな」

 遠回しに、隠しているだけだと言われている気がして、そうかもしれないと思う。

 楽しみにしていたグレンの妻も、随分とお転婆だなと思った。彼女も元は神官のはずだが、上手く隠していたのかもしれない。

 それができなければやっていけないのだろうが、そういった意味では王族も同じかと笑う。

「英雄王と、随分仲良しみたいだね」

「それ、本人に言うと嫌そうな顔されるぞ」

 英雄王などと呼べば、間違いなく嫌そうな表情を見せるだろうと言えば、セネシオは笑った。

「だろうね。見ればわかるよ」

 こういったところは同じ考え方をする夫婦だな、と思っていたのだ。根本的なところで、なにかが同じなのだろう。それによって惹かれ合った二人だと、見て思っていた。

「それで、もう一組はどうしてるんだろうな。そっちも配慮しての休息だろ」

「わかってたんだね。あちらはまた頑固だからさ」

 強制的な休みにでもしないと、休んでくれないと苦笑いを浮かべながら言う。

 夜の星視がメインであって、それまでの時間は特になにかしなければいけないわけではない。だからこそ、両方を利用しての休息時間を作ったのだ。

「困ったものだよね。もう少し柔らかくてもいいのに」

 そうは言うが、目の前にいる彼がいい加減なわけでもない。抜くところは抜くことを知っている、それができるというだけのこと。

 ソニアとシャルはその辺りが下手だと、セネシオはのんびりと言う。

「否定はしないが、立場の違いもあると思うぞ」

 さすがに、神官と騎士の違いはあるだろうと思っていた。立場を隠しているという意味でも、セネシオは特殊な立ち位置だ。

 上手く立ち回るのが自然と求められてきたのだろ、と視線が問いかければ頷く。

「まぁ、そうやって鍛えられたとも言えるかもね」

「騎士は守ることを求められるだろうから…あぁなるんじゃないか」

「一理ある。守るという点では騎士に負担がかかるのか」

 だから自分達がどうにかできるかと問われれば、どうにもできない。

 結局のところ、神官でしかないのだ。神官が騎士のことへ口出しすることはできない。

「君も面白そうだね」

「どういう意味だ」

「深い意味はないけど」

 にこにこ笑いながら言うセネシオに、嫌な予感がすると引きつる。

 この後、疲れ切ったシュレがいたとかいなかったとか。



 神官長の手配で、高位神官の治癒を受けたソニアは、こうもゆっくりしていていいのだろうかと外を眺める。

 セネシオから、アクアはグレンといるから問題ないと言われてしまったのだ。

 間違いなく安全であるが、護衛としては離れているわけにはという気持ちもある。だからか、二人で過ごす時間がアクアにも必要と言いくるめられたのだ。

 これも間違っていないと思っているのだが、シャルも待機なのはと思う。

「シャル…」

「却下」

「まだなにも言ってないけど」

 即座に言葉を挟んできたシャルに、少し不快そうな表情を見せる。

「言わなくてもわかる」

 ソニアが言いたいことも、今考えていることもわかっていると言われてしまえば、言葉に詰まった。彼を誤魔化すことはできない。

 目の前にいる恋人を出し抜くのは、ソニアには不可能とわかっていた。

「せっかく休息を頂いたんだ、寝てろ。今は英雄王がいるからいいが、夕方には戻るということだった。戻ったらまた護衛しないといけない」

 そのとき動けない方が困ると言えば、ソニアは黙るしかない。

 これも間違いではないとわかっている。誰がどう見ても、グレンといる今が一番安全なのだ。戻るまでは自分などいらないだろう。

 逆に必要となるのは戻ってから。そうなのだが、ソニアには思えない。

(シャルが聖槍を継いだ……なら、私は必要なのか。昔の仲間であった家系という点でも、シャルの方が……)

 彼の方が自分より状況を理解しているし、力もある。その上で、聖槍まで手にしてしまったら、自分などいらないのではないか。

 そう思ってしまうのも仕方ないことなのかもしれない。

「変なことを考えるな」

「……なんでわかるのよ」

 また読まれたと思えば、どことなく不貞腐れているようにも見える。

「私、そんなにわかりやすい?」

 表に出しているつもりはないのだが、もしそうなら気をつけなくてはと思う。あまりわかりやすいのは良くないだろうからと。

「表には出てないが、自己評価低いしな。どちらかというと、マイナス思考だろ」

 それもすべて育ちの問題だろうと思っているだけに、シャルは直せとまでは言わない。

 シャル自身、家の関係もあって騎士団内で微妙な立ち位置をキープしていた。これは意図的にやっていることで、団長のイジャークと数人は気付いている。

 実力もすべて隠しているのは、下手に目立ちたくないからだ。

 誰にはどうやって接すればいいのか。そんなことを考えながら動いていたこともあって、観察力だけは磨かれたと言っても過言ではない。

「言わずとも察する、が磨かれたのはイジャークのせいかもしれないが」

「仲いいのね」

「同期だからな」

 同じ時期に騎士団へ入団した仲だと言えば、納得したようにソニアは頷く。

 だからこそ、彼の実力にも気付いたということだろう。

「ソニアは、もっと自分を誇っていいと思う。十分に強いし、その腕なら魔騎士団でも数えるほどしかいない」

 それだけの実力があるのに、自分は弱いと思っている辺りが不思議だった。

 どうすれば自信を持てるのか。本気で考えたこともあったほどだ。

「だから、自信を持ってあの方の護衛としていればいい。まぁ、守られるのが嫌いみたいだが」

「それは、なんとなく思ってた……」








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