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3部 永久の歌姫編

イェルクとシリン2

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 聖弓を手にする前、考えていた気持ちがシリンと同調した。結果としてこの力を得ることが出来たなら、シュレの気持ちはひとつしかない。

(英雄王のために手に入れた力だ。最後まで英雄王のために使うだけ)

 同調した気持ちはあったかもしれないが、グレンの周りで継いだのは偶然ではないだろう。彼女は意図的に来ている気がした。

 そうでなければ、アクアの傍にいる者が継ぐなどという偶然は起きないとも思う。

 しかし、自分の気持ちがこういう形で知られるのは、少しばかり恥ずかしいと視線を逸らした。

『俺と同調した気持ちは、なによりも大切な者を守りたいという気持ちだ。あのとき、お前は妃様よりも大切な者を選んでいただろ』

『あら、あなたはあのとき、姫様よりフェーナを選んだということですの』

 護衛としていいのかしら、と笑うシリン。それに対して、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるイェルクに、グレンも苦笑いを浮かべる。

 護衛としては良くないのだが、結果として自分の娘は助かっているし、これも三千年前のことなだけになにも言えない。

 昔のことを今言っても仕方ない。目の前にいる二人は、本人であって本人ではないのだし、と先を促す。

「残りも同じ原理で動くと言うことか?」

『おそらく同じでしょう。最終的に決めるのは俺達なので、例外もあるかもしれないのですが』

 絶対ではないとイェルクは言う。焼き付いた意識である彼らは、所謂ところ防衛機能のようなもの。強大な力を持つからこそ、簡単に使えないようになっているのだ。

 狙ってやったことではないが、これはこれでよかったのかもしれない。

 そこまで考えて、ふと思うことがある。

「状況としてわかったが、それならレインとスレイはどうなる?」

 聖弓と聖槍の元となっているのは、レイン・アルヴァースとスレイ・アルヴァースの力だ。そちらも残っているということになるはず。

 意識が焼き付いているなら、そちらにも二人の意識が焼き付いているのではないか。

『さすがですわね。お兄様はおりますわ』

 遠くセレンの方角を見ながらシリンが言えば、やはりと頷く。焼き付いた意識がいつまで残っているのか、という疑問も残るのだが、これは後回しでいいだろう。

 もうひとつだ、とグレンが問いかける。シオンがこのことを知っていたのかどうか。

「シオン君なら、知ってても言わないよね」

「言わないだろうな、あいつだから」

 基準はわからないが、彼は一定のことを話さない。必要になれば、そのとき話せばいいと思っているからだ。

 隠しておきたいという考えではないとわかっているだけに、こういったとき困るのだと思う。当人がいなくて情報が不足する。

『おそらく、知らないと思います。実際的に、俺達もこうなって気付いたようなものなので』

『お兄様達がどうかはわかりませんが』

 もしかしたら、二人の意識はまた違うかもしれない。

 そう言われてしまえば、理由もなんとなくわかる。力の質が違うのだから、状況もまた違うだろうということだ。

『それともうひとつ、妃様が後ほど星視をされればわかると思いますので伝えておきます。どうやら、ディアが俺達より先に動いているようで』

「えっ…」

 いつの間に、と固まるアクアとグレン。次に考えたのが、一体誰のところに、であった。

 問いかけてみたものの、動く前は眠っている状態に変わらないようで、二人とも知らないと言う。ただ、炎の塔に現在聖剣はないということだけはわかっている。

 だから、自分達より前に動いたのだという判断でしかない。

「アクアの星視でわかるか?」

「どうだろうね。隠してたらわからないし」

 ここでなら視られる可能性はあるのだが、聖剣の力は神の力と同じ。星視で神に関するものは視られない方が確率として高いのだ。

「やってはみるよ」

 期待はしないでと言えば、グレンもわかってると頷く。

『それと、このままでは聖槍も聖弓も完全ではないということを覚えておいてください』

 今の状態でずっとは使用できない。このままでは、最終的には使用できなくなると言うのだ。

 そこには聖槍や聖弓ならではの問題があった。

「……そういうことか」

『はい。陛下ならわかるかと思います』

 一人で納得する中、どういうことか教えろと言うようにシュレとシャルが見る。特に、シュレはこのまま共に行くことを決めているだけに、使えなくなるのは困るとすら思っていた。

「これは、現状イェルクの聖槍であり、シリンの聖弓だということだ」

 与えられた者にしか使うことができないのが、これらの武器すべてに共通している点だ。一種の防衛機能に近いのだが、こちらは無理矢理に使うこともできるため、絶対ではない。

 とは言っても、それだけの魔力を要するという問題もあるのだ。

「そうか……グレンがそれを使えているのは」

「あぁ、シュレはわかってるはずだが、俺がフォーラン・シリウスの聖剣を使えているのは、フォーラン・シリウスの複製に近い存在だからだ。今回お前らが使えたのは、おそらくその二人がいるからだな」

 形上として、イェルクが聖槍を、シリンが聖弓を使った状態だということ。二人の意識が消えてしまえば、どちらも使うことはできない。

 いつかは使えなくなるということは、いずれは焼き付いた意識も消えてしまうということに他ならないのだ。

「希望の光を輝かす……予言の意味はこういうことでしたか」

 これを自分達の力としなければ、希望の光が消えてしまうという意味。セネシオは解釈が微妙に違ったのかと前を見る。

 セネシオの視線を受け止め、イェルクがそうだと言うように頷く。

『俺の聖槍は俺にしか使えない。今はこういう形で存在しているからなんとかなっているが、いずれは消えてしまうだろう。だから、お前は自力で使えるようにならなければいけない』

 それをどうやるかは、さすがにわからないとも言う。けれどできるはずだと思っていた。

『この力は、お兄様達の力は英雄達の強い気持ちが元になっておりますわ。太陽神の幸せを願う気持ち。そして、今の状況はおそらくですが』

 レインとスレイが父親を想う気持ちが強かったこと。他の四人が月神の戻る日まで、平和であることを願った気持ちが大きいのではないか。

 なにかあったとき、この世界を守るために動き出す。そんな意味もあると思っていた。

「納得した。だから今、動き始めたのか」

『そうです。現在、太陽神を欠いている。これも俺達が動き出した要因と思われます』

 太陽神という存在を欠いてしまったことで、世界を守る力として動き出したのだ。

 そして、守るために動くであろう英雄王の傍から選んだのは、二人の意思とも言える。






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