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3部 永久の歌姫編

聖槍を継ぐ者3

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「アクア様、星視の間へ来てくれと伝言を頼まれました」

 ソニアが大丈夫とわかれば、次はイェルクからの伝言だ。こちらは夜が明ける前に行かなくてはいけない。

「えっと、それは急ぐかな?」

 状態的に休息を挟んではいけないのか。アクアからすれば、ソニアを早く休ませたいと思うし、シャルも負担がかかっているはずだと思っていた。

「おそらく、今夜でないとダメかと」

 ハッキリと言われたわけではないが、今でないと話せないと感じている。聖槍の受け継ぎで話せるだけなのだと。

「アクア様、私は問題ありません。今優先するのは、星視の間へ行くことです」

 自分を優先するなとソニアに言われてしまえば、昔を思いだす。グレンの妻として王妃に就いたあとも、よく言われた言葉だ。

 あのときは王妃なのだからと言われ、納得するしかなかった。

 今は違うと思うが、それでも優先することが星視の間へ行くことなのはわかる。なにか伝えたいことがあって、そのような伝言をイェルクは残した。

 わかったと頷くと、これだけはさせてくれと時計を取り出す。

「今なら星視の間でイェルクに会えるってことでしょ。グレン君も呼んでいいかな」

 自分が話を聞くよりも、グレンが直接聞く方がいい。それに、と思っていた。あちらには聖弓がある。

「なるほど。聖弓の方も反応するかもしれない、というわけですね」

 可能性は五分五分だろうが、やってみる価値はあると思えた。時刻を確認すれば、連絡を取ってすぐに来られるというなら、時間的に問題はないだろうと了承する。

 説明の手間もなくなるし、短期間だがアクアといてわかることもあった。

(説明が苦手な方だからな。ならば一緒に立ち会ってもらいたいのだろう)

 それに、と思う。自分達が問いかけるよりも、英雄王が問いかける方がいいかもしれない。

 なにも知らない者より、ここまでの経緯をすべて知っている者では違うのだ。多少齧った程度の知識しかない自分では、必要な情報は聞き出せないかもしれない。

「ありがとう」

「礼は不要です」

 この件に関して、動いているのはアクア達なのだ。礼を言われる必要はないと思っていた。

 魔力装置を起動させると、グレンはすぐさま応えてくれた。常に身に着けていることもあるが、なにかあったときに妻から連絡が来ると思っていたのかもしれない。

「なにがあった」

 映し出された妻が、明らかに戦闘をした後となれば表情も険しくなるというもの。

 低い声に、久しぶりに聞いたなと思う。ここまで低い声は、長いこと聞いていない。

「外からの魔物と戦った。それでね、イェルクの聖槍が引き継がれたんだけど」

 今ならイェルクと話せるという話をすれば、なぜ連絡が来たのか理解したようだ。

 同席を求められているのはもちろんだが、聖弓のことが含まれていると察した。シリンとも会えるかもしれないということだ。

「エトワール神殿にいるんだよな」

「うん。直接来られたよね」

「あぁ、行ける」

 シオンが用意したものだが、グレンやイリティスはよく使っているだけにどこへ行けるか把握している。

 残念ながら、アクアは利用していない移動手段なだけに、どこへ行けるのかも軽くしか把握していなかったのだ。

 すぐに行くと言われれば、魔力装置を切って待つことに。

「英雄王と会えるとは思わなかったな」

 黙って会話を聞いていたセネシオは、だいぶ回復したようだ。魔法攻撃にたいしても、ある程度の耐性があるのかもしれない。

「どれほどで着くのでしょうか」

 少し時間があるなら、ソニアを休ませに行きたいとシャルが言う。

 聞いたソニアがついて行くと言ったのだが、アクアは休ませることに賛成だ。グレンが来るのはすぐだろうが、待っているから休ませていいと言えば渋い表情でソニアは黙った。

 彼女に言われてしまえば、聞くしかないというところだろう。

「ありがとうございます。すぐに戻りますので」

 問答無用でソニアを抱きかかえると、シャルは神殿内へと入っていく。

 背中を見送りながら、アクアはタフだなと思う。聖槍を初めて使って、普通に動いているなど信じられないことだ。

(そんなに力を使ってないのかな)

 普通なら眠りについていてもおかしくない。それほどの負担がかかるものなのだ。

 どちらが先かと待っていれば、空間が歪みグレンがやって来た。

「さすが英雄王。やることが違うね」

 セネシオは神殿にある門を使うことから、魔法での移動が可能であることを知っている。グレンが魔法を使ってきたのだと気付いたのだ。

「あたしにはできないけどねぇ」

 やろうと思えばできるのかもしれないが、試したことはない。なぜなら、アクアは魔力を竪琴で使うからだ。

 少し特殊な使い方をするだけに、普通に魔法を使うことが出来ない。訓練すればどうにかなる、というものではないのだ。

「連れかな?」

「あぁ、連れてきた」

 そのために連絡してきたのだろ、と言われてしまえば笑うしかない。

「よく戦ったな。聖槍が継がれなかったらどうするつもりだったんだ」

 さすがに無茶しすぎだと言われれば、アクアは頬を膨らませて拗ねる。頑張ったのだから、褒めてくれと言いたいのだろう。

 わかっているからこそ、グレンは珍しくも鋭い視線を向けた。こんな無茶を何度もされたら、たまったものではないと。

 お説教が始まりそうになったところで、シャルが戻って来た。これで助かったとアクアが笑えば、逃さないとグレンが睨む。

「あとで覚悟しておけ」

「うっ……」

 逃してもらえないと知り、がっくりと肩を落とす。

「初対面で夫婦喧嘩はやめろよ」

 グレンが連れてきたハーフエルフが呆れたように言えば、わかってると言う。今はこのようなことをしている場合ではない。

「自己紹介などしている場合ではないだろ。とりあえず、名前だけでいいだろ。俺はグレン。こっちが傭兵組合のシュレだ」

 聖弓を継いだことから、この場に連れてきたと言う。

「予言者のセネシオに、魔騎士団のシャル。護衛のソニアもいたんだけど、休ませた。聖槍を継いだのはシャルだよ。カルノーの家系」

「……なるほど。あいつか」

 なら問題ないかと言えば、急ごうと視線が語り掛けてくる。

「わかってる。星視の間はこっち」

 グレンは知っているが、他のメンバーは場所を知らない。案内するように動き出せば、当たり前のようにグレンが隣へ行く。

 なにがあったのか聞き出すためだろう。わかっているからこそ、三人ともが少し距離を置いて後をついて行った。







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