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3部 永久の歌姫編

簡易星視

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 月明かりが差し込む室内。アクアは夜空を見上げていた。

(フィフィリスが約束してくれたから、今度は視えるはず)

 月神がいる影響もあるのだろうが、内側で意図的に存在を隠している部分があると彼女は言ったのだ。

 そこには当然ながら、フィフィリスも含まれている。彼女も星視には現れなかったのだから。

「星よ…真実を視せて……」

 祈るように星空を眺めれば、以前は視られなかった星がいくつも現れる。

(赤い星は、たぶんフィフィリス。ここまで主張してきてるのは、あたしが視てるのを知ってるから)

 七日後に星視の妨害となっているだろう要員を、一時的にすべて取り払うと約束を残して連絡を終えていた。

 彼女だけではなく、関係者のいくつかが主張しているのはそのためだろう。

(これが誰なのかまでは、さすがにわからないかなぁ…)

 現状としては、状況を理解している関係者としての人数と思うしかない。これだけの数が北で動いているのだという参考程度。

 仕方ないかと思いつつも、すべて確認していく。

 手元には女王から借りた資料がある。これと照らし合わせながらなら、ある程度は予測できるかもしれないと思ってのこと。

(フィフィリスが言う転生者……あの輝きかな)

 じっと視ていると、気になる輝きをひとつ見つけた。彼女の星と同じように主張している緑の星。

(あれ……でも、この星……)

 星の近くに見知った輝きがある。小さい輝きではあるが、それはアクアがよく知るものだ。

 そんなはずはないと思いながらも、そうだと思う自分がいる。この輝きは、かつての仲間と共にあったものだ。

(星は嘘をつかない……なら、この輝きはそう。でも、どうして……。それよりも、この緑の星って)

 親近感のある星だと感じる。自分が知っているような輝きで、ふと仲間の星を視て資料を見直す。

(セルティ・シーゼル!)

 間違いないと星を視た。この輝きはイリティスに似ているのだ。彼女の家系に当たる人物。つまりは、北の大国にいるというセルティ・シーゼルしかいない。

 そこになぜあの星があるのだろうか、と思わずにはいられなかった。

 寄り添う星も気になるのだが、アクアが一番気になったのは強さだった。

 星の輝きからでも感じ取れるほどの強さ。向こうが存在を主張してくれているからこそ、ここまでわかるのであろうこと。

「騎士団最強の男……これは、どういうことなの」

 これほどまでに強い輝きを視たことがない。仲間達が同じように主張すればこうなるのかもしれないが、ここまでなるのだろうかと思ってしまう。

(太陽神と虹の女神の血を受け継ぐから……違う。そっちもあるかもしれないけど、もしかしてレインかな)

 可能性としてはこちらの方があるかもと思えば、他の星を視ることにする。

 今を逃すと、しっかりと視られるのはいつになるかわからない。自分達で隠しているなら、本格的な星視でも視られるかわからないのだ。

(淡いオレンジ……クレド君みたい。ということは、シュトラウス家だ!)

 この輝きも以前は視ることができなかった。シュトラウス家ならアクアのことも伝わっているし、西の大陸では星視することも知っている。

 意図的に存在を隠しているのだと納得だ。

 淡いオレンジの星からは特に感じるものはなく、むしろその方が不気味だと思う。主張しているのに感じないことが。

(でも、これでわかることもある。どちらもフィフィリスと繋がりがあるってこと)

 だからこうやって存在を明かしてくれているのだろう。わざと主張することで。

 助かることではあるのだが、ここまで完璧に存在を隠せることには驚きだ。以前は欠片も現れなかったのだから。

(厄介の意味もわかってきたかもしれない)

 シャルが厄介と称したのも、今ならよくわかる。自分では相手をするのは難しいだろう。

(こういったのは、グレン君だよね。シオン君も無理だと思うから。うん、北に行ったらグレン君に任せよう)

 本人が聞いたら苦笑いを浮かべそうなことを考えると、他もじっくりと視ることにする。

 どうやっているのかはわからないが、星視で視られないようにしている障害が今はない。北に関しての星が視えるうちに視ておくのだ。

 この情報を知っているのと知らないのとでは、この後に行う本格的な星視の結果も変わる。

 フィフィリスとセルティと思われる星、シュトラウス家まで確認できたが、視たいのは月神と星の女神候補だ。

(まだ月神の星としては現れてないけど、強い輝きを持つ星は三つある)

 深い緑の輝きを放つ星と、群青色に近い輝きを持つ星、黄色い輝きの星。

 その三つはこの先も関わりのある星だとわかる。三つのどれかが目当ての星かもしれないが、断定できる情報がない。

 現状として、星を読み解く上では情報不足ということだ。だからといって、これ以上の情報は西では無理だろうこともわかる。

 西には情報屋のようなものがいないのだ。

(でも、傭兵組合の支部はあったかな)

 そこでなら手に入るかと思ったが、自分では聞き出せないだろうと思い直す。東の本部なら可能かもしれないが、さすがにここでは自分達が知られていない。

 アクアが有名なのは、神官達と城があるこの街だけなのだ。他の街へ行った場合、どこまで知られているかわからない。

 そして、傭兵組合の支部はここではない街にある。

 そこでふと考え直す。本格的な星視をするには、どうしてもエトワール神殿へ行かなくてはいけない。その途中でソル神殿へ寄れないだろうかと。

(星視の能力は門からの影響。なら、予言者の能力だって……)

 なにか影響を与えるものがあるはず。その力を得られれば、星視の力は上がらないだろうか。

 一時的なものでもいいのだ。上げることができれば、北の情報だけではない。他のこともわかるかもしれないと思った。

(だって、予言は先を視るってことでしょ。媒介が違うだけで、あたしの星視とセネシオの予言は同じだと思うんだよね)

 さすがに女王だけではなく、シルベルトの許可も必要となってくるだろう。ソル神殿に女性が入ることはないからだ。

「明日だね…」

 エトワール神殿の使用許可は取ったのだが、神殿側から日程連絡は来ていない。この確認も含めて女王と話そうと決めれば、アクアは寝ることにした。

 自分が寝ないと、ソニアが寝ないと気付いてしまったからだ。さすがにそこまで護衛しているとは思っていなかっただけに、なるべく早く寝るように心がけるようにする。

(やりすぎって、聞かないよなぁ)

 ソニアだもん、と思いながら眠りについた。






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