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3部 永久の歌姫編

セレーネ神殿3

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 ずっしりとした本を持ちながら、一度深呼吸をする。表紙をめくり、まずは一ページ。

「これは……すべて終わったあとの手記ですね」

 必要そうな部分だけでいいかと問いかければ、アクアは頷く。

 騎士としての訓練を行いながら、彼女のためにと一人で勉強していたのが役立った。時間が取れない中で身に付いた速読だけは、自信があるのだ。

 見ていたアクアが驚くほどの速さでページをめくると、ソニアの手は急に止まった。

「求めていた答え、そのまま書かれていますよ」

「ほんと!?」

「はい。星の女神として選ばれる要因は、月神の想いだと」

 エリルは手記に残していたのだ。自分はリオンに選ばれて星の女神となっただろう、と。

「月神の想い……つまり、好きになった相手が勝手に選ばれちゃうのかな」

 それはそれで厄介だな、と思わなくもない。選ばれた側の気持ちは考慮されないのだろうか。されないとしたら、もしも相手が受け入れなかったらどうなるのかとも思う。

 強大な力を得て、反発されたらと思えばゾッとする。

 彼女の考えを察してか、ソニアが別の本をいくつか手にする。

「今アクア様が考えている答えは、エリル様がリオン様と出会ったところにあるかもしれません」

 彼女の気持ちがわかれば、繋がるのではないか。言われている意味がわかると、アクアはすぐさま本を手にした。

 この山のどこに出会いがあるか探し始めたのだ。今は甘えている場合ではない。

「……あった。ここで聖鳥が現れてる」

 一時間ほど読み続けていたアクアは、これだと思えるものを見つける。

 目当ての内容は、出会いからしばらくしたところに書かれていた。

「エリル様も惹かれて、リオン君も惹かれたから聖鳥が来たんだ」

 つまり、月神が好きになったからではない。お互いに惹かれ合ったとき、相手が女神として選ばれるのではないか。

「それを確定するには、イリティスちゃんに聞けばわかるかな」

「虹の女神も同じ原理で選ばれているかもしれない、というわけですね」

「うん」

 もしも同じなら、新しい星の女神は転生した月神が選ぶことになる。

 懐から時計を取り出すと、アクアは魔力装置を動かす。虹の女神であるイリティスと連絡を取ろうとしたのだ。

 思い立ったら即行動がアクアの考え。相手が今どうしているかは特に考えていなかったりするので、反応がないことも珍しくはない。

 しばらく待っていても反応がないので、さすがに寝ているかもと時間を確認する。

「……もう日付変わってたんだね」

「そうみたいですね。私も気付きませんでした」

 アクアが確認するのを見て、慌てたようにソニアも確認して苦笑い。

 時間は一時を過ぎている。これでは寝ていて当たり前だ。

「お相手は遅くまで起きている方ですか?」

「んー、そのときによるんだよね」

 遅くまで起きていることもあるが、そうでないこともある。こればかりはどれだけ一緒にいてもわからないことだ。

「グレン君なら確実なんだけどなぁ」

 今の状況で夜ゆっくり寝るようなことはしないと言い切れた。おそらく、空でも見上げていることだろう。

「仕方ないか。また昼間に……」

 時間が悪いと切ろうとした瞬間、魔力装置が反応を示した。

「こんな時間にどうしたの?」

 時計の上に光が広がり、見慣れた姿が浮かび上がる。姿を見れば、彼女は寝間着ではない。

 どうやら寝ていたわけではないらしいことにホッとする。さすがに起こしたとなると、罪悪感を覚えていただろう。

「遅くにごめんねぇ」

「いいわよ。どうせ、思い立ったらで動いたんでしょ」

 あっさりと言われた言葉に、さすがだと思いながら聞いていたのはソニア。長く共にいるだけあって、どうしてこの時間に連絡を取ろうとしたのか、よくわかっている。

 下手したら、想定して起きていたのではないかとすら思ってしまった。

「えへへ。さすがイリティスちゃん!」

(あの笑顔で許しちゃうといったところかな)

 笑うアクアは可愛いと思う。自分よりも年上だとわかっているし、三千年は生きているのに可愛いのだ。

 この笑顔を見ていると、なんでも許せてしまうというか、負の感情が一切湧かないから不思議に思う。自分でそうなのだから、他もそうなのかもしれない。

 とはいえ、仲間は慣れているだろうがと思うと考えるのをやめた。

 向こう側からどれほど見えているのかわからないが、視線が合ったのを知れば自分も見えていると気付く。

「そちらは、女王がつけてくれた今回の護衛かしら」

「天空騎士だよー。副団長のソニア!」

 グイッと引き寄せられれば、どこにそんな力があるのかと驚く。それほど力強く引っ張られたのだ。

「クスッ。意外と力があるのよ」

 驚くソニアに、イリティスが笑いながら言う。

「イリティス・アルヴァースよ」

「ソニアと申します。ソニア・フォーランです」

 フォーランと聞いた瞬間、イリティスが少しばかり驚いたのがわかる。

「すごいんだよ! ソニアはフォーラン・シリウスの妹の家系だって!」

 なぜかアクアが自分のことのように誇らしげにしているから、なにも言えず苦笑いを浮かべた。

 あまり知られたくないことなのだが、言っているのがアクアで、聞いているのが虹の女神となればいいかと思うことにする。

「妹さん、生きていたのね。今度、お墓に報告へ行ってあげたら」

「グレン君と話してから決めるよ」

 フォーラン・シリウスが唯一気にしていたのが、家族の安否だったのだと二人は言った。

 本題に入りましょう、とイリティスが切り替える。

「なにか用があったから連絡してきたのでしょ」

 この時間なので急ぎの予定はないが、早く終わらせないとアクアの寝る時間がなくなるとイリティスはわかっていた。

 早起きの習慣は三千年で変わることもなく、日が昇る頃には起きてしまうのだ。

「イリティスちゃんが虹の女神になった理由ってわかるかな? 新しい星の女神が現れそうなんだけど」

 それが誰なのか知るためにも教えて欲しいとアクアは言う。

 思わぬ言葉に驚きながらも、イリティスは自分の中にある記憶を思い返す。自分であって自分ではない、もう一人のイリティスの記憶を。

「……じゃあ」

「エリルも同じなら、おそらく新しい星の女神もそうでしょうね」

 答えを聞いたアクアは、どちらも同じ理由だと知る。女神として選ばれるのは、互いに惹かれ合っているかがポイントだと。

「少し調べてみるよ。イリティスちゃんじゃ探りづらいでしょ」

「えぇ。今の北は精霊から情報を得にくいから」

 北の大国を知るための情報網を持たないイリティスには、シオンもいない今は探りづらい。それよりもアクアの方が確実だろう。

 簡単な星視でわからないようなら、本格的にやる必要がでたな、とアクアは気持ちを引き締めた。






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