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3部 永久の歌姫編

セレーネ神殿2

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 クレド・シュトラウスは北の大国で有名なシュトラウス家に養子入りしたエルフ。

 アクアが知り合った頃は騎士見習いだった。見習いにしては知識豊富で、察しもいい少年。なにかと先回りして用意してくれるような子だった。

「あー、でも、リア・ティーン様の手記も解読してたっけなぁ。クレド君なら簡単か」

 そして、当時の女王も彼の能力は知っている。頼んでいてもおかしくはないと思えた。

 なにせ、メリシル国との外交はすべてクレドとその妻が行っていたからだ。

「リア様の手記があるのですか?」

「バルスデに残されてるのがあるけど……あれはたぶん、グレン君へ向けてある物かなって感じ。記録とかでもなく、ほんとにメッセージみたいなものだって聞いたかな」

 クレドに訳してもらった結果、自分の考えを残したものだとわかった。いつか現れた誰かへ向けての手記だったが、保管されていた場所を考えればグレンへ向けてだろうとのこと。

「今はシュトラウス家に保管されてるんじゃなかったかなぁ」

 確かクレドに任されていたはずと思い返す。ハッキリと言えないのは、アクアは興味がなかったからだ。

 特に内容を聞いた覚えもないと言えば、二人とも苦笑いを浮かべた。ソニアに至っては、彼女らしいとすら思っていたほどだ。

「個人に向けての物なら、仕方ないかもしれませんね」

「だよねぇ。とりあえず、クレド君の解読なら信用できるからそっちにしようかな」

 読むのが疲れそうだと言えば、こればかりはソニアも同意する。さすがに昔の言葉となれば、簡単に読めるものではないだろう。

 文字に関しては、セイレーンは人間のものを使っていたと言われている。エルフは独自の文字を使っていたとされ、元々セイレーンは文字すら使っていない。

 それを記録として残すために使い始めたのが、人間のものだった。

 次第に共通文字として使われるようになったのが、今の文字となるわけで、人間が使っていた文字が変化したものだ。

「わかりました。では、そちらをお持ちします」

「結構ある感じかな?」

「そうですね。記録のように書かれているので、文字を使い始めてから亡くなる直前まであります」



 客間に案内され、そこへ持ち込まれた本を見ながらアクアはため息をつく。これを全部読むのかと思っている。

「これは、結構残されてますね」

 詳しく聞いてみたところ、月神との出会い以前から書かれていることがわかったのだ。

 生まれ育った環境など、どれが星の女神に選ばれた理由なのかわからない以上、結局全部読むしかないと思ったのだが、思ったことに後悔していた。

「これでわからなかったらどうしよう」

「わかることを願うしかないですね」

 さすがにこれを読むのは一日で終わるものではない。特に、勉強が苦手なアクアでは、どれだけかかるかわからないと思われた。

 読書も普段しないと言っているほどだ。

「どこを読みましょうか?」

 分担して読むのがいいだろう。こういったのが苦手というなら、自分の受け持ちを多くしてもいいと思っているが、判断するのはアクアだ。

 自分で多く読むというなら、口出しするわけにはいかない。

「そうだなぁ」

 どうしようかなぁ、と本の山を見ながら悩む。

 とりあえず、と本を分けていくアクア。七英雄との出会い以前、七英雄の仲間達と旅していた期間、その後の三つに山を作る。

 一番大事なのは山二つのどこかにあるかと思っていた。その後はたいして意味がないと。

(でもちょっと気になるんだよな)

 その後が個人的に気になるな、とアクアは思いながらも、時間があれば読もうと退ける。

「たぶんこのどっちかだと思うんだよね」

 山にしてみれば、当然ながら魔王との戦いが多い。それだけの期間を過ごしていたからだが、ここから見つけ出すのかと思えばうんざりする。

 自分から言いだしただけに、こちらを読むべきだとアクアは手を伸ばす。

「あの、これだけ装丁が違うのですが」

 すると、ソニアが一冊の本を手にしていた。関係ないと思って退けた方の山にあった、見ると微妙に装丁が違う本。

 並べてみればわかるほど微妙な違いで、ありえなくもないもの。けれど、クレドがやったならこんなことありえないと思えるそれに、アクアは受け取った。

 なにか意味があるかもしれないと思い。

「クレド君らしくないなぁ……」

 彼ならこんなことをしないはずだ。仮にどうしてもしなくてはいけなくなったとして、素材が違うか色が違うならわかる。

 しかし、これは素材も色も同じ。ただ、微妙に柄などが違うだけ。

「意図的にやられたのではないですか。私は北には詳しくないですが、クレド・シュトラウスの名は知っています」

 西の大陸でも有名で、メリシル国とバルスデ王国の外交すべてを行い、メリシル国で勉学を学んでいたことも知られている。

 勉学を学んでいた間、普通に騎士団の中で動いていたことを知るのは、騎士団の上層部だけだ。

「えー、そんなことまでしてたの。クレド君って、もう病気だよね。ヴァルス君のせいかなぁ」

 あとでグレンに確認してみようかと思ったほどだが、おそらく答えは自分と同じ考えだろうと振り払う。

「さすがに上層部が読める記録に載っている程度ですよ。当時の団長と行動を共にしていたようです」

「うん、もうそこがおかしいよね」

 当事者がいないだけに、どうしてこうなったのかわからないが、どちらが言いだしたにしろいいのかと問いかけたい気持ちは変わらない。

 とりあえず、クレドがなにをしていたかは気にしないことにした。新しい事実がたくさん出てきそうな気がしたからだ。

「……読み上げてくれない」

「えっ……」

 まさか本を差し出し、読み上げてと言われるとは思わない。

「文字追いかけると眠くなってきちゃうんだよね」

 えへへと笑いながら言うから、これでよく手記を読もうと思ったな、と表情が引きつる。最悪、すべて自分が読んでいたかもしれない。

(クレド・シュトラウスに感謝するべきかもしれない……)

 装丁の違う本を読んでみなければわからないが、ここに知りたいことの答えがあったなら、アクアの性格を理解して残してくれた物だということになる。

 さすがと言うべきなのか、悩むところではあった。

「アクア様、大国の王妃だったんですよね」

「うん、そうだよ。困ったら、まぁ……ね!」

 誰か助けてくれる人がいたのだろう。周囲に相当恵まれていたことがわかった辺りで、本を読むことにした。

 こんな風に言っているが、実際はしっかりとやっていたであろうこともわかる。これはただ甘えているだけだ。






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