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3部 永久の歌姫編

副団長ソニア2

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「あなたはどうして?」

 なぜアクアが特別なのか。問いかけられたソニアは、少しばかり考えてから口を開く。

「救ってくださったからです。偽りの血を引くと罵られていた、私達家族を」

 思ってもみない言葉に、ルアナは驚いたように見る。彼女の出自に関して、知らないと言うよりは女王が隠しているというのが正確。

 上手く情報操作をされているのだと思えば、それができたのも彼の国からやってきた英雄王の弟がいたからだと、推測することはできる。

「私の家系は、リーラン・シリウスというハーフエルフが祖です。七英雄フォーラン・シリウスの妹ですね」

「フォーラン・シリウスに妹がいたの」

 あまり知られていない事実だ。英雄達は語られているが、その家族に関することは知られていないことが多い。

 このメリシル国でも知られていないこと。

「はい。母親と妹の三人家族だそうです」

 ソニアの家にはとあるものが残されていた。妹であるリーラン・シリウスが残した手記だ。

 それによって知ったことがある。

 七英雄が魔王と戦っていた時代、魔物の脅威に晒されていたこの世界では、住む場所を失って別の地へ逃げることも珍しくない。

 魔物が集落を襲い、行き場を失った者は住む場所を求める。そうは言っても、大陸間を移動することは珍しいことだった。

 今では船の技術も高く、魔力装置を使うことで移動速度も速くなっているが、当時は魔力装置もなければ技術も高くはない。

 この時代で例えれば、小舟で大陸間を移動するようなものだ。さらに魔物の脅威があると思えば、普通なら移動するという選択肢はないはずだった。

 それでも移動したということは、それだけ追い込まれていたのかもしれない。

 命をかけて海を渡ることとなったリーラン・シリウスは、西の大陸へ永住した。

「手記は幼い頃に暮らしていた集落を失ってから書かれていました」

 逃げた先で兄と暮らしていたこと。兄の背を押し、ティア・マリヤーナを探しに行かせたこと。

 その後、魔物に襲われて別の集落へ逃げた。繰り返しているうちに、西の大陸へ逃げるしか道がなくなってしまったのだと書かれていたと言う。

 ひっそりと暮らしていたリーランは、この地でセイレーンと結ばれて永住。

「相手側の姓にしなかったの?」

 他がどうなっているかまでは知らないが、セイレーンは姓を相手に変えるというこだわりがない。

 そのため、夫婦で別性も珍しくはないのだが、変えていれば問題になることはなかったのではないかとルアナは思う。

「リーランが変えたくなかったみたいです」

 荒れ果てた世界に、手紙のような連絡を取る手段はなかった。その上、西の大陸へ渡ってしまったことで、彼女は兄がどうなったのかを知らない。

 知ることができないまま、その生涯を終えた。手記からはそれが読み取れたのだ。

「そのあと、リーランの子供がフォーランと名乗るようになったみたいなのですが、バルスデ王国を知ってのことではなかったようです」

 むしろ、母親が兄を想う気持ちを残したくて、偶然にもフォーランという姓にしてしまったのだ。

 まさか、フォーラン・シリウスの息子が同じことをしているとは思わない。その結果、妹の家系が罵られるなど、当然ながら気付くわけがなかった。

 ずっと目立たないよう、隠れ住んでいたのがソニアの家系。神官になることも、騎士になることもなかった。

「けれど、あなたは騎士になった」

「騎士にならなければ、アクア様の傍にいられないじゃないですか」

 あっさりと言われた言葉に、そうね、と苦笑いを浮かべる。

 アクアは基本的にメリシル国でしか動かない。他の町や村へ行くことはなく、行ってもエトワール神殿ぐらいだ。

 それだって、星視を本格的にやりたいというときだけ。ほとんど行くことはないと言っても間違ってはいない。彼女が本格的な星視をするほどの事態は、起きていないのだから。

「母がリーランの家系になるのですが、罵られながら働いていたところをアクア様が救ってくれました」

 偽りの血を引く者。英雄の姓を語る愚か者。そんな風に言われていたことを知り、アクアが星視をして証明したのだ。

 彼女は偽りではない。本当にフォーラン・シリウスの妹を祖に持つのだと。

「アクア様の星視は絶対だからね」

 そもそも、この大陸で星視を疑う者などいない。さらに、能力が高いアクアが行ったとなれば説得力は十分。

 この後、話を知った先代の女王によってメリシル国の城下へと招かれた。

「これに関しても、アクア様が関わっているようでした。ご本人は認めませんが」

「アクア様、嘘が苦手過ぎるのよね」

 苦笑いを浮かべるルアナは、本当に永遠という時を生きているのかと思っている。

 しかも彼女は大国の王妃だったのだ。嘘がつけないというのは、問題がなかったのかと思わずにはいられない。

「きっと、周りが上手くやっていたのでしょうね。あの人柄ですから」

 身分など気にすることなく、周囲に溶け込んでいたことだろう。仮に王妃という立場が壁となってしまっても、彼女の歌声を聴けばあっという間に壁も崩れる。

 すべてを魅了し、すべてを癒す歌声。歌の女神と呼ばれる一番の理由は、彼女の歌声にあるのだ。

「どうして、あのお方は無自覚なのか」

 困ったように笑うルアナに、同意するよう頷くソニア。

 自分にはなんの力もないと思う姿には、二人とも困っていた。彼女には十分すぎるほどの力があると知っていたから。





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