99 / 276
3部 永久の歌姫編
副団長ソニア2
しおりを挟む
「あなたはどうして?」
なぜアクアが特別なのか。問いかけられたソニアは、少しばかり考えてから口を開く。
「救ってくださったからです。偽りの血を引くと罵られていた、私達家族を」
思ってもみない言葉に、ルアナは驚いたように見る。彼女の出自に関して、知らないと言うよりは女王が隠しているというのが正確。
上手く情報操作をされているのだと思えば、それができたのも彼の国からやってきた英雄王の弟がいたからだと、推測することはできる。
「私の家系は、リーラン・シリウスというハーフエルフが祖です。七英雄フォーラン・シリウスの妹ですね」
「フォーラン・シリウスに妹がいたの」
あまり知られていない事実だ。英雄達は語られているが、その家族に関することは知られていないことが多い。
このメリシル国でも知られていないこと。
「はい。母親と妹の三人家族だそうです」
ソニアの家にはとあるものが残されていた。妹であるリーラン・シリウスが残した手記だ。
それによって知ったことがある。
七英雄が魔王と戦っていた時代、魔物の脅威に晒されていたこの世界では、住む場所を失って別の地へ逃げることも珍しくない。
魔物が集落を襲い、行き場を失った者は住む場所を求める。そうは言っても、大陸間を移動することは珍しいことだった。
今では船の技術も高く、魔力装置を使うことで移動速度も速くなっているが、当時は魔力装置もなければ技術も高くはない。
この時代で例えれば、小舟で大陸間を移動するようなものだ。さらに魔物の脅威があると思えば、普通なら移動するという選択肢はないはずだった。
それでも移動したということは、それだけ追い込まれていたのかもしれない。
命をかけて海を渡ることとなったリーラン・シリウスは、西の大陸へ永住した。
「手記は幼い頃に暮らしていた集落を失ってから書かれていました」
逃げた先で兄と暮らしていたこと。兄の背を押し、ティア・マリヤーナを探しに行かせたこと。
その後、魔物に襲われて別の集落へ逃げた。繰り返しているうちに、西の大陸へ逃げるしか道がなくなってしまったのだと書かれていたと言う。
ひっそりと暮らしていたリーランは、この地でセイレーンと結ばれて永住。
「相手側の姓にしなかったの?」
他がどうなっているかまでは知らないが、セイレーンは姓を相手に変えるというこだわりがない。
そのため、夫婦で別性も珍しくはないのだが、変えていれば問題になることはなかったのではないかとルアナは思う。
「リーランが変えたくなかったみたいです」
荒れ果てた世界に、手紙のような連絡を取る手段はなかった。その上、西の大陸へ渡ってしまったことで、彼女は兄がどうなったのかを知らない。
知ることができないまま、その生涯を終えた。手記からはそれが読み取れたのだ。
「そのあと、リーランの子供がフォーランと名乗るようになったみたいなのですが、バルスデ王国を知ってのことではなかったようです」
むしろ、母親が兄を想う気持ちを残したくて、偶然にもフォーランという姓にしてしまったのだ。
まさか、フォーラン・シリウスの息子が同じことをしているとは思わない。その結果、妹の家系が罵られるなど、当然ながら気付くわけがなかった。
ずっと目立たないよう、隠れ住んでいたのがソニアの家系。神官になることも、騎士になることもなかった。
「けれど、あなたは騎士になった」
「騎士にならなければ、アクア様の傍にいられないじゃないですか」
あっさりと言われた言葉に、そうね、と苦笑いを浮かべる。
アクアは基本的にメリシル国でしか動かない。他の町や村へ行くことはなく、行ってもエトワール神殿ぐらいだ。
それだって、星視を本格的にやりたいというときだけ。ほとんど行くことはないと言っても間違ってはいない。彼女が本格的な星視をするほどの事態は、起きていないのだから。
「母がリーランの家系になるのですが、罵られながら働いていたところをアクア様が救ってくれました」
偽りの血を引く者。英雄の姓を語る愚か者。そんな風に言われていたことを知り、アクアが星視をして証明したのだ。
彼女は偽りではない。本当にフォーラン・シリウスの妹を祖に持つのだと。
「アクア様の星視は絶対だからね」
そもそも、この大陸で星視を疑う者などいない。さらに、能力が高いアクアが行ったとなれば説得力は十分。
この後、話を知った先代の女王によってメリシル国の城下へと招かれた。
「これに関しても、アクア様が関わっているようでした。ご本人は認めませんが」
「アクア様、嘘が苦手過ぎるのよね」
苦笑いを浮かべるルアナは、本当に永遠という時を生きているのかと思っている。
しかも彼女は大国の王妃だったのだ。嘘がつけないというのは、問題がなかったのかと思わずにはいられない。
「きっと、周りが上手くやっていたのでしょうね。あの人柄ですから」
身分など気にすることなく、周囲に溶け込んでいたことだろう。仮に王妃という立場が壁となってしまっても、彼女の歌声を聴けばあっという間に壁も崩れる。
すべてを魅了し、すべてを癒す歌声。歌の女神と呼ばれる一番の理由は、彼女の歌声にあるのだ。
「どうして、あのお方は無自覚なのか」
困ったように笑うルアナに、同意するよう頷くソニア。
自分にはなんの力もないと思う姿には、二人とも困っていた。彼女には十分すぎるほどの力があると知っていたから。
・
なぜアクアが特別なのか。問いかけられたソニアは、少しばかり考えてから口を開く。
「救ってくださったからです。偽りの血を引くと罵られていた、私達家族を」
思ってもみない言葉に、ルアナは驚いたように見る。彼女の出自に関して、知らないと言うよりは女王が隠しているというのが正確。
上手く情報操作をされているのだと思えば、それができたのも彼の国からやってきた英雄王の弟がいたからだと、推測することはできる。
「私の家系は、リーラン・シリウスというハーフエルフが祖です。七英雄フォーラン・シリウスの妹ですね」
「フォーラン・シリウスに妹がいたの」
あまり知られていない事実だ。英雄達は語られているが、その家族に関することは知られていないことが多い。
このメリシル国でも知られていないこと。
「はい。母親と妹の三人家族だそうです」
ソニアの家にはとあるものが残されていた。妹であるリーラン・シリウスが残した手記だ。
それによって知ったことがある。
七英雄が魔王と戦っていた時代、魔物の脅威に晒されていたこの世界では、住む場所を失って別の地へ逃げることも珍しくない。
魔物が集落を襲い、行き場を失った者は住む場所を求める。そうは言っても、大陸間を移動することは珍しいことだった。
今では船の技術も高く、魔力装置を使うことで移動速度も速くなっているが、当時は魔力装置もなければ技術も高くはない。
この時代で例えれば、小舟で大陸間を移動するようなものだ。さらに魔物の脅威があると思えば、普通なら移動するという選択肢はないはずだった。
それでも移動したということは、それだけ追い込まれていたのかもしれない。
命をかけて海を渡ることとなったリーラン・シリウスは、西の大陸へ永住した。
「手記は幼い頃に暮らしていた集落を失ってから書かれていました」
逃げた先で兄と暮らしていたこと。兄の背を押し、ティア・マリヤーナを探しに行かせたこと。
その後、魔物に襲われて別の集落へ逃げた。繰り返しているうちに、西の大陸へ逃げるしか道がなくなってしまったのだと書かれていたと言う。
ひっそりと暮らしていたリーランは、この地でセイレーンと結ばれて永住。
「相手側の姓にしなかったの?」
他がどうなっているかまでは知らないが、セイレーンは姓を相手に変えるというこだわりがない。
そのため、夫婦で別性も珍しくはないのだが、変えていれば問題になることはなかったのではないかとルアナは思う。
「リーランが変えたくなかったみたいです」
荒れ果てた世界に、手紙のような連絡を取る手段はなかった。その上、西の大陸へ渡ってしまったことで、彼女は兄がどうなったのかを知らない。
知ることができないまま、その生涯を終えた。手記からはそれが読み取れたのだ。
「そのあと、リーランの子供がフォーランと名乗るようになったみたいなのですが、バルスデ王国を知ってのことではなかったようです」
むしろ、母親が兄を想う気持ちを残したくて、偶然にもフォーランという姓にしてしまったのだ。
まさか、フォーラン・シリウスの息子が同じことをしているとは思わない。その結果、妹の家系が罵られるなど、当然ながら気付くわけがなかった。
ずっと目立たないよう、隠れ住んでいたのがソニアの家系。神官になることも、騎士になることもなかった。
「けれど、あなたは騎士になった」
「騎士にならなければ、アクア様の傍にいられないじゃないですか」
あっさりと言われた言葉に、そうね、と苦笑いを浮かべる。
アクアは基本的にメリシル国でしか動かない。他の町や村へ行くことはなく、行ってもエトワール神殿ぐらいだ。
それだって、星視を本格的にやりたいというときだけ。ほとんど行くことはないと言っても間違ってはいない。彼女が本格的な星視をするほどの事態は、起きていないのだから。
「母がリーランの家系になるのですが、罵られながら働いていたところをアクア様が救ってくれました」
偽りの血を引く者。英雄の姓を語る愚か者。そんな風に言われていたことを知り、アクアが星視をして証明したのだ。
彼女は偽りではない。本当にフォーラン・シリウスの妹を祖に持つのだと。
「アクア様の星視は絶対だからね」
そもそも、この大陸で星視を疑う者などいない。さらに、能力が高いアクアが行ったとなれば説得力は十分。
この後、話を知った先代の女王によってメリシル国の城下へと招かれた。
「これに関しても、アクア様が関わっているようでした。ご本人は認めませんが」
「アクア様、嘘が苦手過ぎるのよね」
苦笑いを浮かべるルアナは、本当に永遠という時を生きているのかと思っている。
しかも彼女は大国の王妃だったのだ。嘘がつけないというのは、問題がなかったのかと思わずにはいられない。
「きっと、周りが上手くやっていたのでしょうね。あの人柄ですから」
身分など気にすることなく、周囲に溶け込んでいたことだろう。仮に王妃という立場が壁となってしまっても、彼女の歌声を聴けばあっという間に壁も崩れる。
すべてを魅了し、すべてを癒す歌声。歌の女神と呼ばれる一番の理由は、彼女の歌声にあるのだ。
「どうして、あのお方は無自覚なのか」
困ったように笑うルアナに、同意するよう頷くソニア。
自分にはなんの力もないと思う姿には、二人とも困っていた。彼女には十分すぎるほどの力があると知っていたから。
・
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。
※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。
※2020-01-16より執筆開始。
狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!
【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】
ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。
主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。
そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。
「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」
その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。
「もう2度と俺達の前に現れるな」
そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。
それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。
そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。
「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」
そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。
これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。
*他サイトにも掲載しています。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
チートな親から生まれたのは「規格外」でした
真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て…
これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです…
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます
時々さかのぼって部分修正することがあります
誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)
感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります
悪役令嬢?何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く
ひよこ1号
ファンタジー
過労で倒れて公爵令嬢に転生したものの…
乙女ゲーの悪役令嬢が活躍する原作小説に転生していた。
乙女ゲーの知識?小説の中にある位しか無い!
原作小説?1巻しか読んでない!
暮らしてみたら全然違うし、前世の知識はあてにならない。
だったら我が道を行くしかないじゃない?
両親と5人のイケメン兄達に溺愛される幼女のほのぼの~殺伐ストーリーです。
本人無自覚人誑しですが、至って平凡に真面目に生きていく…予定。
※アルファポリス様で書籍化進行中(第16回ファンタジー小説大賞で、癒し系ほっこり賞受賞しました)
※残虐シーンは控えめの描写です
※カクヨム、小説家になろうでも公開中です
異世界のんびり冒険日記
リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。
精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。
とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて…
================================
初投稿です!
最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。
皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m
感想もお待ちしております!
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした
せんせい
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる