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3部 永久の歌姫編

歌姫の訪問3

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 誰であっても、アクアの思い出を壊すような真似は許さない。それがソニアの気持ちである。

「最初は城で過ごしてたんだけど、嫁いだのに城にいるわけにはいかないって、街で暮らし始めたんだ。ソニアもわかると思うよ」

 ルピナスが嫁いだ先は同じ姓だからと言えば、少しばかり驚いたように見た。同じということは、そういうことなのかと言うように。

「ティルヤ・フォーラン殿……」

「うん、そう。グレン君の弟だね」

 何事もないように言うが、英雄王の弟となればすごいことだ。あの当時で考えれば、今思うよりもっとすごいことになる。

 しかし、とも思う。王女が嫁ぐにはいいところなのかもしれない。

「なんか、気付いたら恋仲になってたんだよ。聞いたとき、グレン君は嬉しそうだったけど」

 自分達の微妙な立場を考えてか、弟達は恋とは無縁でいた。一時期は恋人など作らないと言っていたほどだ。

 だからこそ、彼を動かしたルピナスには感謝したほど喜んでいたのは、遠い昔のこと。

 バルスデ王国の王子であったティルヤは、母親がグレンを殺害しようとしたことから、王位継承権を放棄した経緯を持つ。

 兄に憧れた結果、騎士となったティルヤ。そのまま騎士として国のために動こうとしていたが、国を離れて西へ行きたいと言った。

「姫様は可愛かったからなぁ。ティルヤ君が落ちたって驚かないよ」

 二言目には可愛いと言うアクアに、どれだけ可愛がっていたのかわかる。

 彼女は誰にでも親しげに話しかけてくれるが、実際には誰にでも平等なだけ。特別に誰かを贔屓するわけではない。

(そのお姫様は特別だったのね)

 仲間とは別で特別だった王女。それは王女だからとかではないのだろう。

「妹みたいな感じですか」

 なんとなく、そんな気がしたのだ。妹のように可愛がっていたのではないかと。

「うん、そうだね。お姉ちゃんがいるとか知らなかったし、一人だと思ってたから」

 妹だったのかもしれない。当時はそんな風に思っていたわけではないが、振り返ってみればそう思えた。

 歴史の本を読むだけではわからないこと。それを目の前にいる女性は教えてくれる。

 アクアは星視をするためだけにメリエス大陸へ来ていたこともあり、メリシル国に住むほとんどの人々が存在を知っていると言ってもいい。

 簡単な星視は星が見られればどこでもできる。けれど、本格的な星視はエトワール神殿へ行くしかない。

 その関係で当時の女王へ相談したのがきっかけで、彼女の存在は公になっている。

「知ってる人がいると便利だよねぇ。グレン君もよく傭兵してるし」

「傭兵されてるんですか?」

 驚いたように見るソニアに、変なことでも言ったかなと首を傾げるアクア。

「英雄王が傭兵をされていたのは知っていますが、今でもしていると聞いて驚いただけです」

「グレン君にじっとしてるのは無理だもん。あたしもだけど」

 胸を張って言えば、苦笑いしか出ない。なぜだか、説得力のある言葉だったのだ。

 彼女を知ってしまったからこそ、納得できるのかもしれない。きっと同じような感じなのだと、思うことができた。

 当時の関係者は苦労したのだろうな、などと思えば、目的の店へ到着した。

「ここ? 可愛いお店―!」

 西では大変珍しい木造の造り。色こそは白に塗っていたが、草木で彩られたカフェは見覚えがない。

 間違いなく、初めて来た店だと言えた。自分がいない間に開いた店だと。

「こちらは、昨年任期を終えた神官がやっているんです。ハーフエルフの旦那さんと」

「ハーフエルフかぁ」

 だから木造なのだと納得する。これは旦那さんに合わせた結果だ。

 大陸によって特徴はある。北の大陸は煉瓦造りの建物がほとんどで、西の大陸は石造りの建物が当たり前となっていた。

 東の大陸は混在した状態だが、森で暮らすことが多いエルフやハーフエルフは木造の家が主流となっている。

「旦那さんは東から来たんだね」

「そうなるのでしょうね」

 西や北にもハーフエルフはいるが、木造で暮らすのは東から来たハーフエルフだけ。

 ハーフエルフの旦那に合わせたということは、その旦那は東から来た以外には考えられなかった。

「今度、グレン君と来ようかなぁ。でも、ここって甘い物しかない?」

 見た目は女性向けのカフェ。というか、メリシル国自体、基本的に女性向けが多いのが変わらない現状。女性が強いので、どうしてもそうなってしまうのだ。

「いいえ、軽食などがメインとなっているようです。女性向けのメニューではないですね」

 軽食と言うが、男性が食べられるようにもなっている。そんなこともあってか、カップルばかり利用しているらしいと、ソニアは聞いていた。

 店の雰囲気は女性向けだが、男性も食事に困らない。デートとしては最適だと思われているようだ。

「なら、グレン君と来ても大丈夫か。グレン君、甘いの苦手だから」

 これも北育ちだと珍しくないことで、原因は辛い物が多いからだ。北の食事は辛い食べ物が多く、代わりに甘い物はあまり流行らない。

「と言っても、グレン君がいた頃ね」

 今では大陸間の移動が盛んなことから、さすがに辛い物ばかりではなかったはずと言う。

 一番流通が多いのも北の大陸。それだけ他の大陸から、色々なものが入っているはずだと思っていた。

 当時は、おそらくは、という言葉で北の大陸を話す姿に、ソニアは新しい疑問が浮かび上がる。彼女は北の大陸へは行っていないのだろうか、という疑問だ。

 三千年前には、北の大陸で王妃の立場にあったというのに、今の状態は詳しくないようで不思議だった。

 祖国はここかもしれないが、あちらも彼女にとっては大切な国ではないのかと思ってしまう。

「アクア様は、バルスデ王国には行っていないのですか?」

「あー、うん。ここはほら、あたし達が生きてるって知ってるじゃん。傭兵組合の上も知っててね」

 だからうまく情報操作されているので、簡単に行くことができる。

 神話を伝える西、傭兵達が活動する東は、特に問題なく出入りができる場所と認識していた。それでもグレンは、ある程度の年数を置いてから行くようにしている。

 人間と違ってハーフエルフやエルフは長寿であることから、知り合ってしまった傭兵達が組合を離れた頃合いを狙っているのだ。

 念のためにと思ってのことだが、それほど気にする必要はない。

 それにたいして、バルスデ王国は特に伝えてはいない。だから問題ないのではないかと思われるのだが。

「きっと、リオン君はあの国に生まれてくるって思ってたし、王とシュトラウス家はすべて知ってるからね」

 なにかあったときに騒がれるのはごめんだというのが本音。姿絵など一切出していないが、それでも気付く者も出てくるかもしれない。

 リオンが転生する先も北な気がしていたことから、二人は近づかないと決めていた。

「情報はね、たまにグレン君が東から持ってくる程度なんだ」

 それも、全部グレンの知りたいことで得てくることから、偏った情報しか知らない。

 誰が強そうだとか、そういったものばかりだと聞けば、ソニアが苦笑いを浮かべる。彼はいいかもしれないが、彼女にはどうなのだろうかと思ったのだ。

「まぁ、あの国は心配ないとは思うけどね」

 それより、早く中へ入ろうと言う。店の中も気になっているのだ。

「そうですね。行きましょう」

 実はソニアも行ったことがないカフェで、店内が気になっていたのは秘密。表に出すことはなく、ワクワクしながら入った。






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