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3部 永久の歌姫編

歌姫の訪問

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 西のメリエス大陸――そこは世界の始まりを伝える地。メルレール世界で唯一、神を讃える大陸である。

 主に翼を持つセイレーンが暮らす地で、人口の七割が神官となる神聖国。神々を表す神殿があり、代々女王が統治しているのが特徴だ。

 三千年前、バルスデ王国との同盟を結び、以降その関係は変わることなく続いている。それ故に今現在、世界の平和を支える柱のひとつだった。

 両国が戦争にでもなれば、この世界は終わるとまで言われているほどに力を持っている。

「んー! やっぱここが一番いいなぁ!」

 そこへやって来た一人の女性は、緩く波打つ水色の髪を肩で切り揃え、背中に一対の翼が生えているセイレーン。

 紫色の瞳はキラキラと輝き、真っ白な街並みを眺めている。

 さほど離れていたわけではない。それでも懐かしいと感じるほどに、女性はこの街を気に入っていた。生まれ故郷よりも好きと言えるだろう。

「さぁて、あたしも頑張ろうかな」

 普段は遊びに来ているだけだが、今回は遊びではない。自分にできることはしっかりやろうと、街の中へ向かって飛んでいく。

 女性がやって来たのは、メリエス大陸のメリシル国。神聖国と周囲からは呼ばれているが、他にも女王国と呼ばれることもある。

 その理由は、代々女性が王位を継ぐからだ。長い歴史の中、男性が王位を継いだことはない。一度もないのだ。

「あら、女神様。またいらっしゃったんですね」

 彼女の姿を見たセイレーンが呼びかければ、女性は苦笑いを浮かべる。

「その呼び方やめてって言ったじゃん」

 女神様と呼ばれたことに抗議してみたが、これが無駄なことを誰よりも理解していた。

 なにせ、これをかれこれ二千年ほど繰り返しているのだから。

「女神様は女神様ですから」

 他に呼び方などないと言う。その意味も、この呼ばれ方をする意味もわかっているが、呼ばれている側は落ち着かないからやめてほしいというのが本音。

 色々な呼ばれ方をしてきたが、さすがに女神様は居心地が悪い。

 自分はそんな凄いものではないと言いたくなるのだ。

 実際に言ったこともあるが、言わなくてもわかるだろう。効果はなかった。

 女神様と呼ばれた女性アクア・フォーランは、本来ならこの時代に生きているはずのない存在。三千年以上前、このメリシル国で歌姫という地位にいた元神官である。

「歌の女神様、かぁ」

 そんなものになるつもりはなかったのに、とぼやけば、話しかけた女性は笑った。

 メリシル国には三つの神殿があり、それぞれに特殊な高位神官がいる。それらはすべて神々と七英雄を元にしていた。

 太陽神を讃えるソル神殿。唯一、男性の神官がいる場であり、神官長も男性となる。神官騎士が多いのもソル神殿の特徴で、予言者と呼ばれる高位神官がいると言われていた。

 実際に会ったことがある者はほとんどいないと言われ、誰が予言者なのか知っているのは限られた一部の者だけとなる。

 月神を讃えるセレーネ神殿。こちらには舞いを得意とする神官が多くいるのが特徴。月神の恋人であり七英雄であった星の女神が、舞いが得意であったことからそうなっている。

 舞姫と呼ばれる高位神官がおり、式典など王家の行事で舞いを披露することも少なくはない。

 エトワール神殿。こちらは星の女神を讃える神殿であり、星の女神が好きだった七英雄の一人が歌い手であったことから、歌の上手な神官が集められているのが特徴。

 また、星視の力、星を読み解く力に長けた神官が多く現れる意味でも特殊な場となっている。

 この神殿だけは、星視の神官と歌姫という高位神官が存在しており、どちらも王家と深い繋がりを持つ。

「アクア様、こちらにおりましたか」

 女性と話していたアクアの元へ、一人の騎士が近寄って来る。

「あれー、ソニアじゃん」

「ソニア様、ごきげんよう」

 二人が声をかければ、ソニアと呼ばれた騎士は一礼してアクアの方を向く。

「どうしてわかったのさ。今日来るなんて言ってないよ」

 今回は急遽来ることになっただけに、知らせなど出してはいない。彼女が自分を探すことなどないはずだ。

「それは…」

「女神様、私はこれで失礼しますね」

 言葉を選ぶようソニアが考える姿に、自分がいてはいけないと察した女性はその場を離れていく。

 ここから先は聞いてはいけないと感じ取ったのだ。

「すみません。タリスと話していたところを邪魔してしまったようで」

 もう少しうまく話せていれば、とソニアが反省するが、アクアの方は特に気にしてはいない。

「別にいいよ。いつでも会えるし。それで、なんでわかったの?」

 彼女はアクアがメリシル国へ滞在している間、護衛として傍にいる天空騎士の一人だ。

 三千年前はほとんど戦うことなどできなかったアクア。辛うじて魔力をぶつけることぐらいしかできなかったのだが、長い歳月を経て一人でも戦うことは可能となった。

 けれど、前線で武器を持って戦うわけではなく、竪琴と歌声で魔力を操って戦うことから、メリシル国の女王が一人護衛の騎士をつけているのだ。

「予言が下りました。なので、そろそろ来るのではないかと陛下が」

「予言? 新しいのが下ったの?」

「はい」

 彼女が言う予言は、おそらく自分が訪ねる理由と同じ。それならば、来るかもと思われていたのは納得できるというもの。

 詳細が聞きたいなと、アクアは先を急ぐことにした。






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