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2部 二刀流の魔剣士編

光の英雄

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 陽射しの強さが変わらない中、イリティスが用意した紅茶を飲むグレン。お酒も用意されていたが、さすがになにがあるかわからないからとやめている。

 飲んだところで酔わないので問題はないのだが、これは傭兵の頃からの癖だ。

「バルスデへ全員が集まったとき、イリティスのお陰もあってシオンの抱える問題が解決した」

 それによってすべてを知ることができたと話しだす。

 それは彼らにとって衝撃的な話でもある。

「シオンとリオンは、女神メルレールの息子。つまり、人間が神になったのではなく、本当に女神の子だという事実から話された」

 さすがに三人ともが驚きで止まったのを見て、飲み込むまで待つ。

 そう時間はかからずに先を促してきたのを見て、イリティスとグレンは顔を見合わせて頷く。

「魔物は当時、罪深き女神の子とシオンを呼んでいた」

 言われた通り、この世界を創った女神は罪深い存在。

 本来なら深く関わってはいけない、自らの一部から創った人間へ恋をし、子供を産んだ。そこで止めていればまだよかったが、女神は止まらなかった。

 世界を創り、この世界では絶対の存在である女神。その女神は恋をした男性を不死にしてしまった。

 そして、自分の子供であるシオンとリオンを捨ててしまったのだ。

「捨てた……」

 その一言は、想像以上に重く感じられる。捨てられた中には、世界も含まれている気がしたからだ。

「南のアーリアス大陸の片隅で育てられていた。もしかしたら、ある程度したらそのまま人里で暮らさせるつもりだったのかもしれないな」

 普通の人間として育てられていたことから、自立するまで女神は傍にいるが、それ以降は関わらないという考えもあったかもしれない。

 女神の力を継いではいたが、その力は聖獣と聖鳥という形で封じられていた。

「そのまま力だけ封じておけば、人間の中に混ざっていてもいいということですね」

 確かに、そのままうまくできていればよかったのかもしれない。

 そうならなかったから、今があるのだということだけが気になることだ。女神がやってしまったこと。その結果、英雄と呼ばれる彼がどれほど苦しんだのか気になった。

「女神は恋をした男と過ごす生活だけするようになった。シオンは、突然いなくなった母親を捜しに行ったと言っていた」

 母親を捜す旅の最中、魔物が現れるようになったという。そしてある日、突然空から光が降ってきたのだと。

『俺達は、突然目を覚ました。多分、女神が己の力、その一部を切り離したことが原因だ』

 本来なら女神が管理していたはずの聖獣。その管理が緩くなったことにより、なにかがあったと察した。

 情報を集めた結果、女神は変わり果てた男性に傷ついて姿を隠してしまったということ。変わってしまったのは、この世界がいけないと思い壊そうとしていることに気付いてしまったのだ。

「ちょっと待て……嫌な予感がするんだが」

 シュレの表情は引きつっている。

『遥か昔に現れた魔王、それは女神がこの世界を壊そうとして送り込んだ魔物だ』

 考えを肯定するようにヴェガが言えば、三人ともが絶句した。そのようなことがあるのかと言うように。

 女神が自分の創った世界を壊そうとするなど、信じられないと。

 今、三人が感じているだろう気持ち。それはグレンとイリティスも理解出来る。

 聞いた当時、二人だって思っていたことだ。こんなこと信じられないと。そんなことがあるなんて思いたくないと。

 当然だ。女神信仰がなくなったとはいえ、それでも神という概念は残っている。神が壊そうとするなど、普通なら思いたくないことだろう。

「続きを聞かせてくれ」

 それでもさすがだと思えたのは、事実として受け入れることが出来ることだろうか。

『俺達は、一部を黙秘してシオンとリオンにどうにかしてもらおうと思った。簡潔に言えば、母親のやろうとしていることを息子にどうにかしろ、という決断をした。するしかなかった』

 でなければ、世界が滅んでしまうからだ。それだけは阻止したかった。

「聞いてもいいですか。なぜ、女神が壊そうとしているものを防ごうと思ったのでしょうか」

 本来なら、それは女神の意向に逆らうことではないのか。いくらシオンとリオンの力から作られたからといって、そのようなことをしてもいいのかがわからない。

『俺達にだって、やっていいこととダメなことぐらいわかる。と、言いたいところなんだが』

 そういうわけでもないとヴェガは言う。

 力の塊のような存在でもある二匹は、作られたまま眠っていた。眠っていたということが、力が封じられている証でもある。

 目を覚ましたことにより、封印は解かれてしまった。

『精霊達の声が無尽蔵に聞こえてくる。女神が行おうとしていることは罪だと言う。そこに、俺達の主となる二人の気持ちが流れ込んできた』

 女神が母親だと知らない二人の気持ち。女神にたいしての気持ちや母親への想い。

 それらを感じたとき、これ以上の罪を犯さないよう止めなければいけないと思ったのだ。

「そうか……主のためというわけで」

「それをできるのが主だけというわけですね」

 唯一悩んだのが、女神の子供ということをどうしたらいいのか。いつ説明すべきかと思っていたことだと言う。

 こればかりはずっと秘密にすることはできないのではないか。けれど、力を自分達が与えたということにすればいいと結論付けて動き出した二匹。

 力を抑える存在として作られた聖獣。ヴェガにはなんの知識も与えられてはいない。

 だからこそわからなかった。主となるリオンがどういう存在になるのか。

『もしかすると、女神にとっても想定外な存在かもしれない』

 ただの子供としてしか思っていなかっただろう。女神と同じ存在になるなど思いもしなかったことだと、ヴェガは思っている。

『俺達は偽った。空に四つの光が見えたと精霊から聞いたから、それらは女神の力。世界が荒れたことで悲しんで分かれたのだと』

 女神が好きだったシオンと、そんなシオンのためならなんでもやってくれるリオンを動かすためにだ。

 その結果が七英雄の物語。

「俺達は女神の罪を知り、シオンが本当の意味で神だったと知った。シオンに干渉していた何者かがいて、それがシオンの父親になることも」

 魔物の異変に関しては、外からの干渉だという考えだとシオンから聞いたのもそのときだ。

 外があるなど、このときまで考えもしなかったことだった。





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