上 下
83 / 276
2部 二刀流の魔剣士編

英雄の息子達

しおりを挟む
 並べられた料理を見ながら、これをすべて彼が作ったのかとグレンは感心していた。

「連絡も取れないし、勝手にやらせてもらった」

 あっさりと言うシュレに、それは別段構わないと言う。むしろ料理ができることはありがたいことだ。

 なにせイリティスしかできないのだから。

「助かるわ。グレンはまったくできないわけじゃないんだけどね」

 簡単なものはできるが、あくまでも一人で食べるときかアクアと食べるときにしかやらない。どうしようもないときだけ、本当に簡単なものを作るのだ。

 基本的にはイリティスが一人でやっていると聞けば、滞在中ぐらいは手伝うべきかとシュレも苦笑いを浮かべる。

「無駄な金は使えないから、基本自炊してたんだ」

 家族のために稼いでいることから、ほとんどは家へ入れていたシュレ。なるべくお金を使わないようにしていたと言われれば、エシェルがそうでしたねと頷く。

 帰る余裕がないときは組合を通して送っていたのだ。

 あまり知られていないが、そのようなことも傭兵組合ではやっていた。

 席について食事を始めれば、他愛無い会話で盛り上がる。ヴェガが引っ掻き回してくれたのもあったのだが、アイカとエシェルも普段通りに話せるようになっていた。

 女性同士という意味でも、イリティスが積極的に話しかけたのも大きいのかもしれない。

「しかし、本当に夜がないんだな」

 夕食を終えたのだが、夕食を食べた気分にはならなかった。外から陽射しが差し込むからかもしれない。

 窓から青空が見え、時間の感覚がなくなりそうだと思う。

「私達も、最初は困ったわよね」

「シオンだけが気にしてなかったが……」

 あれはマイペースだからなとぼやく。

「そうね。アクアはすごく嫌そうだったわね。星視ができないもの」

 イリティスは笑いながら言うが、グレンはなにかあったのか表情が変わる。なんとも言えないような表情を浮かべるから、三人ともがどうしたと言いたげだ。

『とんでもなく騒いでたんだよな。あれはうるさかった』

「俺も、あれはさすがにうるさかった」

 なるほどとエシェルが笑う。彼は静かなところを好むことから、あまりうるさいのは好きではないのだろうと思ったのだ。

 誰にでも限度というものがあるのだなと思えば、どれだけ騒いだのかも気になってくる。

 静かなところが好きなのだろうが、だからといってうるさいところがダメというわけでもない。シュレは嫌いのようだが、グレンはそうでもないとエシェルは知っていた。

「もうね、星が視れないって叫びっぱなしよ。さすがにグレンが怒って終わったんだっけ」

『最初で最後の夫婦喧嘩だ』

 笑いながらイリティスとヴェガが見るから、グレンは視線を逸らす。

 あれだけは思いだしたくないと言うように。

「最初で最後のって……まだあるかもしれないだろうに」

 それをないと言い切るのかと思えば、どんな夫婦なのかとシュレは気になる。

 ここへ来れば会えるかと思っていたのだが、どうやらまだ会えないらしい。

「ないわよ。グレンを怒らせることなんて、そうないもの。あれだけはシオンでも驚いてたわね」

「忘れろ」

 いつまでも笑い話にするなと言うが、この後もなにかあれば言われるのだろうという思いもあった。

 場の空気が穏やかになり、アイカやエシェルが普通に話せるようになったのを確認してイリティスが片付けだした。

「なにか飲む?」

 話をするのだろうと言えば、任せると一言。残りの話をすると約束していたことから、このまま話をするつもりのようだ。

「紅茶と軽く摘まめるものにしましょうか。長くなるから」

 食事を食べた後ではあるが、このあとどれほどかかるかわからない。そのため念のためということで用意することにしたようだ。

「手伝う」

 さすがに任せっきりはとシュレが立ち上がれば、イリティスは大丈夫と一人で出ていった。

「任せて問題ない。気にするな」

 客なんだからとグレンが言えば、シュレはおとなしく座ることに。

 確かに、ここは彼らには家のような場所なわけで、自分達はただの客でしかない。

 やりすぎはよくないのかもと思うと、必要そうなところを手伝えばいいかと思うことにした。なにもしないというのは、なんだか申し訳なくなるのだ。

 しばらく待っていると、イリティスが飲み物と摘まめるものと軽食を持ってくる。

「私も混ぜてね。話は知ってるけど、見てたわけじゃないし」

 見せてと言われていることに気付いたグレンが、苦笑いを浮かべながら時計を取り出す。

『俺も見るー!』

 チョコを食べながらヴェガが言えば、一人で喋るのかと少しばかり嫌な気分になる。どれだけ長いと思ってるんだと。

「えっと、どうして?」

 そこに突っ込んでいいのか迷いながらアイカが問いかける。一緒にいたのではないのかと思ったのだ。

「私は基本的に家にいたから」

『俺も最後の戦いしか一緒じゃなかったしな』

 だから知らないところは知らないと言われてしまえば、なるほどと納得してしまう。

 イリティスとヴェガは当事者のようで当事者ではないのだ。知らないことがあっても仕方ない。

「見たいだけなんだろ」

「そうね。特に例の魔物とか」

 この先の参考も兼ねてと言われれば、仕方ないとすら思えてしまうから困る。

 この世界には七英雄の他に、光の英雄と呼ばれる物語が存在する。

「シオンとリオンの戦いから二十年。その問題は起こった。それ以前から起きていたが、俺が関わったのはそこからだ」

 グレンが関わったところから話し、他は補足するように付け足していけばいいかと思ったのだ。

「流れ星が流れた」

 それはグレンには普通に見え、けれど普通ではなかった流れ星。妻のアクアが闇と称したもの。

「私も見ていたけど、あれは寒気のするものだったわね」

 どことなく不気味で嫌な予感がするものと言われれば、自分達が見たのとは違うのかと思わずにはいられない。

 察したようにグレンが違うと言えば、さすがにわからない感覚なだけに考えることをやめた。

「あれを正確に察していたのは、イリティスとアクア、それからレインだな」

 高位の星視ができる神官なども気付いていただろうが、そこまで数に入れていたらきりがない。

 また、一緒にいなかったシオンも外して話す。行動を共にしていなかったし、流れ星に関しては本人に確認していない。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

グラティールの公爵令嬢

てるゆーぬ(旧名:てるゆ)
ファンタジー
ファンタジーランキング1位を達成しました!女主人公のゲーム異世界転生(主人公は恋愛しません) ゲーム知識でレアアイテムをゲットしてチート無双、ざまぁ要素、島でスローライフなど、やりたい放題の異世界ライフを楽しむ。 苦戦展開ナシ。ほのぼのストーリーでストレスフリー。 錬金術要素アリ。クラフトチートで、ものづくりを楽しみます。 グルメ要素アリ。お酒、魔物肉、サバイバル飯など充実。 上述の通り、主人公は恋愛しません。途中、婚約されるシーンがありますが婚約破棄に持ち込みます。主人公のルチルは生涯にわたって独身を貫くストーリーです。 広大な異世界ワールドを旅する物語です。冒険にも出ますし、海を渡ったりもします。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

精霊のジレンマ

さんが
ファンタジー
普通の社会人だったはずだが、気が付けば異世界にいた。アシスという精霊と魔法が存在する世界。しかし異世界転移した、瞬間に消滅しそうになる。存在を否定されるかのように。 そこに精霊が自らを犠牲にして、主人公の命を助ける。居ても居なくても変わらない、誰も覚えてもいない存在。でも、何故か精霊達が助けてくれる。 自分の存在とは何なんだ? 主人公と精霊達や仲間達との旅で、この世界の隠された秘密が解き明かされていく。 小説家になろうでも投稿しています。また閑話も投稿していますので興味ある方は、そちらも宜しくお願いします。

私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。 【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】 地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。 同じ状況の少女と共に。 そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!? 怯える少女と睨みつける私。 オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。 だったら『勝手にする』から放っておいて! 同時公開 ☆カクヨム さん ✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉 タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。 そして番外編もはじめました。 相変わらず不定期です。 皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます🙇💕 これからもよろしくお願いします。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

処理中です...