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2部 二刀流の魔剣士編

女神の居城3

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 一歩踏み込むと、三枚の絵が目を引く。目の前に大きな絵が三枚飾られているのだ。

 左から青空、夕暮れ、夜空となっている背景。左右が太陽神と月神なのはわかるが、特に釘付けとなったのは中央の絵。

「グレン……じゃないな」

 似ていると思ったのだ。似ていないが似ていると思う。それがなぜなのか、シュレはわかっているつもりだった。

「こういう意味か。魂の複写……」

『あぁ。俺も見たときには驚いたけどよ、聖剣使うの見たらやりやがった、と思ったぜ』

 さすがにエシェルも絵を見たまま固まっているのだから、これはそうなるよなとしか思わない。

 聞いていても驚くが、この二人は魂の複写に関しては聞いていないのだと反応からわかる。

「フォーラン・シリウスか……」

 ハーフエルフにとっては、英雄といえば彼ではない。今の時代もそれは変わらないので、シュレは特別な想いなどもなかった。

 ただ、よく似ているなと思うだけ。これでは尚のことバルスデ王国には踏み入れないだろうと。

 説明の仕方が違ったのだろう。シオンやリオンといった英雄を見ても、シュレの反応とアイカ、エシェルの反応はまったく違った。

(魔力装置を使っていたから、俺には見せたというところか)

 そうだよなと苦笑いを浮かべる。彼にとっても昔の仲間を思いだすものになってしまうのだから。

 さすがに何度も使うものではないだろう。

「太陽神には、いずれ会えるだろ」

『そうだな…いつになるかわからないが』

「太陽神ね。ほんとに神様なんていたんだね」

 英雄ですら物語なのではないかと思われる時代、神様など信じている者はどれぐらいいるだろうか。

 少なくとも、傭兵は現実主義が多いだけにあまりいないだろうとエシェルですら思う。だからこそグレンが偽名で混ざっていられるのだが。

「歴史なんて薄れていくものだろ」

「まぁ、そうだけどさ」

 薄れさせてはいけないものだけ薄れなければいいのだと、それぐらいはアイカでも考えることが出来る。

 それに、七英雄の物語にしろ他の物語にしろ、おとぎ話でもなんでもいいのだ。こうやって伝わっているのだから。

「そこでなにをしているの?」

 それぞれが思い思いに絵を見ていれば、女性の声がして振り返る。

 振り返ったまま固まったのは言うまでもない。立っていたのは絵の一人なのだから。

『イリティス、帰ってきたのか。こいつらはグレンの客だ』

「グレンの? 珍しいじゃない。アクアじゃなくグレンが連れてくるなんて」

 太陽神と一緒に描かれている女性。どこからどう見ても同一人物だと思われたが、すべてを聞いているからこそ違うということも知っている。

『一人、想定外のことが起きた』

 ヴェガがシュレを見るから、女性の視線も自然と彼へ向けられた。

『シリンの聖弓が引き継がれた。よくわかんねぇんだが、本人が接触してきたらしいんだ』

 そのときの話は聞いていた為、グレンとヴェガはこの確認も含め、アクアの星視待ちをしている。本人が本格的にやると言ったからだ。

「なら、それを待ちましょうか。あの子の星視は間違いがないから」

 納得したように頷くと、改めて全員を見る。

 絵から抜け出したのではないかと思えるほどの女性は、全員の顔を一通り見てから笑みを浮かべた。

「知っているという感じね。私はイリティスよ。イリティス・アルヴァース。その絵は私じゃないけど」

 どうせわかっているのだろうというように言うから、肯定するようにシュレが頷く。

「シュレ・エーレルカだ」

 なにも気にせず名乗ってくるハーフエルフを見て、イリティスはなるほどと思う。グレンが気に入りそうなタイプだと思ったのだ。

 普通ならもう少し戸惑ったりするものだろうに、欠片も見せてはこない。

「傭兵組合の副組合長をしております。エシェル・フラムーンと申します」

「アイカ・カスティーリです」

 傭兵を連れてきたのかと思えば、戦力的に申し分ないとも思う。この先、戦力が必要になってくるかもしれないからと。

『グレンなら、あっちに行ったぜ。確認したいってさ』

 それだけで意味は通じたようだ。イリティスはわかったと言い部屋から出ていった。

 部屋から完全にいなくなると、誰ともなく息を吐く。さすがに追い出されないだろうが、少しばかり警戒はしていたようだ。

 ヴェガがいてよかったと思った。いなかったらただの侵入者と思われたかもしれない。

「あれが虹の女神か…」

「よく平然としていられましたね」

 さすがグレンからすべてを聞き出した男だ、とエシェルは思ったほどだ。彼女でも軽口が叩けるような相手ではない。

 肌で力の差を感じていたのだ。魔力の桁が違うと。

『たぶんな、感じてるものが違う。シリンの力は虹……つまり、お前らが感じた重圧はシュレにはない』

 同じ力を持つ者同士としての親近感のようなものはあるかもしれない。

 言われてみれば、思い当たる節があるのかシュレはそうかもと頷く。ハッキリと感じたわけではないが、そこは納得できたのだ。

 それで続きというようにヴェガを促せば、次だったなと部屋を移動した。急ぐわけでもないが、他にすることがなかったのだ。



 外へと繋がる一室、そこで探りをかけてみたがなにも得ることができなかったグレン。

 ここからでもシオンを感じ取れないなら、戻ってくるのを待つしかないとため息を吐く。

「帰ってたんだな」

「えぇ」

 振り返ることもなく言えば、そこではイリティスが見ていた。

「わかった?」

「いや。感じ取れない」

 外でなにかが起きていることは間違いがない。けれど、それを感じ取ることはできない。それができるのはシオンだけ。

 それでも、シオンの力を持つからこそ感じ取れるかもしれないと思ったのだが、やはり無理だった。

「仕方ないわね」

 彼女でもわからないのだから、これ以上は打つ手がない。おそらくわかるのは、月神だけであろう。

「話はあとでもいいか。あいつらほっとくわけにもいかないしな」

「いいわよ。グレンが客を連れてくるなんて、初めてだもの」

 それがなぜなのか知っているだけに、やらかしちゃったわねとイリティスは笑った。あとで大変よと。

 グレンも苦笑いしつつ、わかってると一言だけ言った。






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