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2部 二刀流の魔剣士編

女神の居城2

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 すべてを聞いたところで、彼女には他の二人のような知識はない。下手に口出しするよりは、求められたことをする方がいいと思っていたのだ。

 そうはいうが、元々はなんでも口に出してしまうタイプ。思ったことをぽつりぽつりと話していた。

「ここにいるのは、建設に関わった者達。その子孫だな」

 物好きどもだと言うから、三人ともがなんとも言えない表情を浮かべて見ている。これは彼なりの褒め言葉なのだろうかと思っているのだ。

「一日も過ごせばわかることだから言うが、ここに夜はない。時計を持っていないようだったら貸してやるから、自己管理してくれ」

 夜がないという言葉に、理解するまで時間を要した。さすがに、夜がないなどということがあるなんて思わない。現実的ではない。

 それでも彼が嘘など言うことはないとわかる。

『ここはな、神の力ってやつが一番強い。今は月神が欠けてる関係で、バランスが太陽神に傾いてるんだ。他のバランスを保つことを優先した結果だな』

 ここだけで済んでるんだから、問題ないだろとヴェガが言う。

 ゆっくりと歩いていたグレンについていくこと十数分。目の前に現れたのは見たこともないほど大きな城だった。

「ここ、なのか?」

 女神の居城。つまり、今現在は彼らが使用しているだろう城。

「天空城……といっても、実際にはほとんど部屋はないけどな。さすが女神様の城といったところ。だいぶ苦労した、暮らせるようにするの」

 珍しく表情が嫌そうだっただけに、相当な苦労だったのだろうと察する。

「女神の城を改築できるものなんだね」

 ボソッと呟くアイカに、これも珍しくシュレが吹き出す。おそらくグレンがどうしたのか、想像できたのだ。

「強引にやったんだな」

「あぁ。もちろん、大半はシオンにやらせたがな」

 さすがに自分でやるのは限界があると苦笑いを浮かべる。今ならまた違うのかもしれないが、と付け足すことも忘れない辺りが負けず嫌いなのだ。

 たとえ神と呼ばれていようが、友人には負けたくないという気持ちが見てわかる。それだけの努力もしているのだと。

 白い塀に囲まれた天空城。鉄格子の扉に魔力装置が設置されており、グレンが触れただけで扉は自動的に開いた。

 どうやら特定の魔力に反応する仕組みのようだ。しなくてはいけない理由があるのだろうかとシュレは見る。ほとんど住民がいないのなら、閉鎖する必要はない。

 泥棒などいないだろうし、神が暮らす場所に入るバカな真似も普通ならしないだろう。

 なによりも、入られたところで彼なら簡単に追い払える。

「絵が見たいわね。美術館にする予定だったなら、あるのでしょ」

 しっかりと整備されている道。入り口まで真っ直ぐに石畳が整備されており、左右を見ると庭もしっかり手入れされているようだった。

 これを自分達でやっているのか、住民がやっているのかと思うと、きれいだとエシェルは笑みを浮かべる。

「それは構わないが、俺は少し席を外す。ヴェガ、任せていいか」

『……行っても無駄な気がするが……行ってみろ。シオンは必要不可欠だ』

 察したヴェガが言うと、グレンは頷いてその場を後にした。

 去っていく姿を見ていたヴェガは、案内するように歩き出した。

 入ってすぐ、目の前には大きな扉がひとつ。造りはエルフのものだなとエシェルは呟く。

「詳しいですね」

「私、こういったのが好きなの」

 問いかけたシュレも、聞いていたアイカも意外だと内心思った。花でも愛でていそうなタイプに見えたから。

 見た目で判断してはいけないのだと、しみじみ思ってしまう。組合長も副組合長も、見た目を裏切る中身だと思っていた。

『たぶんだが、女神の文明もしくは女神の趣味がそのまま文明として、伝わっているんだと思うぜ』

「なるほど。では、エルフやセイレーンの文明には女神様の影響が残っているということですね」

『けどよ、エルフの文明はほぼねぇじゃん』

 エルフの美しいと言われた建造物はほぼ残ってはいない。新たに造れる者がいないからだ。

「そうなんですよ。もったいないですよね」

 この技術を知りたいぐらいで、というからヴェガは少しばかり考える。誰かいるだろうかと。

 とりあえず今はいいかと考え直すと扉を開けろとシュレを見る。さすがに小さな獣では開けられない。

「ここもすごいな」

 開いた先は円形の空間になっており、扉が三つ。中央にはおそらく女神像と思われる物まであり、美術館にしようとしたというのがよくわかる。

 壁には絵が飾られていた。見たこともない風景だが、見たことのある風景。

『女神がいた頃の世界だ。すべてリアが描いた』

 リア・ティーンだと言われれば、三人から見ても腕のいい絵描きだとわかる。これが今の時代ではなく昔のということを考えてもだ。

「東のこれは、エルフの城ね」

『あぁ。エルフの国があった。三千年前まで城はあったが、リオンが壊しちまったな』

 それだけでなぜなのかはわかる。彼女達はその跡地で傭兵をしているのだから。歴史を思い返せば、それが原因で消えたとわからないわけがない。

「天井のこれは?」

 ふと見上げてアイカが気付いた。天井に描かれた城。

『天空城だ。女神がいた頃はその名の通り天空に浮いていたからな』

 浮いているのを地上から見た城だと説明された。

 どこから見たいかと訊ねられ、三人ともが顔を見合わせる。そう聞かれてもわからないのだから、どうしたものかと思う。

 三つの部屋があり、そのどれもが内容が違うということなのだろうが、問題は内容だった。

『おっ、わりぃ。真ん中が七英雄、右が太陽神、左が月神だ』

 それも大雑把な説明だったが、なんとなくでシュレが察する。

「七英雄からでいいんじゃないか」

「そうね」

 やはり英雄は一番気になるところだと思う。誰もが幼い頃に聞かされる話なだけに。

『なら、真ん中からだな』

 さっさと向かうヴェガに、三人もすぐさま追いかける。

 外で待っていてもいいのに、とシュレだけは思っていた。中に入れば、ヴェガにとってはあまりにも懐かしすぎる仲間の絵があるのだから。

 辛くないのだろうかと思ったのだ。

『気にすんなよ。俺は気にしてねぇから』

 隣まで行くと、小さく声をかけてくる。たまにはここに来て懐かしむこともあるんだと。

「そっか…」

 ならいいかと笑いかける。




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