上 下
75 / 276
2部 二刀流の魔剣士編

新たな一歩2

しおりを挟む
 夕焼け空を見上げながら、星がうっすらと輝くのを確認する。

 ここまでくれば、流れ星と共にくると思えてきたのだ。

「夜営の準備するか」

 アイカといるから距離を置いていたシュレが、確認するようにやってきた。

 少しばかり考えていたグレンは、食事と軽く仮眠をとるだけでいいと答える。

 夜営の準備をしたところで、おそらく寝ることはできない。

「わかった。まぁ、そうなるだろうとは思ってたが」

 その視線がお前も寝ろよと言われていることに気付き、グレンは苦笑いを浮かべる。

「ほっといたら寝なそうだからな」

「お前、俺を理解しすぎだ」

 間違っていないだけになにも言えない。

 当然ながら、寝るつもりなどまったくなかったのだ。寝ていても魔物の気配などで起きることはできるが、そんな気分になれないというのが本音である。

(寝たふりもバレるよな)

 こう考えていることもバレているのだろう。わかるだけに、どうしたものかと思わずにはいられない。

 一度だけ視線がアイカへ向けられると、シュレはなにも言うことなく離れた。

 態度からして、アイカとの喧嘩はもうしないのだろうと察するグレン。ただ、それを抜きにしてもあまり好きではないようだとも思う。

 それは仕方ないかと思わなくもない。

(煩さで言えばアクアと変わらないが、大丈夫なんだろうか)

 騒がしいのが好きではないのだろうが、妻も変わらないとわかっている。それだけに、会わせたらどのような反応が返ってくるのか楽しみでもある。

「気にするな。元々、騒がしいのが好きじゃないだけだろ」

「確かに、騒がしい場所には近寄らないみたいだけど」

 酒場などに一人で行くことはないと、傭兵仲間では有名な話。誘えば意外と付き合ってくれるらしいのだが、誘う人はほとんどいない。

「そうだったのか。普通に酒場へ連れていったが、行き慣れてたから気にしなかったな」

 フィフィリスと行っていたのかもしれないとシュレを見る。

「言うタイミングを逃していたが、俺は独り身じゃない」

 アイカの気持ちには応えられないと言えば、それはもういいのだと答えが返ってきた。

「たぶん、あたいはヴィル…グレンだったね。グレンに認められたかったんだ」

 強いからと言えば、もはや苦笑いしか漏れない。

 グレン自身は自覚がない上に、ただ長く生きているだけだとしか思えないのだ。

 聖剣を使えば次元の違う力を使うことは間違いがないのだが、それ以外はどこにでもいるハーフエルフだと。

「まったく…俺をなんだと思っているんだか」

 最近は似たようなことばかり言われてるとぼやけば、アイカは笑うしかない。

 彼に至っては仕方ないことだと思うからだ。

『自覚が無さすぎるんだよ、てめぇは』

 黙って聞いていたヴェガが乱入すれば、そんなことはないというようにグレンは見る。

 ある程度の力は認めているつもりだ。磨いた自分の腕に自信はある。

 察したヴェガがそうじゃないと言うようにため息を吐く。

『まぁ、お前もシオンもあいつとは違って、そこはいいと思うぜ。あいつはもう少し謙虚になれと思ってたからな』

 やれやれと呆れてみせると、ヴェガは空を見上げる。

『仮眠ぐらいとれよ』

「気が向いたらな」

 あっさりと言えば、ヴェガは絶句してグレンを見た。

 正確にはその背後だ。彼もわかっている。シュレが立っているのだと。

「おとなしく寝ろ」

 聞いたこともないほど低い声で言われれば、さすがにアイカも引いていた。引きつった表情でグレンの背後を見ている。

「シュレ、アイカが引いてるぞ」

「話を変えても無駄だからな」

 話題を反らそうとしてみたところ、それは失敗に終わった。

 降参だと言うようにグレンが立ち上がれば、苦笑いを浮かべているエシェルの姿が。

 彼女も、シュレがここまでやるとは思っていなかったのだろう。

 仮眠用の天幕へ入っていくのを見ると、エシェルとカルヴィブはアイカの元へ移動した。

 周囲に誰もいない方がいいという判断だが、同時に寝ないだろうという確信もあったりする。

「さて、寝ている間に話をしておきたいんだが」

 寝ていないとわかっていながら、そこに触れることなくカルヴィブは話し出す。

「グレン殿はこのまま組合を離れるだろう。そのとき、シュレは」

「勝手についていきますから気にしないでください」

 あっさりと言われた言葉にカルヴィブは頷く。言われるまでもなく、わかっていたことだ。

 グレンもそのつもりでシュレにはすべてを話している。

「あの様子だと、アイカにも同行を求めてくるだろう。行くか」

「行きます」

 事情はなにも知らない。それでも、グレンが必要としてくれるなら行きたいと思ったのだ。

 今までとは違う表情に、カルヴィブはわかったと一言告げた。今の彼女なら問題ないという判断だろう。

 アイカが行くと言った瞬間、シュレの視線が探るように向けられる。

 グレンが許可を出せば文句の言いようもないが、不安要素が拭えないのは言うまでもない。

「さて、私も行きたいところなんだが」

「バカなことを言わないで」

 バッサリと切られれば、わかっているとカルヴィブは苦笑いを浮かべる。

「だから、いざとなったら君に頼むよ」

「はい?」

 この人はなにを言い出すのかと、怪訝そうに見るエシェル。本気なのかと探ってみたが、どうやら本気のようだ。

「君しかいないだろ。この二人以外で、グレン殿と組んだ経験のある傭兵」

 なにかあったとき、組んだこともあり事情を知っているエシェルが適任だと言えば、そうかもしれないと思えてしまうから困る。

 なにをするかわからない英雄王。それがエシェルの評価だったりするから。

「シュレがいるなら、私はいらない気もしますが」

 もしも求めてきたなら、そのときは同行することを承諾した。




.
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

まもののおいしゃさん

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
まもののおいしゃさん〜役立たずと追い出されたオッサン冒険者、豊富な魔物の知識を活かし世界で唯一の魔物専門医として娘とのんびりスローライフを楽しんでいるのでもう放っておいてくれませんか〜 長年Sランクパーティー獣の檻に所属していたテイマーのアスガルドは、より深いダンジョンに潜るのに、足手まといと切り捨てられる。 失意の中故郷に戻ると、娘と村の人たちが優しく出迎えてくれたが、村は魔物の被害に苦しんでいた。 貧乏な村には、ギルドに魔物討伐を依頼する金もない。 ──って、いやいや、それ、討伐しなくとも、何とかなるぞ? 魔物と人の共存方法の提案、6次産業の商品を次々と開発し、貧乏だった村は潤っていく。 噂を聞きつけた他の地域からも、どんどん声がかかり、民衆は「魔物を守れ!討伐よりも共存を!」と言い出した。 魔物を狩れなくなった冒険者たちは次々と廃業を余儀なくされ、ついには王宮から声がかかる。 いやいや、娘とのんびり暮らせれば充分なんで、もう放っておいてくれませんか? ※魔物は有名なものより、オリジナルなことが多いです。  一切バトルしませんが、そういうのが  お好きな方に読んでいただけると  嬉しいです。

無属性魔法って地味ですか? 「派手さがない」と見捨てられた少年は最果ての領地で自由に暮らす

鈴木竜一
ファンタジー
《本作のコミカライズ企画が進行中! 詳細はもうしばらくお待ちください!》  社畜リーマンの俺は、歩道橋から転げ落ちて意識を失い、気がつくとアインレット家の末っ子でロイスという少年に転生していた。アルヴァロ王国魔法兵団の幹部を務めてきた名門アインレット家――だが、それも過去の栄光。今は爵位剥奪寸前まで落ちぶれてしまっていた。そんなアインレット家だが、兄が炎属性の、姉が水属性の優れた魔法使いになれる資質を持っていることが発覚し、両親は大喜び。これで再興できると喜ぶのだが、末っ子の俺は無属性魔法という地味で見栄えのしない属性であると診断されてしまい、その結果、父は政略結婚を画策し、俺の人生を自身の野望のために利用しようと目論む。  このまま利用され続けてたまるか、と思う俺は父のあてがった婚約者と信頼関係を築き、さらにそれまで見向きもしなかった自分の持つ無属性魔法を極め、父を言いくるめて辺境の地を領主として任命してもらうことに。そして、大陸の片隅にある辺境領地で、俺は万能な無属性魔法の力を駆使し、気ままな領地運営に挑む。――意気投合した、可愛い婚約者と一緒に。

ゆとりある生活を異世界で

コロ
ファンタジー
とある世界の皇国 公爵家の長男坊は 少しばかりの異能を持っていて、それを不思議に思いながらも健やかに成長していた… それなりに頑張って生きていた俺は48歳 なかなか楽しい人生だと満喫していたら 交通事故でアッサリ逝ってもた…orz そんな俺を何気に興味を持って見ていた神様の一柱が 『楽しませてくれた礼をあげるよ』 とボーナスとして異世界でもう一つの人生を歩ませてくれる事に… それもチートまでくれて♪ ありがたやありがたや チート?強力なのがあります→使うとは言ってない   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 身体の状態(主に目)と相談しながら書くので遅筆になると思います 宜しくお付き合い下さい

続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん
ファンタジー
⭐︎書籍化決定⭐︎  『拾ってたものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』  第2巻:2024年5月20日(月)に各書店に発送されます。  書籍化される[106話]まで引き下げレンタル版と差し替えさせて頂きます。  第1巻:2023年12月〜    改稿を入れて読みやすくなっております。  是非♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は小さな子狼に気に入られ、共に異世界に送られた。 絶対神リュオンが求めたのは2人で自由に生きる事。 前作でダークエルフの脅威に触れた世界は各地で起こっている不可解な事に憂慮し始めた。 そんな中、異世界にて様々な出会いをし家族を得たイオリはリュオンの願い通り自由に生きていく。 まだ、読んでらっしゃらない方は先に『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』をご覧下さい。 前作に続き、のんびりと投稿してまいります。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15にしています。 ※誤字脱字が存在する可能性か高いです。  苦笑いで許して下さい。

異世界で等価交換~文明の力で冒険者として生き抜く

りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とし、愛犬ルナと共に異世界に転生したタケル。神から授かった『等価交換』スキルで、現代のアイテムを異世界で取引し、商売人として成功を目指す。商業ギルドとの取引や店舗経営、そして冒険者としての活動を通じて仲間を増やしながら、タケルは異世界での新たな人生を切り開いていく。商売と冒険、二つの顔を持つ異世界ライフを描く、笑いあり、感動ありの成長ファンタジー!

異世界のんびり冒険日記

リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。 精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。 とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて… ================================ 初投稿です! 最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。 皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m 感想もお待ちしております!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...