上 下
74 / 276
2部 二刀流の魔剣士編

新たな一歩

しおりを挟む
 ハーフエルフの里へ行くことになったグレン達。

 その最中、目当てのおそらく魔物の姿をした干渉者が現れなければ、またなにかしらの理由をつけて出なくてはいけない。

 次はどうするかと考えながら、道中の魔物を倒していた。

 そして、街を出た二日後に目当ての干渉者はやってきたのだ。

「無駄にならなかったか」

 なんとも言えない空気を感じた瞬間、グレンはニヤリと笑いながら空を見上げる。

「だから、鋭すぎだろ」

 異変など感じないとシュレが言えば、同意するように三人が頷く。

 三人とはもちろん、アイカ、エシェル、カルヴィブのことだ。

 エルフやハーフエルフである三人ですら、なにも感じ取れていない。まだ近くにはいないということだろう。

「とりあえず、ここで待つか」

 敵がやってくるとわかっているのだから、先へ進むわけにはいかない。

 なにせ、やってくるのは普通ではない魔物だ。周囲が広いほどグレンにとっては戦いやすい。

 メンバーがメンバーだからか、アイカはおとなしくしている。

 シュレと喧嘩をすることもなく、意味がわからないことだらけだろうになにも問いかけることもない。

 グレンはどうなることかと思っていたが、なんとかなりそうだとひと安心した。

「アイカ、あとですべて話してやる。お前も関わってしまったからな」

「ヴィル…」

 この戦いが終わったらすべて話す。その後は自分で判断しろと言われれば、アイカは静かに頷く。

「それとな、それは偽名だ。使っておいてなんだが、落ち着かない」

 本来の名前はグレンだと言えば、わかったと答える。

 特に疑問を持たない辺り、自分の名前はそこまで珍しくないのだなと思ってしまう。

「ありきたりの名前よ」

「そうなのか?」

 試しに聞いてみれば、なにを聞くのかというように見られてしまった。

 以前シオンが複雑だと言っていたのを思いだし、やっと気持ちが理解できたと苦笑いを浮かべる。

 名前の付け方など、そのようなものなのかもしれない。息子の名前を考えたときのことを思いだし、そう納得しようと思うのだった。

「シュレは知ってるわけね」

「あいつは、初めから疑ってたからな。あっさりバレた」

 シュレが喧嘩をするときは、ほとんどがグレンに絡んだとき。

 振り返ってみれば、彼は自分を遠ざけようとしているように思えていた。そこも彼の秘密にあったのかと思う。

 思うことができるようになったのだ。このメンバーで過ごしたことで。

「冷静に判断できるようになれ。そうすれば、お前は頼もしい戦力になる」

 だから連れてきたと言われれば、認められたようで嬉しくなる。

(そっか、あたいは…)

 彼に認められたかったのだと気付いてしまった。だから、こうも彼に執着していたのだと。

(恋ではないね)

 そのことも見抜かれていたのかもしれない。シュレの背中を見ながら、そう思えた。

 あれはいつだったかと思いだす。組合に呼び出されたかと思えば、新人と組めと言われたのだ。

 今までは新人ではなかった。それが、ついに新人と組めと組合は言う。そこまで自分は評価がないのかと思ったのだ。

 実力はあると信じていた。いや、確信していたのだ。

 アイカは三人兄弟だったが、傭兵になったのは末っ子のアイカだけ。元傭兵の父親が認めたのが、アイカだけだったのだ。

「あたいは、強い?」

「あぁ。実力だけならな」

 ハッキリと言われた言葉に、だからダメだったのかと思う。

 つまり、実力以外でダメだったのだ。わかってしまえば、それは仕方ないとすら思えてくるから不思議だった。

「…まだ、間に合うのかな」

「始めることに遅いってことはないだろ。特に、人間じゃない俺達はな」

「そうだね」

 グレンがこんな風に話してきたのも、おそらく今なら大丈夫と判断してのこと。アイカにも理解できた。

 父親が傭兵としてやっていけると認めたこと、それによって思い違いをしていたのかもしれない。

 なぜだかそんなことを考えるようになっていた。たったの二日で、アイカの考えはだいぶ変わっていたのだ。

 その変化を察して、グレンは声をかけてきたのだろう。

「シュレも昔はお前に近かったみたいだからな。誰よりもわかるから、あんな態度なんだろう」

「見えない…」

 今しか知らないアイカからすれば、ずっと冷静でクールなのだと思っていた。

「だよな。俺でも意外だと思った」

 あれだけできるのだから、傭兵になったときから冷静な判断力を持っていると思っていたのだ。

「まぁ、初めから完璧な奴なんていないさ」

 笑いながら言えば、アイカも笑って頷く。

 確かにそうなのかもしれない。父親も強かったが、最初から強い傭兵をしていたわけではないはずだ。

 認めてもらえたのは、あくまでも素質がるという判断がもらえただけだったのかもしれないと思う。




.
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

「異世界ファンタジーで15+1のお題」一

ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
レヴがなにげなく足を踏み入れた深い森…そこは違う世界と繋がった不思議な場所だった…

RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya
ファンタジー
戦争・紛争の収まらぬ戦乱の世で 平和への夜明けを導く者は誰だ? 其々の正義が織り成す長編ファンタジー。 〜本編あらすじ〜 広く豊かな海に囲まれ、大陸に属さず 島国として永きに渡り歴史を紡いできた 独立国家《プレジア》 此の国が、世界に其の名を馳せる事となった 背景には、世界で只一国のみ、そう此の プレジアのみが執り行った政策がある。 其れは《鎖国政策》 外界との繋がりを遮断し自国を守るべく 百年も昔に制定された国家政策である。 そんな国もかつて繋がりを育んで来た 近隣国《バルモア》との戦争は回避出来ず。 百年の間戦争によって生まれた傷跡は 近年の自国内紛争を呼ぶ事態へと発展。 その紛争の中心となったのは紛れも無く 新しく掲げられた双つの旗と王家守護の 象徴ともされる一つの旗であった。 鎖国政策を打ち破り外界との繋がりを 再度育み、此の国の衰退を止めるべく 立ち上がった《独立師団革命軍》 異国との戦争で生まれた傷跡を活力に 革命軍の考えを異と唱え、自国の文化や 歴史を護ると決めた《護国師団反乱軍》 三百年の歴史を誇るケーニッヒ王家に仕え 毅然と正義を掲げ、自国最高の防衛戦力と 評され此れを迎え討つ《国王直下帝国軍》 乱立した隊旗を起点に止まらぬ紛争。 今プレジアは変革の時を期せずして迎える。 此の歴史の中で起こる大きな戦いは後に 《日の出戦争》と呼ばれるが此の物語は 此のどれにも属さず、己の運命に翻弄され 巻き込まれて行く一人の流浪人の物語ーー。 

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
田舎貴族であるユウマ-バルムンクは、十五歳を迎え王都にある貴族学校に通うことになった。 最強の師匠達に鍛えられ、田舎から出てきた彼は知らない。 自分の力が、王都にいる同世代の中で抜きん出ていることを。 そして、その価値観がずれているということも。 これは自分にとって普通の行動をしているのに、いつの間にかモテモテになったり、次々と降りかかる問題を平和?的に解決していく少年の学園無双物語である。 ※ 極端なざまぁや寝取られはなしてす。 基本ほのぼのやラブコメ、時に戦闘などをします。

転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

高木コン
ファンタジー
第一巻が発売されました! レンタル実装されました。 初めて読もうとしてくれている方、読み返そうとしてくれている方、大変お待たせ致しました。 書籍化にあたり、内容に一部齟齬が生じておりますことをご了承ください。 改題で〝で〟が取れたとお知らせしましたが、さらに改題となりました。 〝で〟は抜かれたまま、〝お詫びチートで〟と〝転生幼女は〟が入れ替わっております。 初期:【お詫びチートで転生幼女は異世界でごーいんぐまいうぇい】 ↓ 旧:【お詫びチートで転生幼女は異世界ごーいんぐまいうぇい】 ↓ 最新:【転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい】 読者の皆様、混乱させてしまい大変申し訳ありません。 ✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - - ――神様達の見栄の張り合いに巻き込まれて異世界へ  どっちが仕事出来るとかどうでもいい!  お詫びにいっぱいチートを貰ってオタクの夢溢れる異世界で楽しむことに。  グータラ三十路干物女から幼女へ転生。  だが目覚めた時状況がおかしい!。  神に会ったなんて記憶はないし、場所は……「森!?」  記憶を取り戻しチート使いつつ権力は拒否!(希望)  過保護な周りに見守られ、お世話されたりしてあげたり……  自ら面倒事に突っ込んでいったり、巻き込まれたり、流されたりといろいろやらかしつつも我が道をひた走る!  異世界で好きに生きていいと神様達から言質ももらい、冒険者を楽しみながらごーいんぐまいうぇい! ____________________ 1/6 hotに取り上げて頂きました! ありがとうございます! *お知らせは近況ボードにて。 *第一部完結済み。 異世界あるあるのよく有るチート物です。 携帯で書いていて、作者も携帯でヨコ読みで見ているため、改行など読みやすくするために頻繁に使っています。 逆に読みにくかったらごめんなさい。 ストーリーはゆっくりめです。 温かい目で見守っていただけると嬉しいです。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

処理中です...