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2部 二刀流の魔剣士編
グレンの昔話2
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次に映し出された姿にグレンの動きは止まる。なんともいえない表情で見ているのだ。
「ヴァルス・ソレニムスか?」
彼がそんな表情を浮かべる理由は、それしかない。それだけ特別な存在なのだ。
「……そうだ。ヴァルス・ソレニムス。この当時、孤児院の出でありながら月光騎士団の団長にまで上り詰めた騎士。一緒にいるのがリオ……ジューリオ・ノヴァ・オーヴァチュアで聖虹騎士団の団長」
おそらく船旅の風景だろう。私服を着た騎士が二人、グレンの傍についている。
彼が傍に置いていた側近でもあるのだろう。それがわかるからこそ、気になるのはグレンの気持ちだった。
「リオは貴族の育ちで、親を裏切ってまで俺の傍にいてくれた騎士。といっても、それを知ったのはもっとあとだ。このときは貴族としか知らなかったな」
名前だけで有名な貴族だとわかっていたから。問いかけるまでもないことだった。
バルスデでは強い権力をもつ貴族の家柄だと説明すれば、シュレは自分でも名前でわかると苦笑い。
風景だけが切り替わっていくと、シュレが見たことのない風景へとなる。それだけでそこが西の大陸なのだとわかったほどだ。
「北から西へ行ったのは?」
紹介をさせたことで、北でなにがあったかを聞き忘れたと苦笑い。
なにかがあったから西へ行ったのだ。西へ行くのが共通の目的だった、ということぐらいしかシュレにはわからなかった。
「バルスデ王国が襲撃されたしか言ってなかったか。アクアは西からの使者として来ていたこともあって、西へ戻るという判断をした」
東から襲撃されたことでグレンも西へ行くしかないと思っていたし、決め手はアクアの星視だ。
それがなければ、グレンどころかヴァルスとリオも決断はできなかっただろうと言う。
「イリスは引くに引けなかった、というところだろうが」
彼女はこの時点では無関係。帰ることもできたはずで、彼女が帰ればシオンもついていっただろうことは間違いない。
記憶を失っていたシオンは、イリスと行動していたいという気持ちでいただけだったのだから。
「船に乗っているときだった。二つ目の封印が破壊されたのは」
あの瞬間気付いたのだ。そのためだけにバルスデ王国を襲撃したのだと。
予測でしかなかったが、アクアとの付き合いは長くなりそうだと思った。
「シオンとはこうなるとは思っていなかったがな」
彼との関係が完全に変わったのは、西で起きた出来事がきっかけである。
「西で、俺は自分がバルスデの追放された王子だと話した。メリシル国の女王と協力関係になったのはこのときだ」
これ以降、長い付き合いを続けていたことにより、今現在も王家はメリシル国との繋がりを持っているのだ。
世界としては、騎士国となったバルスデ王国と神聖国が手を取り合っていることは、いいことなのかもしれない。
「知りたいんだろ。もっと正確な俺の過去」
この流れで教えてもらえることを期待していたことは、グレンも気付いていた。
「まったく……」
この英雄はとぼやけば、ニヤリと笑ってみせる。
食べ物と一緒に買っていたお酒を一口飲めば、今度は飲むのかよという視線が投げ掛けられる。
「バルスデ王国は貴族が力を持つ国だった。貴族の蹴落とし合いが当たり前のように繰り広げられるぐらいにな」
力ある貴族の中には、珍しいことにエルフの家系があった。その名をエリントン家。
エルフが力を持つことを気にくわない貴族は多く、蹴落とす機会を待っていた当時のこと。
「まさか、お前が生まれてきたのか」
「そうだ。俺が、ハーフエルフとして生まれてきた」
利用されたのだということはすぐさまわかる。エルフの貴族を蹴落とすことに王子を利用した。
そんなことが許されるのかと思わなくはない。なにせ利用したのは王子だ。
「母上は離れに追いやられ、毎日泣いていた。だから、俺は自分から城を出たんだ」
えっ、と驚くシュレ。幼い少年が、母親が泣いてばかりだからと城を出るなど信じられなかった。
その行動が正しかったのかどうか、本当のところはわからない。今でもわからないのだ。
間違えだったのかもしれないと思うこともあった。けれど、あの行動があったからこそ今の自分があると思えば。悪くはないとも思う。
「俺がいなければ母上はもとに戻れるかもしれない。ハーフエルフなど生んでいないことにすればいい…」
「なんて考えだ。子供の考えじゃないな」
俺も思うと苦笑いを浮かべた。普通ではないと。
「結局、変わらなかった。エリントン家への扱いもな」
人間の夫婦からハーフエルフが生まれるわけない。そう考えることは当たり前なことで、それ自体を責めることはできないのだ。
エルフの血が混ざったとなれば、疑われてしまうのも当然と言えよう。
「父親が信じていれば、もっと違ったかもしれないわけだ」
「かもな。ただ、過程はどうであれ今がよければいいかと思う」
笑いながら言われてしまえば、こうなりたいものだと思わずにはいられなかった。
城を出たあとは孤児院へと入ることに。そこで出会ったのがヴァルス・ソレニムスだった。
「あの頃は過去を話してはくれなかったが、どうやら両親を獣に食われたことで孤児院へ入ったらしい」
何事もないように言うが、さすがにシュレでも想像してしまった光景に吐き気がする。
経験はないが、見たいものではない。子供が見ればトラウマにでもなりそうなものだ。
「稼ぎがいいからという理由だけで騎士を目指したヴァルスは、そこでリオと知り合った。リオといることで、俺が追放された王子だということも知って、なぜか俺のために動いてくれたんだよな」
あれだけはわからないと言う。なにせ、王族として育っていないグレンへ、王位を継いでほしいと望んでいたのだから。
なぜかと聞いたこともあったが、特に意味はないと言われて終わり。
「あいつのことだから、本当に意味がなかったかもしれないが。リオは理由もわかってるんだけどな」
話に聞いているだけで、二人の性格が面白いと思えてしまうから不思議だ。
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「ヴァルス・ソレニムスか?」
彼がそんな表情を浮かべる理由は、それしかない。それだけ特別な存在なのだ。
「……そうだ。ヴァルス・ソレニムス。この当時、孤児院の出でありながら月光騎士団の団長にまで上り詰めた騎士。一緒にいるのがリオ……ジューリオ・ノヴァ・オーヴァチュアで聖虹騎士団の団長」
おそらく船旅の風景だろう。私服を着た騎士が二人、グレンの傍についている。
彼が傍に置いていた側近でもあるのだろう。それがわかるからこそ、気になるのはグレンの気持ちだった。
「リオは貴族の育ちで、親を裏切ってまで俺の傍にいてくれた騎士。といっても、それを知ったのはもっとあとだ。このときは貴族としか知らなかったな」
名前だけで有名な貴族だとわかっていたから。問いかけるまでもないことだった。
バルスデでは強い権力をもつ貴族の家柄だと説明すれば、シュレは自分でも名前でわかると苦笑い。
風景だけが切り替わっていくと、シュレが見たことのない風景へとなる。それだけでそこが西の大陸なのだとわかったほどだ。
「北から西へ行ったのは?」
紹介をさせたことで、北でなにがあったかを聞き忘れたと苦笑い。
なにかがあったから西へ行ったのだ。西へ行くのが共通の目的だった、ということぐらいしかシュレにはわからなかった。
「バルスデ王国が襲撃されたしか言ってなかったか。アクアは西からの使者として来ていたこともあって、西へ戻るという判断をした」
東から襲撃されたことでグレンも西へ行くしかないと思っていたし、決め手はアクアの星視だ。
それがなければ、グレンどころかヴァルスとリオも決断はできなかっただろうと言う。
「イリスは引くに引けなかった、というところだろうが」
彼女はこの時点では無関係。帰ることもできたはずで、彼女が帰ればシオンもついていっただろうことは間違いない。
記憶を失っていたシオンは、イリスと行動していたいという気持ちでいただけだったのだから。
「船に乗っているときだった。二つ目の封印が破壊されたのは」
あの瞬間気付いたのだ。そのためだけにバルスデ王国を襲撃したのだと。
予測でしかなかったが、アクアとの付き合いは長くなりそうだと思った。
「シオンとはこうなるとは思っていなかったがな」
彼との関係が完全に変わったのは、西で起きた出来事がきっかけである。
「西で、俺は自分がバルスデの追放された王子だと話した。メリシル国の女王と協力関係になったのはこのときだ」
これ以降、長い付き合いを続けていたことにより、今現在も王家はメリシル国との繋がりを持っているのだ。
世界としては、騎士国となったバルスデ王国と神聖国が手を取り合っていることは、いいことなのかもしれない。
「知りたいんだろ。もっと正確な俺の過去」
この流れで教えてもらえることを期待していたことは、グレンも気付いていた。
「まったく……」
この英雄はとぼやけば、ニヤリと笑ってみせる。
食べ物と一緒に買っていたお酒を一口飲めば、今度は飲むのかよという視線が投げ掛けられる。
「バルスデ王国は貴族が力を持つ国だった。貴族の蹴落とし合いが当たり前のように繰り広げられるぐらいにな」
力ある貴族の中には、珍しいことにエルフの家系があった。その名をエリントン家。
エルフが力を持つことを気にくわない貴族は多く、蹴落とす機会を待っていた当時のこと。
「まさか、お前が生まれてきたのか」
「そうだ。俺が、ハーフエルフとして生まれてきた」
利用されたのだということはすぐさまわかる。エルフの貴族を蹴落とすことに王子を利用した。
そんなことが許されるのかと思わなくはない。なにせ利用したのは王子だ。
「母上は離れに追いやられ、毎日泣いていた。だから、俺は自分から城を出たんだ」
えっ、と驚くシュレ。幼い少年が、母親が泣いてばかりだからと城を出るなど信じられなかった。
その行動が正しかったのかどうか、本当のところはわからない。今でもわからないのだ。
間違えだったのかもしれないと思うこともあった。けれど、あの行動があったからこそ今の自分があると思えば。悪くはないとも思う。
「俺がいなければ母上はもとに戻れるかもしれない。ハーフエルフなど生んでいないことにすればいい…」
「なんて考えだ。子供の考えじゃないな」
俺も思うと苦笑いを浮かべた。普通ではないと。
「結局、変わらなかった。エリントン家への扱いもな」
人間の夫婦からハーフエルフが生まれるわけない。そう考えることは当たり前なことで、それ自体を責めることはできないのだ。
エルフの血が混ざったとなれば、疑われてしまうのも当然と言えよう。
「父親が信じていれば、もっと違ったかもしれないわけだ」
「かもな。ただ、過程はどうであれ今がよければいいかと思う」
笑いながら言われてしまえば、こうなりたいものだと思わずにはいられなかった。
城を出たあとは孤児院へと入ることに。そこで出会ったのがヴァルス・ソレニムスだった。
「あの頃は過去を話してはくれなかったが、どうやら両親を獣に食われたことで孤児院へ入ったらしい」
何事もないように言うが、さすがにシュレでも想像してしまった光景に吐き気がする。
経験はないが、見たいものではない。子供が見ればトラウマにでもなりそうなものだ。
「稼ぎがいいからという理由だけで騎士を目指したヴァルスは、そこでリオと知り合った。リオといることで、俺が追放された王子だということも知って、なぜか俺のために動いてくれたんだよな」
あれだけはわからないと言う。なにせ、王族として育っていないグレンへ、王位を継いでほしいと望んでいたのだから。
なぜかと聞いたこともあったが、特に意味はないと言われて終わり。
「あいつのことだから、本当に意味がなかったかもしれないが。リオは理由もわかってるんだけどな」
話に聞いているだけで、二人の性格が面白いと思えてしまうから不思議だ。
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