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2部 二刀流の魔剣士編
グレンの昔話
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さすがに食事を挟み、多少の食料も買ってから話の続きをすることにした二人と一匹。長くなるから、食事はとるべきとヴェガが言ったのだ。
「シュレは世界の誕生は知ってるか?」
すべてを話すなら、まずはそこからだとグレンは言う。
「まったく知らないな。七英雄の物語は東にもあるが」
なるほどと呟くと、ならばそこからだと話し出す。
この世界は一人の女神によって創られた。女神の名前はメルレール。
「あまり言うのはいないが、この世界はメルレール界とか呼ばれることもある」
誕生した当時はどの大陸もすべて同じで、緑溢れ穏やかな気候だった。
「魔王が現れたことで壊れた、だったよな」
「……そうだな。今はそれでいい」
この段階でその方が話がしやすいとグレンが言えば、もっと違う話があるのだと表情を引き締める。
どうやら、思っていた以上に衝撃的な話が待っていそうだと。
七英雄の物語へ合わせるよう、グレンは英雄の誕生を話し出すことに。それが事実でなかったとしても、あの当時は事実として認識していたことだ。
間違いではないし、今の世界にはそう伝えられている。
「魔王が現れて、悲しみで女神は分かれてしまった。その力を得た双子の人間、それがシオン・アルヴァースとリオン・アルヴァースだ」
七英雄の物語はここから始まるだろと言われれば、シュレも自分が知っているのはそうだと頷く。
長い年月を経て七英雄の物語は統一されたのだ。神として描かれているのは西の神聖国だけだが、その部分を除けばすべてが同じで描かれている。
「最初に旅をして他の仲間と出会った、でいいんだよな」
「あぁ、そして…イリティス・シルヴァンの死と引き換えに魔王との戦いを終わらせた」
妙な言い方だとシュレの表情が変わった。本では倒したとしっかり書かれていたことだし、死者がでたとは書かれていない。
本とは違っていたが、グレンが言うならこれが正しいのだと思う。目の前にいる彼は太陽神といるのだから。
「七英雄は、特に問題がないなら省略するぞ。大方知ってるみたいだしな」
一般的に知っていることは、現状正しいことだから説明の必要もない。
違う部分はこの先出てくることだ。
「ここからは、俺が関わった出来事だ」
記憶を無くしたシオン・アルヴァースがイリス・シーゼルというエルフの女性に拾われたところから始まる物語。
魔王が倒されたのではなく、本当は封印されているだけだったと聞いたシュレは、終わったと表現した意味を理解した。
「言葉通り、そのときは終わっただけということか」
「そうだ。知っている者はほとんどいなかったがな」
ただし、封印を守る一部の者は知っていたことでもある。本当に一部の者で、厳重に管理されていた。
「らしい。俺も封印は知らなかったからな」
この件に関わったとき、それを知れるような立場ではなかったのだ。
最初に壊されたのはエルフの守る封印。それによって、イリス・シーゼルが北へ向かって動き始め、シオン・アルヴァースも共に動いた。
「俺があの二人と初めて会ったのは、当時住んでいたウォルドだった。変な気配がした二人、それが第一印象だ」
関わることはないと思ったことから、そのときはすぐさま記憶の片隅へ追いやってしまったのだ。
「すぐ掘り返すことになったがな」
「そんなすぐに再会したのかよ」
ため息を吐く姿に、シュレも苦笑いを浮かべる。
「早かったな。俺もバルスデに用があって向かったら、襲撃にあって逃げてきた三人と遭遇した。といったところだな」
そこから行動を共にしていたと言えば、巻き込まれたのか同じ問題に関わったのかと思い、すぐに答えはわかるかと先を促す。
「このときは行く先が同じだからと思っていたが、たぶん必然の出会いだったんだ」
時計の魔力装置を発動させれば、その様子が映し出されていく。
懐かしむように見るグレンに、シュレもこれが昔の仲間だったのかと見る。
「どうせなら紹介してくれると助かるんだが。これから名前がでてくる面子だろ」
グレンと関わる仲間となれば、話の中にでてくることは間違いない。
「そうだな。さっきも見せたシオンとローズ」
少しばかりぼんやりした赤髪の青年。これは記憶を失っていたことに関係があると言えば、シュレも詳しく聞くことはしない。
ローズと言われた獣もヴェガとよく似ている。毛色がピンクであることと、額に角がないだけ。
「イリス・シーゼル。詳しいことはこの先で話す」
黄緑色の髪をした女性。グレンが変だと感じた二人と聞いていたから、シュレもよく見てみたがわからない。
(映し出されたのじゃダメなのか)
それとも、自分ではわからないということなのか。判断に迷うところだとシュレは思う。
なにせ、自分が見ているのはただ映し出されただけのものなのだから。
真剣な表情で見る姿に気付いたのか、グレンは苦笑いを浮かべる。
「たぶんわからない。俺しか気付いていなかったらしいからな。その理由も…」
「この先を聞けばわかる、か」
映し出されたこと以前の問題だったようだと、シュレも苦笑いを浮かべた。
「お前の様子が別人なのもか」
「……そうだな。話すさ、それも」
自分で見ても、昔の自分は別人に見えてしまうから困ったものだ。
こうも無機質だったのかと思ったほどに、昔の自分はなにも感じることができない。
『アクア・シェーラ……グレンの奥さんだな』
水色の髪が特徴的なセイレーンが現れれば、シュレは新しいことに気付く。二人の奥底にある似た輝きだ。
「メリシル国で神官をしていた。歌姫で星視の力が強く、孤独な少女…」
その言葉を聞いて、感じたことは間違いではなかったと思う。それが二人を結びつけたのだとも。
結果として幸せを掴めたならいいのかもしれない。シュレが知る限り、英雄王と王妃は不幸ではなかった。
目の前にいる彼を見て、歴史として記された話は正しいのだと思ってきたことだ。
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「シュレは世界の誕生は知ってるか?」
すべてを話すなら、まずはそこからだとグレンは言う。
「まったく知らないな。七英雄の物語は東にもあるが」
なるほどと呟くと、ならばそこからだと話し出す。
この世界は一人の女神によって創られた。女神の名前はメルレール。
「あまり言うのはいないが、この世界はメルレール界とか呼ばれることもある」
誕生した当時はどの大陸もすべて同じで、緑溢れ穏やかな気候だった。
「魔王が現れたことで壊れた、だったよな」
「……そうだな。今はそれでいい」
この段階でその方が話がしやすいとグレンが言えば、もっと違う話があるのだと表情を引き締める。
どうやら、思っていた以上に衝撃的な話が待っていそうだと。
七英雄の物語へ合わせるよう、グレンは英雄の誕生を話し出すことに。それが事実でなかったとしても、あの当時は事実として認識していたことだ。
間違いではないし、今の世界にはそう伝えられている。
「魔王が現れて、悲しみで女神は分かれてしまった。その力を得た双子の人間、それがシオン・アルヴァースとリオン・アルヴァースだ」
七英雄の物語はここから始まるだろと言われれば、シュレも自分が知っているのはそうだと頷く。
長い年月を経て七英雄の物語は統一されたのだ。神として描かれているのは西の神聖国だけだが、その部分を除けばすべてが同じで描かれている。
「最初に旅をして他の仲間と出会った、でいいんだよな」
「あぁ、そして…イリティス・シルヴァンの死と引き換えに魔王との戦いを終わらせた」
妙な言い方だとシュレの表情が変わった。本では倒したとしっかり書かれていたことだし、死者がでたとは書かれていない。
本とは違っていたが、グレンが言うならこれが正しいのだと思う。目の前にいる彼は太陽神といるのだから。
「七英雄は、特に問題がないなら省略するぞ。大方知ってるみたいだしな」
一般的に知っていることは、現状正しいことだから説明の必要もない。
違う部分はこの先出てくることだ。
「ここからは、俺が関わった出来事だ」
記憶を無くしたシオン・アルヴァースがイリス・シーゼルというエルフの女性に拾われたところから始まる物語。
魔王が倒されたのではなく、本当は封印されているだけだったと聞いたシュレは、終わったと表現した意味を理解した。
「言葉通り、そのときは終わっただけということか」
「そうだ。知っている者はほとんどいなかったがな」
ただし、封印を守る一部の者は知っていたことでもある。本当に一部の者で、厳重に管理されていた。
「らしい。俺も封印は知らなかったからな」
この件に関わったとき、それを知れるような立場ではなかったのだ。
最初に壊されたのはエルフの守る封印。それによって、イリス・シーゼルが北へ向かって動き始め、シオン・アルヴァースも共に動いた。
「俺があの二人と初めて会ったのは、当時住んでいたウォルドだった。変な気配がした二人、それが第一印象だ」
関わることはないと思ったことから、そのときはすぐさま記憶の片隅へ追いやってしまったのだ。
「すぐ掘り返すことになったがな」
「そんなすぐに再会したのかよ」
ため息を吐く姿に、シュレも苦笑いを浮かべる。
「早かったな。俺もバルスデに用があって向かったら、襲撃にあって逃げてきた三人と遭遇した。といったところだな」
そこから行動を共にしていたと言えば、巻き込まれたのか同じ問題に関わったのかと思い、すぐに答えはわかるかと先を促す。
「このときは行く先が同じだからと思っていたが、たぶん必然の出会いだったんだ」
時計の魔力装置を発動させれば、その様子が映し出されていく。
懐かしむように見るグレンに、シュレもこれが昔の仲間だったのかと見る。
「どうせなら紹介してくれると助かるんだが。これから名前がでてくる面子だろ」
グレンと関わる仲間となれば、話の中にでてくることは間違いない。
「そうだな。さっきも見せたシオンとローズ」
少しばかりぼんやりした赤髪の青年。これは記憶を失っていたことに関係があると言えば、シュレも詳しく聞くことはしない。
ローズと言われた獣もヴェガとよく似ている。毛色がピンクであることと、額に角がないだけ。
「イリス・シーゼル。詳しいことはこの先で話す」
黄緑色の髪をした女性。グレンが変だと感じた二人と聞いていたから、シュレもよく見てみたがわからない。
(映し出されたのじゃダメなのか)
それとも、自分ではわからないということなのか。判断に迷うところだとシュレは思う。
なにせ、自分が見ているのはただ映し出されただけのものなのだから。
真剣な表情で見る姿に気付いたのか、グレンは苦笑いを浮かべる。
「たぶんわからない。俺しか気付いていなかったらしいからな。その理由も…」
「この先を聞けばわかる、か」
映し出されたこと以前の問題だったようだと、シュレも苦笑いを浮かべた。
「お前の様子が別人なのもか」
「……そうだな。話すさ、それも」
自分で見ても、昔の自分は別人に見えてしまうから困ったものだ。
こうも無機質だったのかと思ったほどに、昔の自分はなにも感じることができない。
『アクア・シェーラ……グレンの奥さんだな』
水色の髪が特徴的なセイレーンが現れれば、シュレは新しいことに気付く。二人の奥底にある似た輝きだ。
「メリシル国で神官をしていた。歌姫で星視の力が強く、孤独な少女…」
その言葉を聞いて、感じたことは間違いではなかったと思う。それが二人を結びつけたのだとも。
結果として幸せを掴めたならいいのかもしれない。シュレが知る限り、英雄王と王妃は不幸ではなかった。
目の前にいる彼を見て、歴史として記された話は正しいのだと思ってきたことだ。
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