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2部 二刀流の魔剣士編

北の港街3

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 このままフィフィリスの話を聞いていたら、シュレがもたないと思えてきたグレンは話題を変えた。

「変わった動きなんてないのか」

「変わった、か……特には聞かないな」

 もしなにかあったとして、今の女王と側近は自分達でどうにかするだろうと言われてしまえば、そうだなと頷く。

 間違いなくそうなのだろうと思えた。

「騎士団で面白い奴なら、流星騎士団の団長クロエ・ソレニムスだろうが」

「ソレニムス…か…」

 小さく呟かれた声はいつもとはトーンが違っていて、シュレがハッとしように見る。

「あれは面白い噂があるぞ。審議はわからないから、なんとも言えない情報だがな」

 金も取れない情報だと言われれば、ならば嘘かもなと笑い飛ばした。

 審議がわからないとは、今の現状と噂が流れた当時では違うということ。本当だったとしても、確証がない以上は昔の情報として売れもしない。

 その流れで騎士族の話へ持っていけば、いつものシュレが戻ってきたとグレンは内心笑う。

「月光騎士団は、最年少団長だと言ったから他だな。副団長にはリュース・リンバールとリーナ・ノヴァ・オーヴァチュアの二人だ。ここは基本的に若いな」

 そりゃそうだろうと苦笑いを浮かべる。月光騎士団は、なぜかどれだけ月日が経っても力仕事ばかりしているのだ。

 そうなってくると、自然と若いのが集まってしまう。

「流星騎士団の団長もいいな。あそこの副団長はツヴェルフ・グラネーデとエラ・シュラーンの二人。団長は優秀だが、エラはあまりいい話を聞かない」

 それは残念だと素直に思った。同じ家系の騎士を知っているだけに、そうなってしまったことは知りたくなかったかもしれない。

「陽光騎士団は団長がイクティス・シュトラウス。副団長はフォルス・ノヴァ・オーヴァチュアしか確認されていない。聖虹騎士団も副官エイス・シュヴェルトだけだな」

 隠されている可能性が高いと言えば、どちらも仕方ないと思う。その二人は簡単にはいかないとわかっていたから。

 酒を飲みながら少しばかり考えるグレン。それなりの情報は得たと思うし、これ以上はシュレがいるからやめとくべきかとも思う。

「助かった」

 もう大丈夫だというように言えば、情報屋は席を立っていく。次の客を探すのだろう。

 かわりに別の情報屋が来ようとしていたが、手で必要ないことを示す。

 慣れた動きに、よくやっているのだろうとシュレは察した。酒が強ければいくらでも聞き出せるのだから、彼には最高の場所だ。

「東よりは収穫があったか」

「そうだろうな。さすがに騎士団のことは流れてこないだろうし」

 気が抜けたように酒を飲むシュレ。あれからずっと警戒していたのだ。フィフィリスの名前がでないかを。

 まさかここで聞くとは思っていなかった。彼女がどうしているかなど、情報屋には関係ないと思っていたのだ。

「ソレニムスに思い入れがあるのか?」

「そんなにあからさまだったか」

 苦笑いを浮かべながら言えば、シュレは少しだけだと言う。

「今は大きな騎士族になってるが、俺が傭兵をしていたころは無名だった。ヴァルス・ソレニムス……俺の兄的存在だった騎士だ」

 名前ぐらいなら知っているのではないかと言われれば、知っていると頷く。

 北の情報には詳しくないが、それでも少しは調べたことがあるのだ。フィフィリスが北の出だったからと。

「お前、俺のことをどこまで知ってる。東だとすべてを伝えてないだろ」

「あぁ、北から来た英雄王としか基本は語られてない」

 だが、フィフィリスが少しだけ話してくれたから知っていることもある。

 経緯は知らないが傭兵をしていたこと。その後、王位を継いだということぐらいは知っていた。

「別段隠してることではないし、北には伝わってることだが、俺は人間の夫婦から生まれたハーフエルフだ」

「はっ?」

 なにを言っているのかと言いたげにするシュレを見て、澄まし顔で事実だと言う。

「先祖返りだと伝えるのがほとんどだが、たぶん…フォーラン・シリウスの望みなんだろう」

 先祖が望み、友人が望んだ結果。それが自分だと思っている。

 さすがに全部を詳しく話してたら時間は足りない。だから省略しながらも、追放されたことや孤児院にいたことを話せば、シュレは受け入れたようだった。

「孤児院にいたのがヴァルスだった。あいつは稼ぎがいいからと騎士になって、俺の正体を知った」

 そして精霊契約を交わしたと聞けばシュレは酷く驚く。今なら珍しくないのだが、昔は禁じられていたと知っているから。

「だから、大切な兄か…」

「俺が側近として置いていたのは二人。どちらも大切だったが、ヴァルスは特別だったな」

 グラスに注がれた酒を見ながら言うグレンは、普段見せない表情だ。

 仲間を思いだすときは、いつもこうなのかもしれないと思ったほど優しい眼差しをしている。

「今のソレニムス家は、ヴァルスがというよりは息子のイェルクが作り上げたようなものだがな」

 あれはどうしようもない奴だったからと笑えば、この生活は本当に幸せなのかと思わずにはいられない。

「心配するな。今の生活に悔いはない。この選択をしたところで、あいつらは笑ってる」

 そんな奴らだったのだと言えば、わかったとシュレは頷く。

「ついでに言うとな、ペドランも知ってる。あれは、ほんと弱い奴だった」

「言い方が雑だな」

 呆れたように言うが、グレンが嫌っているわけではないとわかる。これが彼なりの接し方なのだと。

「俺が世話になっていた師匠と知り合いだった。ルフ・ペドランって傭兵で、最後は騎士に入ってた」

 その血族が残っていることは、少しだけ嬉しいとも思っている。彼がしっかりと家族を護れた証だからだ。

「お前の話をしてたんじゃないか。フィフィリスは、二刀流の魔剣士が目標だったみたいだし」

「嬉しくないな」

 言っている言葉と気持ちがまったく違っていて、シュレは笑いながら酒を飲む。

 どうやら人によって扱いが変わるらしいと、また新しい一面を知れて面白いと思ったのだ。

 頼んでいた酒をすべて飲み切ると、グレンはそろそろいいかと立ち上がった。

「俺はいいが、お前はこのまま付き合わせたら潰れそうだ」

「潰れる前にやめる」

 そこまで飲まないと言い返せば、それはそうだと笑う。彼はそんなヘマをしない。

「ここまで付き合わせたんだ。明後日の昼に部屋へ来たら、面白いの見せてやるよ」

 今日は情報を集め、明日は魔力装置の設置をしようと考えていたグレン。

 シュレにその映像を見せるのも楽しいかもしれないと考えた辺りで、酒で少しテンションが上がっているんだなと思った。

 バレてしまったのも当然ながら大きいのだが、彼を気に入っているのが一番の影響だ。

 別れが悲しくなるだけだとわかっていながらも、交流を止められそうにない。

(久々にやらかした感じだ)

 けれど、悪い気はしないとグレンは支払いを済ませて店を出た。




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