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2部 二刀流の魔剣士編

シュレの訪問

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 傭兵組合の方で支度してくれたのだろう。部屋に入ってすぐ、きれいに整えられた室内に笑うしかない。

 完全にエシェルがやったとわかるだけに、困った奴だと思う。

 ここまで整えられた室内を見れば、シュレはさらに怪しむ。怪しむどころではない。

「探り合いは面倒だな」

 なにかしらの確信があって、もしくは確信を得るためにやって来た。そんなところだと思っている。

「素直に話してくれればいいだけだ。お前、何者だ」

 射抜くような視線に、誤魔化しはきかないと思う。彼を誤魔化して傭兵をするのはさすがに無理だと。

 しかし、今はここで傭兵をしながら様子を見たい。外からの干渉が再び始まったなら、留守を預かる以上見過ごせないことなのだ。

「シュレ、なぜそう思う」

 気になることは、なぜ彼が自分を疑うのかということ。怪しい動きはした覚えがない。

 突然傭兵を辞めたこと以外はだが。

 ここが北の大陸か西の大陸なら、まだ疑う者がいてもおかしくない。縁のある場所もあるし、知り合いの血族もいるのだから。

 だが、東にはその欠片もないはず。なにせカロルがすべてやっているのだから、グレンが悟られるようなものは残さない。

「惚れていた傭兵が、双剣使いだったからな。動きを見て同じだと思っていた」

 戦い方で二刀流だろうと推測を立てたと知れば、さすがに考えもしなかったと苦笑い。

 二刀流は隠すつもりがなかっただけに、戦い方を変えようとまでは思っていなかった。さすがに魔剣は使っていないのだが。

「二刀流は珍しいし、よくわからない魔剣も持ち歩いてる」

 グレンは常に持ち歩いている包みがある。なにが入っているか見ただけではわからないはずだが、どうして剣だとバレたのか。

 魔力でも漏れていたのだろうか、とため息を漏らす。

「これは魔剣ではないぞ。剣は間違いないが」

 そう、彼が持ち歩く包みの中身は聖剣だ。なにかあったときのため、持ち歩くようにしている。

 包みは魔封じの力があり、聖剣の力を感じさせないようにしている。簡単には見破れない代物だ。

 ハーフエルフ達の中で傭兵をしているなら、それぐらいはしておくべきだと思ってのこと。

「おかしいと思ったのは、その包みが最初だった。次は時計だ」

「あー…」

 なるほどと思う。家に伝わるものだと言えばアイカは簡単に信じてくれたのだが、シュレは無理だったということ。

 珍しいことではない。古い時計を受け継いでいるところはいくらでもあるのだ。

「それ、最初に作られた時計だろ」

「惚れた女が持っていたか」

 さすがに、最初に作られた時計など知っているわけがない。ほとんど残されていないのだから。

「あぁ、持っていた」

 あっさりと言われた言葉に、食事を食べようとした手が止まる。

(エーレルカ……さすがに聞き覚えがない。なら、惚れた女の方が…)

 どこか仲間の家系に繋がるのかもしれない。そうでもなければ、最初に作られた時計があるわけもないのだ。

 この世界に時間と時計というものを広げたのは、ヴェストリア・バルスデ・フォーランとクレド・シュトラウスの二人。

 最初に作られた時計は、仲間にだけ渡されている。もらったのはグレンを含め限られた人数。

 一般的には時計台が初めての時計なのだ。持ち歩きできる時計が広がったのは、グレンが受け取ってから百年は経っていた。

「その時計は限られた人物しか持っていない。その家系だ、とはさすがに言わないよな」

「…やれやれ、仕方ないな。まさか時計で疑われたなんて」

 普通なら古い時計にしか見えない。最初の時計なんて知っている者はいないからだ。

 だからこそ、気にせず使っていられた。代々受け継がれていると言えば、それで納得してもらえるから。

「いや、俺も彼女と知り合わなければ気付かなかったし、信じなかった」

 すべてはその女傭兵のお陰かと、グレンは笑うしかない。どのような人物なのか気になったほどだ。

 とりあえず飯を食ってからでいいかと言えば、シュレも頷く。買ったものを無駄にするわけにはいかない。

「その間、その女傭兵を知りたいものだ」

 話を聞けば、どの仲間に繋がるかわかるはずだ。

「……フィフィリス・ペドラン。ここで傭兵をしていた北生まれのハーフエルフだ」

「うっ…」

 名前を聞いた瞬間、グレンは思わぬ姓に食べ物を詰まらせそうになる。慌てて飲み物を飲む姿に、シュレが怪訝そうに見た。

 なにかおかしなことを言っただろうかと思う。

「いや…気にするな」

 どうしてもその名前に反応してしまうのだ。こればかりは、三千年経っても変わらない。

 別段嫌いなわけでもないのだが、最後の最後まで喧嘩しかしていなかったのがいけないのだろう。

「とにかく強くてな。あれほどの傭兵は、今組合にはいないと言われてる」

「……強いのか」

 表情が変わったのを見てシュレは笑った。以前も組んでいたから知っているが、彼は強い者が好きなのだ。

 強いと聞けば、楽しいものを見つけたかのように笑う。それが癖になっているのだろうと思っていた。

「今は北にいるから、相手はしてもらえないぞ。組合の組合長候補に上がったとき、他にすることがあると帰った」

 それ以降は一度も会っていないと言うシュレは、どことなく寂しげな表情を浮かべている。

「……そうか」

 なぜだろうか。それは自分達に関わることなのではないかと思ってしまった。

 北に戻ったことがその証拠だと。

「ペドラン、か……あのバカが。なにを言ったのか確認したいところだな」

「ヴィル?」

 食事を終えたグレンは、少しばかり考え込んでからシュレを見る。

 なにをどう話すかと思ったのだが、彼が思わぬところと繋がってしまったのだから、すべて話すべきだろうかと思う気持ちもあった。

「困った奴らだな」

 さすがにすべてを話すのは早い。正体だけ明かすかと結論を出せば、苦笑いが漏れる。




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