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1部 転生する月神編
七英雄
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職務以外のわずかな時間を使い、クオンは城内の書庫に向かう。
想定外の休みを取ってしまったが、リーナと交換した形だったので職務自体はそこまで困ることはなかった。
「あっ、イクティス様…」
向かってみれば、滅多に会わない陽光騎士団の団長が本を抱えている。
「クオンが来るなんて珍しいね」
「たまには、いいかと…」
週に一回、会議で顔を合わせるぐらいの関係。正直なところ、あまり話したこともない。
「身体を動かしてるのが好きって感じだもんね。まぁ、クロエやリーナもだけど」
確かに、とクオンは頷く。気にしたことはないが、二人とも本を読むようなタイプではない。
ないのだが、クロエは陰で勉学をしっかり学んでいるだろうとも思う。彼の知識量は、自分とは比べ物にならないと知っていたから。
それを思うとリーナもそうなのかもしれないと思えるから、不思議だった。
立場に釣り合う知識。自分にはあるのだろうかと考えてやめる。今はそれどころじゃない。
「なにが知りたいのかな。ここは僕の庭だから、どこにあるかすぐ教えてあげられるよ」
書庫に限らず、このエルフは城が庭なのではないかと思わず思ってしまう。生きてる年数が違うのだから。
「七英雄をもう少し知りたいなと…」
学校で習うのは簡潔になっている上、フォーラン・シリウスに片寄っている。建国者なのだから、仕方ないことなのかもしれない。
街で売っているのも、やはりフォーラン・シリウスが描かれたものばかりだ。
「僕、詳しいよ。教えてあげようか」
「あ、いや…イクティス様の時間を割くのは」
騎士団を見ながら、女王の側近として国政にも関わるエルフ団長である。セルティ同様に多忙なはずだ。
ありがたい申し出だが、それを受け取るわけにはいかない。
自分のために時間を割くというのは、他のために使う時間がなくなるということだから。
「気にしないで。僕もたまには息抜きがしたいしね」
しかし、クオンの考えていたことなんてお見通しだった。
優しい笑みを浮かべたイクティスは、書庫の椅子を引くと座るように促す。
「月光騎士団の副官はリュースだったよね。リュースには僕から言っておくから、このままサボろうか」
「えっ…」
まさかサボろうなんて言うとは思わず、目を丸くする。
「待ってて。セルティに頼まれた本だけ届けてくるから。あっ、なにか食べる?」
「は、はい…」
「じゃあ、厨房から盗んでこようかね」
(ぬ、盗むって…)
実はこんな人だったのか、と呆気にとられるクオン。話してみると、見ているのとはまったく違うと思う。
少し薄暗く、物音すらしない書庫。長く待ったわけではないが、長く感じる空間だった。
「お待たせ。クオンは甘いものが好きなんだね。セルティが教えてくれてさ」
「こ、これは…」
差し出されたマフィンを見て、甘党団長の目は輝いている。
「食べちゃっていいよ。厨房にも一人、こういったのを好きなのがいてね。自分用にこっそり作ってるんだ」
どこにあるかバレてるから、みんな盗み食いしてるけどねと笑いながら言う。
それを聞いたクオンは、隠し場所が知りたいと本気で思った。
(いい情報をもらったな)
厨房なんて行ったことがなかっただけに、内心はニヤニヤが止まらない。隠し場所も知りたいが、むしろ作ってる本人と仲良くなった方が早いかもしれないとか考えていた。
「七英雄だったね。クオンの知識は、学校かな?」
嬉しそうにマフィンを食べる姿を見ながら、イクティスは紅茶を飲んで言う。
「はい。馴染みのお店で少し話して、片寄ったのしか知らないと思ったので」
夢がなどと素直には言えない。待っている間にどう説明するか考えた。
そして、悪いと思いつつオズを言い訳にしたのだ。
「そうだね。確かに学校は片寄ってる」
それがおかしいとは思わないし、国や種族によって片寄るのはここだけではないだろうとも思う。
「じゃあ、七英雄とは?」
「シオン・アルヴァース、リオン・アルヴァース、イリティス・シルヴァン、エリル・シーリス、フォーラン・シリウス、リュークス・ユシル・ラーダ、リーラ・サラディーン」
知識を確認するような問いかけに、クオンは詰まることがない。
自分が優秀だとは思わないが、それなりの知識は持っているとは思っていた。
.
想定外の休みを取ってしまったが、リーナと交換した形だったので職務自体はそこまで困ることはなかった。
「あっ、イクティス様…」
向かってみれば、滅多に会わない陽光騎士団の団長が本を抱えている。
「クオンが来るなんて珍しいね」
「たまには、いいかと…」
週に一回、会議で顔を合わせるぐらいの関係。正直なところ、あまり話したこともない。
「身体を動かしてるのが好きって感じだもんね。まぁ、クロエやリーナもだけど」
確かに、とクオンは頷く。気にしたことはないが、二人とも本を読むようなタイプではない。
ないのだが、クロエは陰で勉学をしっかり学んでいるだろうとも思う。彼の知識量は、自分とは比べ物にならないと知っていたから。
それを思うとリーナもそうなのかもしれないと思えるから、不思議だった。
立場に釣り合う知識。自分にはあるのだろうかと考えてやめる。今はそれどころじゃない。
「なにが知りたいのかな。ここは僕の庭だから、どこにあるかすぐ教えてあげられるよ」
書庫に限らず、このエルフは城が庭なのではないかと思わず思ってしまう。生きてる年数が違うのだから。
「七英雄をもう少し知りたいなと…」
学校で習うのは簡潔になっている上、フォーラン・シリウスに片寄っている。建国者なのだから、仕方ないことなのかもしれない。
街で売っているのも、やはりフォーラン・シリウスが描かれたものばかりだ。
「僕、詳しいよ。教えてあげようか」
「あ、いや…イクティス様の時間を割くのは」
騎士団を見ながら、女王の側近として国政にも関わるエルフ団長である。セルティ同様に多忙なはずだ。
ありがたい申し出だが、それを受け取るわけにはいかない。
自分のために時間を割くというのは、他のために使う時間がなくなるということだから。
「気にしないで。僕もたまには息抜きがしたいしね」
しかし、クオンの考えていたことなんてお見通しだった。
優しい笑みを浮かべたイクティスは、書庫の椅子を引くと座るように促す。
「月光騎士団の副官はリュースだったよね。リュースには僕から言っておくから、このままサボろうか」
「えっ…」
まさかサボろうなんて言うとは思わず、目を丸くする。
「待ってて。セルティに頼まれた本だけ届けてくるから。あっ、なにか食べる?」
「は、はい…」
「じゃあ、厨房から盗んでこようかね」
(ぬ、盗むって…)
実はこんな人だったのか、と呆気にとられるクオン。話してみると、見ているのとはまったく違うと思う。
少し薄暗く、物音すらしない書庫。長く待ったわけではないが、長く感じる空間だった。
「お待たせ。クオンは甘いものが好きなんだね。セルティが教えてくれてさ」
「こ、これは…」
差し出されたマフィンを見て、甘党団長の目は輝いている。
「食べちゃっていいよ。厨房にも一人、こういったのを好きなのがいてね。自分用にこっそり作ってるんだ」
どこにあるかバレてるから、みんな盗み食いしてるけどねと笑いながら言う。
それを聞いたクオンは、隠し場所が知りたいと本気で思った。
(いい情報をもらったな)
厨房なんて行ったことがなかっただけに、内心はニヤニヤが止まらない。隠し場所も知りたいが、むしろ作ってる本人と仲良くなった方が早いかもしれないとか考えていた。
「七英雄だったね。クオンの知識は、学校かな?」
嬉しそうにマフィンを食べる姿を見ながら、イクティスは紅茶を飲んで言う。
「はい。馴染みのお店で少し話して、片寄ったのしか知らないと思ったので」
夢がなどと素直には言えない。待っている間にどう説明するか考えた。
そして、悪いと思いつつオズを言い訳にしたのだ。
「そうだね。確かに学校は片寄ってる」
それがおかしいとは思わないし、国や種族によって片寄るのはここだけではないだろうとも思う。
「じゃあ、七英雄とは?」
「シオン・アルヴァース、リオン・アルヴァース、イリティス・シルヴァン、エリル・シーリス、フォーラン・シリウス、リュークス・ユシル・ラーダ、リーラ・サラディーン」
知識を確認するような問いかけに、クオンは詰まることがない。
自分が優秀だとは思わないが、それなりの知識は持っているとは思っていた。
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