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1部 転生する月神編
記憶の夢
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燃え盛る炎が身体を焼こうと襲いかかる。熱くて苦しくて、自分が叫ぶ声で目が覚めた。
「ハァハァ…」
思わず身体を確認して気付く。まだ深夜だということに。
暗闇の中、目を覚ますのは何度目だっただろうか。これが続くのは困る、と正直思っていた。
国へ戻ってから半月もすれば、眠りを妨げる夢が増えている。まるで急かされているようだ、となぜか思う。
(誰に急かされてるんだ…)
幸せに過ごす夢もあるが、ほとんど苦しい夢ばかり。半ばストレスにもなってきている。
「ねみぃ」
このまま寝れるかもと、クオンはすぐさま横になった。
夢を見るかもと考えるより、少しでも寝たい。一分でも多く寝ることを優先したかったのだ。
職務に支障がでてきている。その自覚がクオンにはあったから。
目を閉じると、クオンからため息が漏れる。これは夢だとすぐに認識したのだ。
(また、この夢か…)
何度も見た夢だった。とある集落で借りた、小さな小屋で過ごす夢。
「リオン、久々の布団だー!」
『ヴェガ! 布団ー!』
赤髪の少年とピンク色の獣が、ベッドに寝転んで喜ぶ。この先に起きることも知らずに。
「ゆっくり寝れそうだよなぁ」
「のんきな奴」
そう言いながらも、同じ気持ちなのだとクオンは知っている。なにせ、何度も見た夢なのだから。
『まぁ、ゆっくり寝れるなら、寝ておいた方がいいぜ』
水色の獣が言えば、青髪の少年も頷く。
普段は野宿が続くだけに、しっかりと休めるのは貴重だ。次はいつ休めるかわからないのだからこの機会は逃せない。
しばらくすれば、煙の匂いで獣達が目を覚ます。
『起きろ! 小屋が燃えてる!』
最初に動いたのは水色の獣だ。容赦なく尻尾で顔を叩く。
「いってぇ…なん…」
掴んで投げ飛ばそうとしたときには、黒い煙が小屋の中へ流れ込んでいたのだ。
「マジかよ…」
『マジだ』
すぐに状況を察すれば、小屋が借りられた理由もこれだと気付く。慌てたように赤髪の少年を起こすのも、いつも通りの流れ。
火の回りは早く、計算されているのではないかとすら思う。
「ダメだ、開かねぇ!」
『外から塞がれてるのか』
破壊してやると青髪の少年が言えば、赤髪の少年が慌てたように止める。上を指差し、すでに屋根が燃えているから危険だと言う。
クオンから見ても、いつ真上が崩れてもおかしくない。何度見たって、夢の流れが変わることはないのだ。
少し上を見ていた赤髪の少年。なにかを決めたような視線に、クオンは早く起きたいと思う。
この先は見たくない。何度も見ていられるものではないのだ。
「なに、考えて…」
「逃げた方が面倒かと。死んだと思わせれば、しばらくは安全になるだろ。俺、一応兄だし」
床に押し倒し、守るように覆い被さるのと、屋根が崩れ落ちたのが同時。
「クッ…。ティアとヴェガは、外に出れるだろ。…行け!」
『う、うん…』
迷いながらも二匹が抜け出すと、ホッとしたように身体から力が抜ける。
「退けっ」
「やだ…」
一緒に焼かれると言えば、炎に耐えながら赤髪の少年は笑った。
「バカ…」
頬を撫でる炎。微かに焼かれていく手足に、少年は負けるものかと耐える。自分以上に兄はきついとわかっているから。
「やっと…起きれた…」
焼かれる夢で深夜に起き、また焼かれる夢を見るとは思わなかった。
(続けて二度は、きついな…)
夢を見ていたとはいえ、寝ていたことに変わりないはず。けれど、身体は鉛のように重く起き上がるのが辛い。
なんとか起き上がったとき、目の前に夢の続きが広がった。
「おい…シオン!」
ぐったりとした兄を抱き起こし、少年はその場を離れていく。
(兄の名前…初めて出たな…)
兄弟なのはわかっていたが、弟が兄を名前で呼ぶのは見たことがなかった。
「無茶、しやがって」
そう言うが、少年も身体はきついのかふらついている。
焼かれた痛みを感じながら、徐々に治っていく身体。同じことは兄の身体にも起きているが、ぐったりとしたまま反応はない。
生きていることが不思議だとクオンが思ったとき、視界は自室に戻っていた。
(やべぇ…)
射し込む陽射しの強さに、急がないと遅刻だと思う。ずいぶん長く、夢の続きを見ていたようだ。
「くっ…」
ベッドから抜け出し、立ち上がった瞬間に痛みが走る。
ちょうど夢で見た少年が、焼かれた足と同じ部分が痛んだのだ。
「なん…だよ…」
歩こうとすればズキズキと痛む。早く着替えて行かなければと思うが、身体は思うように動いてくれない。
それでも無理をして踏み込んだ瞬間、痛みで崩れ落ちる。
「クオン!」
支えてくれた腕に見上げればリーナがいた。心配そうに見てくる姿に、なにか言わなくてはいけない。
わかっていたが、抗うこともできず闇に落ちていった。
.
「ハァハァ…」
思わず身体を確認して気付く。まだ深夜だということに。
暗闇の中、目を覚ますのは何度目だっただろうか。これが続くのは困る、と正直思っていた。
国へ戻ってから半月もすれば、眠りを妨げる夢が増えている。まるで急かされているようだ、となぜか思う。
(誰に急かされてるんだ…)
幸せに過ごす夢もあるが、ほとんど苦しい夢ばかり。半ばストレスにもなってきている。
「ねみぃ」
このまま寝れるかもと、クオンはすぐさま横になった。
夢を見るかもと考えるより、少しでも寝たい。一分でも多く寝ることを優先したかったのだ。
職務に支障がでてきている。その自覚がクオンにはあったから。
目を閉じると、クオンからため息が漏れる。これは夢だとすぐに認識したのだ。
(また、この夢か…)
何度も見た夢だった。とある集落で借りた、小さな小屋で過ごす夢。
「リオン、久々の布団だー!」
『ヴェガ! 布団ー!』
赤髪の少年とピンク色の獣が、ベッドに寝転んで喜ぶ。この先に起きることも知らずに。
「ゆっくり寝れそうだよなぁ」
「のんきな奴」
そう言いながらも、同じ気持ちなのだとクオンは知っている。なにせ、何度も見た夢なのだから。
『まぁ、ゆっくり寝れるなら、寝ておいた方がいいぜ』
水色の獣が言えば、青髪の少年も頷く。
普段は野宿が続くだけに、しっかりと休めるのは貴重だ。次はいつ休めるかわからないのだからこの機会は逃せない。
しばらくすれば、煙の匂いで獣達が目を覚ます。
『起きろ! 小屋が燃えてる!』
最初に動いたのは水色の獣だ。容赦なく尻尾で顔を叩く。
「いってぇ…なん…」
掴んで投げ飛ばそうとしたときには、黒い煙が小屋の中へ流れ込んでいたのだ。
「マジかよ…」
『マジだ』
すぐに状況を察すれば、小屋が借りられた理由もこれだと気付く。慌てたように赤髪の少年を起こすのも、いつも通りの流れ。
火の回りは早く、計算されているのではないかとすら思う。
「ダメだ、開かねぇ!」
『外から塞がれてるのか』
破壊してやると青髪の少年が言えば、赤髪の少年が慌てたように止める。上を指差し、すでに屋根が燃えているから危険だと言う。
クオンから見ても、いつ真上が崩れてもおかしくない。何度見たって、夢の流れが変わることはないのだ。
少し上を見ていた赤髪の少年。なにかを決めたような視線に、クオンは早く起きたいと思う。
この先は見たくない。何度も見ていられるものではないのだ。
「なに、考えて…」
「逃げた方が面倒かと。死んだと思わせれば、しばらくは安全になるだろ。俺、一応兄だし」
床に押し倒し、守るように覆い被さるのと、屋根が崩れ落ちたのが同時。
「クッ…。ティアとヴェガは、外に出れるだろ。…行け!」
『う、うん…』
迷いながらも二匹が抜け出すと、ホッとしたように身体から力が抜ける。
「退けっ」
「やだ…」
一緒に焼かれると言えば、炎に耐えながら赤髪の少年は笑った。
「バカ…」
頬を撫でる炎。微かに焼かれていく手足に、少年は負けるものかと耐える。自分以上に兄はきついとわかっているから。
「やっと…起きれた…」
焼かれる夢で深夜に起き、また焼かれる夢を見るとは思わなかった。
(続けて二度は、きついな…)
夢を見ていたとはいえ、寝ていたことに変わりないはず。けれど、身体は鉛のように重く起き上がるのが辛い。
なんとか起き上がったとき、目の前に夢の続きが広がった。
「おい…シオン!」
ぐったりとした兄を抱き起こし、少年はその場を離れていく。
(兄の名前…初めて出たな…)
兄弟なのはわかっていたが、弟が兄を名前で呼ぶのは見たことがなかった。
「無茶、しやがって」
そう言うが、少年も身体はきついのかふらついている。
焼かれた痛みを感じながら、徐々に治っていく身体。同じことは兄の身体にも起きているが、ぐったりとしたまま反応はない。
生きていることが不思議だとクオンが思ったとき、視界は自室に戻っていた。
(やべぇ…)
射し込む陽射しの強さに、急がないと遅刻だと思う。ずいぶん長く、夢の続きを見ていたようだ。
「くっ…」
ベッドから抜け出し、立ち上がった瞬間に痛みが走る。
ちょうど夢で見た少年が、焼かれた足と同じ部分が痛んだのだ。
「なん…だよ…」
歩こうとすればズキズキと痛む。早く着替えて行かなければと思うが、身体は思うように動いてくれない。
それでも無理をして踏み込んだ瞬間、痛みで崩れ落ちる。
「クオン!」
支えてくれた腕に見上げればリーナがいた。心配そうに見てくる姿に、なにか言わなくてはいけない。
わかっていたが、抗うこともできず闇に落ちていった。
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