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1部 転生する月神編

変化始まる2

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 化け物と罵る声がする。誰かが石を投げつけ、頬をかすった。

 触れてみれば、微かだが手には赤い血がつく。軽く切れたらしいと思う。

「傷が治ったぞ!」

「とんでもない化け物だ!」

「いや、これは人じゃない!」

「そうだ! こいつらは、人の姿をした魔物に違いない!」

 殺せと叫ぶ人々と、投げつけられる石から守るように立つ少年。

 燃えるように真っ赤な髪は、少年の背中を彩っている。いつも見ていた背中だった。

「逃げるよ…」

 小さく言われた言葉に頷けば、赤髪の少年は手を引っ張って駆け抜ける。

 これで何度目だろう。こんな風に逃げ出すのはと思って歯を食い縛る。もう数えきれないほど、こうやって集落を追い出された。

 正直、数えるのも馬鹿馬鹿しいとすら思う。

 荒い呼吸を繰り返し、原っぱに寝転ぶ。見上げた先に見える青空が彼には憎たらしい。

「リオン、怪我は?」

「治った…」

 心配するように見てくる金色の瞳。そんな彼の方は、腕に傷が残っている。

 守るように立っていたから、ほとんどの石は赤髪の少年にぶつかっていた。それだけではないと彼だからわかる。

「よかった」

 双子なのだから、兄とか思うのは嫌だ。少し早く生まれただけの話。

 それでも、こんなときは兄だと思う。自分を守ろうとしてくれる、こんなときだけだが。

「今日も野宿かなぁ」

「仕方ねぇだろ。バレちまったんだから」

「そうだよな」

 仕方ないと笑う兄。

 彼がいればどんなことがあってもやっていける。彼さえいてくれれば、それだけでよかった。

 それでも時折思うことがある。なんで、こんな目に遭わなきゃいけないのかと。

「この辺り、もう使える集落はないみたいだ」

 考えていれば兄の言葉で我に返る。精霊に調べてもらったのだと気付き、思考を振り払う。

「じゃあ、どうやって探すんだよ」

 人と接触がとれなきゃ、目的のものは探せない。精霊だけじゃどうにもできないだけに、困ったものだと思う。

「南の森に行こうか。森の中も、集落があるかもしれないじゃん」

「精霊が探れないとこか。仕方ねぇ」

 身体を起こすと、空腹を訴えるようにお腹が鳴った。

「飢え死にしないなら、空腹も感じなきゃいいのになぁ」

「しょうがない。ほら」

 渡された包みに兄を見れば、笑いながら食べていいと言う。

「……半分だ」

 固いパンだった。ないよりはマシだと残していたのだろう。おそらく、自分のために。

 ぶっきらぼうに半分返せば、兄は笑いながら受け取った。

 味なんて感じない。固くてパサパサしていて、空腹を誤魔化すだけの食事。それでも、兄と半分にして食べるのが細やかな幸せだ。

「森に行けば、食べ物あるんじゃね」

「そうだなぁ。じゃあ、行くか」

 いつまでもここにいるわけにはいかない。魔物が襲ってくるだろうし、自分達の噂が流れている。力自慢が殺そうとやってくる可能性もある。

「お前らも、行くぞ」

『おぅ』

 肩に乗ってきた水色の小さな獣。頭を撫でてやれば、気持ち良さそうに目を細める。

『ティアも撫でて』

「わかったよ」

 兄の肩にはピンク色の小さな獣。甘え上手だとよく思っていた。それに比べ、こいつはと思うが言わない。

 実に自分らしい相棒だと彼はわかっていたからだ。どこか自分に似ている奴だと。



 薄暗い室内。目を覚まして早すぎだと思う。あれだけ身体を動かして、それでも夢を見てこの時間に起きてしまったのかと。

 寝直そうかと思ったが、目は冴えてしまった。

(寝れないな…)

 仕方ないから支度をして早めに行けばいい。

 身体を起こすとすぐに着替えた。騎士団の制服に身を包むと、自然と気が引き締まる。

 自分が月光騎士団の団長だ、という気持ちが強くなるからかもしれない。部下の命を背負っている重責が、彼を常に引き締めるのだ。

(休み明けだ、やることは多いはず)

 魔物討伐の遠征を得て、実力が変わった騎士もでているはず。それに合わせ、小隊の編成も考え直すのだ。

 遠征はなくとも、近隣の魔物討伐はあるかもしれない。出動命令がいつでてもいいよう準備は必要だ。

 やることはたくさんある。夢のことなど気にしている場合ではない。

 考えながら歩いていたクオンは、目の前に広がる光景に驚いた。

(俺は…歩きながら寝てるのか?)

 見慣れた街並みから、薄暗い室内に変わった風景。少し肌寒いそこは、知らないけど知っている。

 まるでなにかに惹かれるよう、真っ直ぐに歩いていく。そこには巨大な氷の塊があり、夢で見た赤髪の少年とピンク色の獣がいた。

「これ…」

 知っている。何度も通った場所だとクオンは感じていた。

 そんなはずはない。行ったことなどないはず。首を振り、自分に言い聞かせた。

「じゃあ、なんなんだ…」

 なぜ知ってるなんて思ったのか。通ったことがあると感じ、けれど行ったことがないと言い切れた。

 困惑したようにもう一度見たとき、風景は街並みに戻っていたのだ。





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