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1部 転生する月神編
魔物討伐2
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夕陽に照らされた室内で、引き継ぎを終えた。休息だと部屋を出ていったレナス、イェンテ、シャリーネを見送り、リーナはクオンを見る。
ここ数日、なんとなく違和感を覚えていた。いつもの彼とは違うような、そんな感覚だ。
「クオンも、疲れてるでしょ」
「いや、これぐらいなら平気だ」
そうかもしれない。彼ならまだ疲れていないだろう。
(なら、なんなの?)
この違和感は、一体なんなのだろうか。
「リーナこそ、休めよ」
「私だって平気よ。バカにしないでちょうだい」
気付いたら毎日一緒だった。学校が終わった後、訓練が終わった後に会っては、街へ遊びに行ったこともある。
だから感じ取れるものがあるのだ。今のクオンは、どこかおかしいと。
そっと隣へ寄り添えば、クオンは笑みを浮かべる。
「どうして、わかっちまうんだろな」
気遣われていると気付き、リーナを見る姿に息を呑む。髪の色が違う気がしたのだ。
(気のせい、よね。いつもより明るく見えるなんて)
そんなことあるわけがない。夕陽のせいだと思うことにする。
「なにか気になることでもあるの?」
「いや、ねぇよ」
嘘ではない。それはわかったから、リーナは職務関係ではないらしいと思う。
それなら、なにが問題なのか。個人的なことで、なにかがあるのかもしれない。
「つうか、気にするほどのことはねぇから」
「そう、なの?」
嘘を言っている様子はなかった。違和感はあるものの、特に問題はないということか。
それとも本人が気にしていないだけなのか、と思う。
「最近、夢を見るんだよな。つうても、起きたら忘れてんだ」
外を見ながらクオンが言えば、リーナが怪訝そうに見上げる。
「よくわかんねぇけど、気になってよ」
それが原因で彼女がなにかを感じてるんだろう、とクオンは察した。
違和感を与えるような、なにかをした覚えはない。それでも感じたのなら、それは自分と同じことが原因だろうとも思う。
幼い頃から一緒だったから、なんとなく感じ取れてしまうのだ。
「ただの夢でしょ」
「あぁ。夢見がわりぃとかでもねぇ」
悪い夢ではない。それだけはわかっていたが、逆に言えばそれだけしかわからなかった。
「職務に支障はでてねぇ……よな?」
確認するように問いかければ、リーナは頷く。
職務に影響はでていない。ただ、自分が気になっただけのこと。
副官でもあるリーナが気にしている。なら、支障がでたのかと思ったのだが、問題がないと知りホッとしたクオン。
しかしいつまでも気にしていたら、どこかで支障が出るかもしれない。
「仕方ないから、これ貸してあげるわよ」
「匂袋?」
小さな袋を渡され、クオンが不思議そうに見る。
「夢を見るって、つまり眠りが浅いってことでしょ。ちゃんと寝られるように貸してあげる」
貸しだからね、と言うリーナに笑うしかない。
「リーナに貸しを作るなんてな」
「言っとくけど、シリトルのパイじゃ返せないわよ」
それはクオンの好物だからと言われてしまえば、言葉に詰まる。おそらくパイ何個、とか考えていたのだろう。
考えを見透かされた甘党団長は、どうしたものかと考える。
パイがダメなら、紅茶しかないだろうか。リーナが好きなのは紅茶だったはず、と考える。
「で、なにが望みだ」
最近あげたばかりだと思い直せば、聞いた方が早い。
「クスッ。シリトルばかり行ってるから、気付かないのよ」
行き先を伝えれば知らなかったクオン。彼なら知っていそうだと思っていただけに、少しばかり意外でもあった。
「ふーん。クレープって甘いのか?」
「さぁ。どうかしらね」
城下街にできたばかりのお店。そこはクレープという、東から流れてきた新しい食べ物が売っていた。
シリトルのパイ同様、食べ歩きができる。クオンが好きな甘いものもあるのだが、教えなかったのは意地悪がしたかったからだ。
「まぁ、仕方ねぇや。これの貸しだからな」
匂袋を受け取りながら、クオンはニヤリと笑った。
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ここ数日、なんとなく違和感を覚えていた。いつもの彼とは違うような、そんな感覚だ。
「クオンも、疲れてるでしょ」
「いや、これぐらいなら平気だ」
そうかもしれない。彼ならまだ疲れていないだろう。
(なら、なんなの?)
この違和感は、一体なんなのだろうか。
「リーナこそ、休めよ」
「私だって平気よ。バカにしないでちょうだい」
気付いたら毎日一緒だった。学校が終わった後、訓練が終わった後に会っては、街へ遊びに行ったこともある。
だから感じ取れるものがあるのだ。今のクオンは、どこかおかしいと。
そっと隣へ寄り添えば、クオンは笑みを浮かべる。
「どうして、わかっちまうんだろな」
気遣われていると気付き、リーナを見る姿に息を呑む。髪の色が違う気がしたのだ。
(気のせい、よね。いつもより明るく見えるなんて)
そんなことあるわけがない。夕陽のせいだと思うことにする。
「なにか気になることでもあるの?」
「いや、ねぇよ」
嘘ではない。それはわかったから、リーナは職務関係ではないらしいと思う。
それなら、なにが問題なのか。個人的なことで、なにかがあるのかもしれない。
「つうか、気にするほどのことはねぇから」
「そう、なの?」
嘘を言っている様子はなかった。違和感はあるものの、特に問題はないということか。
それとも本人が気にしていないだけなのか、と思う。
「最近、夢を見るんだよな。つうても、起きたら忘れてんだ」
外を見ながらクオンが言えば、リーナが怪訝そうに見上げる。
「よくわかんねぇけど、気になってよ」
それが原因で彼女がなにかを感じてるんだろう、とクオンは察した。
違和感を与えるような、なにかをした覚えはない。それでも感じたのなら、それは自分と同じことが原因だろうとも思う。
幼い頃から一緒だったから、なんとなく感じ取れてしまうのだ。
「ただの夢でしょ」
「あぁ。夢見がわりぃとかでもねぇ」
悪い夢ではない。それだけはわかっていたが、逆に言えばそれだけしかわからなかった。
「職務に支障はでてねぇ……よな?」
確認するように問いかければ、リーナは頷く。
職務に影響はでていない。ただ、自分が気になっただけのこと。
副官でもあるリーナが気にしている。なら、支障がでたのかと思ったのだが、問題がないと知りホッとしたクオン。
しかしいつまでも気にしていたら、どこかで支障が出るかもしれない。
「仕方ないから、これ貸してあげるわよ」
「匂袋?」
小さな袋を渡され、クオンが不思議そうに見る。
「夢を見るって、つまり眠りが浅いってことでしょ。ちゃんと寝られるように貸してあげる」
貸しだからね、と言うリーナに笑うしかない。
「リーナに貸しを作るなんてな」
「言っとくけど、シリトルのパイじゃ返せないわよ」
それはクオンの好物だからと言われてしまえば、言葉に詰まる。おそらくパイ何個、とか考えていたのだろう。
考えを見透かされた甘党団長は、どうしたものかと考える。
パイがダメなら、紅茶しかないだろうか。リーナが好きなのは紅茶だったはず、と考える。
「で、なにが望みだ」
最近あげたばかりだと思い直せば、聞いた方が早い。
「クスッ。シリトルばかり行ってるから、気付かないのよ」
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「ふーん。クレープって甘いのか?」
「さぁ。どうかしらね」
城下街にできたばかりのお店。そこはクレープという、東から流れてきた新しい食べ物が売っていた。
シリトルのパイ同様、食べ歩きができる。クオンが好きな甘いものもあるのだが、教えなかったのは意地悪がしたかったからだ。
「まぁ、仕方ねぇや。これの貸しだからな」
匂袋を受け取りながら、クオンはニヤリと笑った。
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