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第26話 嫌味にしか聞こえないけど
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それから会場は、何事もなかったかのようにざわつきだした。慣れって怖いね。私は今すぐ陛下にこの拘束を解いてほしいって思ってるけどね。
「いやはや、いともたやすく解決してしまわれるとは陛下も大したものですな」
「まったくその通りです」
近くでお酒を飲んでいる偉い人っぽい人たちが、大きな声で笑う。うーん、陛下に気に入ってもらおうって必死な感じがして好きになれないわね。
「にしても……」
そうしたら、突然彼らの標的が私になった。いきなり視線を向けられて、私は思わずびくりと肩を揺らす。
「陛下が妃を溺愛しているというのは本当だったようですねえ。先程も離さなければよかったなどと……お父上のように身分も考えず美女ばかりを後宮に入れる訳ではないようですが、血は争えないようだ……」
お父上? そう言えば私は、陛下の過去の話を聞いたことがない。いや、来たばっかりの他国の王族にそんな話普通しないでしょうけど。でも、どうやら女好きだったみたいね。ちらりと私は陛下の顔を盗み見る。
「ん? どうした?」
うわ、急なげきあま。陛下その声はどこから出されてるので??
「い、いえ、何でもありませんわ」
ここは笑ってごまかしておこうと思って、私は無理に微笑みを浮かべる。にしてもほんっと、世間は私のこと美女にしたがるのね。今の彼らに話してみたいぐらいだ。私は別に美女でも何でもないので血は争ってますよって。
「陛下」
やることがないので周囲の人たちの言葉にいちいち心の中で文句をつけていたら、見知った顔がやって来た。葉大臣だ。
「お前か。何か用でも?」
なんでか知らないけど、陛下が若干不機嫌になった気がする。気のせい?
「いえ、お妃様がいらっしゃったようですから挨拶を、と思いまして」
あ、私に用があったのね。さすがにこんな、陛下の膝の上に座ったまま挨拶するのは失礼かと思い、私は方向転換して地面に足をつける。と思ったら足が浮いた。どういうこと!? え!?
「なるほどな」
それ、邪魔するなにしか聞こえないんっですけど。どういうことか混乱していたが、どうやら私は陛下に抱きかかえられているらしい。なんで? 普通に立たせてよ! と脳内で猛反発したが、現実でできるはずもなく。しくしく。これで私がもっと気の強い人だったり大国の王女だったりしたら言えたかもしれないのに……って、気の強い人だったらむしろ進んで陛下に抱き着くか。しかも陛下の趣味じゃなさそうだし。
「せっかくお前の息子が準備したんだ。せいぜい楽しめ」
陛下、それじゃあ悪役の台詞だと思うんですけどいかがですか??
「ええ、楽しませていただきましょう。このようなこと、楽しまないわけにはいきませんから」
そういった彼の眼は、あまり笑っていない。当然だとは思う。だってこの宴を作ったのは自分の息子だけど、自分の息子じゃない。青鋭様と月華さんだからこそできたんだもの。きっと因縁の家の期待の息子同士が手を組んだ、大臣たちからすれば組まされた状況に納得できていない。
「いいと思うのに……」
思わずそれを口から出してしまって、私は慌てて口をつぐんだ。セーフ、聞かれてないわ。私はあの二人が、すごくいいと思う。お互いにないものを持ってるというか、二人とも別方面で、格好いいのに残念な感じ。親が敵対してるのに、どうやってあんなふうになったんだろう? 私には不思議で不思議で仕方がない。
「それでは陛下、そろそろ席へ戻ります。お時間を取らせてしまい申し訳ありません」
「はっ、そうだな」
陛下はそういうや否やくるりと後ろを振り返り、元の椅子に座りなおした。私は抱えたまま。もう、結局逆戻りじゃないのよ! 今すぐここから私を逃がしなさーい! 何ならぼーっとしてるだけでもさっきの一にいる方がまだましだったわ。陛下のそばにいると、心臓が押しつぶされるみたいに息苦しくなる。変な色気だしてるんじゃないわよ!もう。
「我が妃はなぜそんなに百面相が好きなんだ?」
突然目の前でくつくつと笑いだされ、私は混乱した。百面相? 何が? も、もしかして……
「今の全部、か、顔に……?」
「そうらしいな」
わー!!! そうらしいな、じゃないのよ!! もう無理だ。もうここにいたくない。生暖かいのか嫉妬なのかわからない視線が私を包む。もうこの城おろか白蓮花国にもいたくない気分だわ。薄紅蘭万歳。私には薄紅蘭ぐらいがちょうどいいのよ。別に薄紅蘭を貶めてるって訳じゃ無いんだけれど。またも
陛下の言う“百面相”になっている気もするが、もう気にしたら負けだ。そう思って長いため息をついたところで、何か声が、聞こえてきた、気がした。
「ちっ、忌々しい……全く目障りな……」
ぞっと、したかも。誰かは分からない。おそらく近くにいる人のうちの誰かだ。忌々しいのはわかる。でも私が聞こえたってことは陛下も……
「陛下、お妃様、お茶を」
ちょうどそこで、中身がなくなったのでいったん下がっていたお茶が出てきた。はあ、疲れたわ。早速だけどいただこ……
「それ、貸せ」
あっという間に取り上げられる私の茶器。ああー!!私の束の間の癒しがあああ!!!
「いやはや、いともたやすく解決してしまわれるとは陛下も大したものですな」
「まったくその通りです」
近くでお酒を飲んでいる偉い人っぽい人たちが、大きな声で笑う。うーん、陛下に気に入ってもらおうって必死な感じがして好きになれないわね。
「にしても……」
そうしたら、突然彼らの標的が私になった。いきなり視線を向けられて、私は思わずびくりと肩を揺らす。
「陛下が妃を溺愛しているというのは本当だったようですねえ。先程も離さなければよかったなどと……お父上のように身分も考えず美女ばかりを後宮に入れる訳ではないようですが、血は争えないようだ……」
お父上? そう言えば私は、陛下の過去の話を聞いたことがない。いや、来たばっかりの他国の王族にそんな話普通しないでしょうけど。でも、どうやら女好きだったみたいね。ちらりと私は陛下の顔を盗み見る。
「ん? どうした?」
うわ、急なげきあま。陛下その声はどこから出されてるので??
「い、いえ、何でもありませんわ」
ここは笑ってごまかしておこうと思って、私は無理に微笑みを浮かべる。にしてもほんっと、世間は私のこと美女にしたがるのね。今の彼らに話してみたいぐらいだ。私は別に美女でも何でもないので血は争ってますよって。
「陛下」
やることがないので周囲の人たちの言葉にいちいち心の中で文句をつけていたら、見知った顔がやって来た。葉大臣だ。
「お前か。何か用でも?」
なんでか知らないけど、陛下が若干不機嫌になった気がする。気のせい?
「いえ、お妃様がいらっしゃったようですから挨拶を、と思いまして」
あ、私に用があったのね。さすがにこんな、陛下の膝の上に座ったまま挨拶するのは失礼かと思い、私は方向転換して地面に足をつける。と思ったら足が浮いた。どういうこと!? え!?
「なるほどな」
それ、邪魔するなにしか聞こえないんっですけど。どういうことか混乱していたが、どうやら私は陛下に抱きかかえられているらしい。なんで? 普通に立たせてよ! と脳内で猛反発したが、現実でできるはずもなく。しくしく。これで私がもっと気の強い人だったり大国の王女だったりしたら言えたかもしれないのに……って、気の強い人だったらむしろ進んで陛下に抱き着くか。しかも陛下の趣味じゃなさそうだし。
「せっかくお前の息子が準備したんだ。せいぜい楽しめ」
陛下、それじゃあ悪役の台詞だと思うんですけどいかがですか??
「ええ、楽しませていただきましょう。このようなこと、楽しまないわけにはいきませんから」
そういった彼の眼は、あまり笑っていない。当然だとは思う。だってこの宴を作ったのは自分の息子だけど、自分の息子じゃない。青鋭様と月華さんだからこそできたんだもの。きっと因縁の家の期待の息子同士が手を組んだ、大臣たちからすれば組まされた状況に納得できていない。
「いいと思うのに……」
思わずそれを口から出してしまって、私は慌てて口をつぐんだ。セーフ、聞かれてないわ。私はあの二人が、すごくいいと思う。お互いにないものを持ってるというか、二人とも別方面で、格好いいのに残念な感じ。親が敵対してるのに、どうやってあんなふうになったんだろう? 私には不思議で不思議で仕方がない。
「それでは陛下、そろそろ席へ戻ります。お時間を取らせてしまい申し訳ありません」
「はっ、そうだな」
陛下はそういうや否やくるりと後ろを振り返り、元の椅子に座りなおした。私は抱えたまま。もう、結局逆戻りじゃないのよ! 今すぐここから私を逃がしなさーい! 何ならぼーっとしてるだけでもさっきの一にいる方がまだましだったわ。陛下のそばにいると、心臓が押しつぶされるみたいに息苦しくなる。変な色気だしてるんじゃないわよ!もう。
「我が妃はなぜそんなに百面相が好きなんだ?」
突然目の前でくつくつと笑いだされ、私は混乱した。百面相? 何が? も、もしかして……
「今の全部、か、顔に……?」
「そうらしいな」
わー!!! そうらしいな、じゃないのよ!! もう無理だ。もうここにいたくない。生暖かいのか嫉妬なのかわからない視線が私を包む。もうこの城おろか白蓮花国にもいたくない気分だわ。薄紅蘭万歳。私には薄紅蘭ぐらいがちょうどいいのよ。別に薄紅蘭を貶めてるって訳じゃ無いんだけれど。またも
陛下の言う“百面相”になっている気もするが、もう気にしたら負けだ。そう思って長いため息をついたところで、何か声が、聞こえてきた、気がした。
「ちっ、忌々しい……全く目障りな……」
ぞっと、したかも。誰かは分からない。おそらく近くにいる人のうちの誰かだ。忌々しいのはわかる。でも私が聞こえたってことは陛下も……
「陛下、お妃様、お茶を」
ちょうどそこで、中身がなくなったのでいったん下がっていたお茶が出てきた。はあ、疲れたわ。早速だけどいただこ……
「それ、貸せ」
あっという間に取り上げられる私の茶器。ああー!!私の束の間の癒しがあああ!!!
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