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第6話 大国の王が私に謝りたおしてくるんだけどどうしたらいい?
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「ほんっとうに申し訳なかった。謝って許されることではないとはわかっているが何度でも謝らせてくれ」
「いえ、本当にもう気にしてませんから!」
あんなことがあった日の夕方。陛下は昼頃に起きたのだが、さっきから顔を合わせるたびに全力で謝ってくる。というか1時間単位で謝りに来る。こんな大国の国王に昼から何十回も頭下げられてる私はいったい……
「私を責めてくれ。いくら寝ぼけていたからとはいえあんな……!」
私だってあのあとそのまま寝ちゃったからお互い様でしょ。私の首にうっすら噛み跡が付いたぐらいだし…… だが彼は何を言ってもやっぱり謝りに来るのだ。仕事に集中してください、樟石さんに怒られますよ。
「それに昼まで寝ていたなど……しかもあなたの……! 何でもする、許してくれお願いだ」
……許してほしいのか責めてほしいのか許さないでほしいのかはっきりしてもらえる? 貴方の発言、さっきから微妙に矛盾してたりするのよ。私の中の陛下像が音を立てて崩れていってる気が……
「何か望むものはないか? 何かを贈って許してもらおうだなんて思っていないがせめて……」
仕方ない。これ以上拒んだところで彼が謝りに来なくなるなんてことはまずありえない。別に何もほしいものないんだけどなあ…… そう思って何か考えていたところに一つだけ考えが頭に浮かんだ。
「陛下、書庫の出入りを許可してもらってもいいですか? あそこって一応お仕事するところですし私入れなくて……」
「そんなことでいいのか? 気にせず自由に出入りして構わないのに。まあだが許可したという事実が必要か……」
もっと高価なものを要求されると思ったのだろうか。私はそんなものもらっても壊したりしちゃいそうで怖いので棚の奥に封印しますけどね。
「はい、ですからもう謝るのはやめにしませんか。お疲れだったのはわかってますから。よく眠れたのならよかったです」
一番重要な謝るのはもうやめての部分を言い終えて私はおそるおそる陛下を覗き込む。陛下が、いきなり私の手を握った。
「え?」
「あ、あり……本当に申し訳なかった。貴女の心は寛大なのだな」
ありがとう。そう言いたかったに違いない。でもきっと彼には言えないのだろう。今だって必死に笑って見せようとして慌てている。いつも怖い顔しかしていないからうまく笑えないのよ。あまりにも苦戦しているのでなんだかもう微笑ましい。
「無理はなさらないで大丈夫ですから。ね?」
「ああ、わかった」
なんか急に夫婦っぽい。いやまあ一応夫婦?なんだけど誰かにこんなこと言ったことないし。
私の言葉に安心したのか陛下は仕事に戻って行った。鋭い眼光を放っていた人が消えたので部屋の空気が若干緩んだ気がする。
次の日、許可が下りたので私は早速書庫に向かった。見慣れない風景に驚きつつ書庫の扉を開ける。
「わあ、沢山あるのね」
扉の先にあったのはたくさんの棚の中にぎっしりと詰まった巻物たち。祭儀や歴史など項目ごとに床から天井まである棚が全部埋まっている。こんなにたくさん読めるだなんて。気になるものを片っ端から手に取りながら内容を想像する。
「これとー、これとー……」
「おい、こんなところで何をしている」
「ひう!?」
ちょっと、後ろからいきなり声をかけられたら持ってる巻物全部落とすでしょ。大惨事になるじゃない!むっとしながら私は扉の方を振り向いた。
「あなたがどなたかは存じませんけど私は陛下から許可をいただいてここにきてるの。ですからお気になさらないでください」
にっこりと笑って私は答える。ここに出入りできるのだからここに勤めている官吏で間違いない。のだが、なぜか私は陛下とはまた別の鋭い視線で睨みつけられている。本当になんで。
「どうやって取り入って入室を許可していただいたのかは知らないが部外者はさっさと立ち去っていただきたい」
冷たくそう言い残すと、彼は私に背を向け書庫を出ていった。
なんでだろう。私仮にも一国の王女でかつこの国の国王の妃なんですけど…… でも知らないか。みんなあの変な噂通り私のこと鳥も見惚れて空から落ちるような絶世の美姫だって思ってるんだもんね。
……とりあえずまた会った時困るから陛下に名前聞いておくか。いま選んだ巻物を抱えて私は自分の部屋へと歩き出した。
「なんなのいきなり! もう、失礼だわ! いきなり部外者扱いしないでー!」
巻物を一巻読み終わりすっかり日が暮れてしまったので次は明日でいいだろうと読むのをやめたあと。陛下が帰ってくるまで暇なので寝台でさっきの愚痴を叫ぶ。
「いくら私が美人じゃないからってあんまりよ! 妃の可能性、考えなかったのかしら!?」
「鈴華?」
「ひえっ」
まって今の見られたよね!? 絶対幻滅されたよ気にしないけど。なんでみんないきなり話しかけるかなあ……
「どうかしたのか? 何かその、悩んでいるようだから」
あいつのせいですけどね。よし、名前を聞こう。
「あの……黒い目で長めの緑がかった黒髪を結ってる官吏の方、お名前は何とおっしゃるんですか?」
黒い目で緑がかった黒髪。その特徴を聞いて陛下は目を閉じる。数秒静止した後彼は目を開いた。
「董、青鋭のことか……」
「いえ、本当にもう気にしてませんから!」
あんなことがあった日の夕方。陛下は昼頃に起きたのだが、さっきから顔を合わせるたびに全力で謝ってくる。というか1時間単位で謝りに来る。こんな大国の国王に昼から何十回も頭下げられてる私はいったい……
「私を責めてくれ。いくら寝ぼけていたからとはいえあんな……!」
私だってあのあとそのまま寝ちゃったからお互い様でしょ。私の首にうっすら噛み跡が付いたぐらいだし…… だが彼は何を言ってもやっぱり謝りに来るのだ。仕事に集中してください、樟石さんに怒られますよ。
「それに昼まで寝ていたなど……しかもあなたの……! 何でもする、許してくれお願いだ」
……許してほしいのか責めてほしいのか許さないでほしいのかはっきりしてもらえる? 貴方の発言、さっきから微妙に矛盾してたりするのよ。私の中の陛下像が音を立てて崩れていってる気が……
「何か望むものはないか? 何かを贈って許してもらおうだなんて思っていないがせめて……」
仕方ない。これ以上拒んだところで彼が謝りに来なくなるなんてことはまずありえない。別に何もほしいものないんだけどなあ…… そう思って何か考えていたところに一つだけ考えが頭に浮かんだ。
「陛下、書庫の出入りを許可してもらってもいいですか? あそこって一応お仕事するところですし私入れなくて……」
「そんなことでいいのか? 気にせず自由に出入りして構わないのに。まあだが許可したという事実が必要か……」
もっと高価なものを要求されると思ったのだろうか。私はそんなものもらっても壊したりしちゃいそうで怖いので棚の奥に封印しますけどね。
「はい、ですからもう謝るのはやめにしませんか。お疲れだったのはわかってますから。よく眠れたのならよかったです」
一番重要な謝るのはもうやめての部分を言い終えて私はおそるおそる陛下を覗き込む。陛下が、いきなり私の手を握った。
「え?」
「あ、あり……本当に申し訳なかった。貴女の心は寛大なのだな」
ありがとう。そう言いたかったに違いない。でもきっと彼には言えないのだろう。今だって必死に笑って見せようとして慌てている。いつも怖い顔しかしていないからうまく笑えないのよ。あまりにも苦戦しているのでなんだかもう微笑ましい。
「無理はなさらないで大丈夫ですから。ね?」
「ああ、わかった」
なんか急に夫婦っぽい。いやまあ一応夫婦?なんだけど誰かにこんなこと言ったことないし。
私の言葉に安心したのか陛下は仕事に戻って行った。鋭い眼光を放っていた人が消えたので部屋の空気が若干緩んだ気がする。
次の日、許可が下りたので私は早速書庫に向かった。見慣れない風景に驚きつつ書庫の扉を開ける。
「わあ、沢山あるのね」
扉の先にあったのはたくさんの棚の中にぎっしりと詰まった巻物たち。祭儀や歴史など項目ごとに床から天井まである棚が全部埋まっている。こんなにたくさん読めるだなんて。気になるものを片っ端から手に取りながら内容を想像する。
「これとー、これとー……」
「おい、こんなところで何をしている」
「ひう!?」
ちょっと、後ろからいきなり声をかけられたら持ってる巻物全部落とすでしょ。大惨事になるじゃない!むっとしながら私は扉の方を振り向いた。
「あなたがどなたかは存じませんけど私は陛下から許可をいただいてここにきてるの。ですからお気になさらないでください」
にっこりと笑って私は答える。ここに出入りできるのだからここに勤めている官吏で間違いない。のだが、なぜか私は陛下とはまた別の鋭い視線で睨みつけられている。本当になんで。
「どうやって取り入って入室を許可していただいたのかは知らないが部外者はさっさと立ち去っていただきたい」
冷たくそう言い残すと、彼は私に背を向け書庫を出ていった。
なんでだろう。私仮にも一国の王女でかつこの国の国王の妃なんですけど…… でも知らないか。みんなあの変な噂通り私のこと鳥も見惚れて空から落ちるような絶世の美姫だって思ってるんだもんね。
……とりあえずまた会った時困るから陛下に名前聞いておくか。いま選んだ巻物を抱えて私は自分の部屋へと歩き出した。
「なんなのいきなり! もう、失礼だわ! いきなり部外者扱いしないでー!」
巻物を一巻読み終わりすっかり日が暮れてしまったので次は明日でいいだろうと読むのをやめたあと。陛下が帰ってくるまで暇なので寝台でさっきの愚痴を叫ぶ。
「いくら私が美人じゃないからってあんまりよ! 妃の可能性、考えなかったのかしら!?」
「鈴華?」
「ひえっ」
まって今の見られたよね!? 絶対幻滅されたよ気にしないけど。なんでみんないきなり話しかけるかなあ……
「どうかしたのか? 何かその、悩んでいるようだから」
あいつのせいですけどね。よし、名前を聞こう。
「あの……黒い目で長めの緑がかった黒髪を結ってる官吏の方、お名前は何とおっしゃるんですか?」
黒い目で緑がかった黒髪。その特徴を聞いて陛下は目を閉じる。数秒静止した後彼は目を開いた。
「董、青鋭のことか……」
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