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47・小娘、何もかもが嫌になる。

02理解不能。

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 これは

 まあウォールはともかく、ルカやニィラが負けるなんてことは有り得ないんだけどね。
 万が一、ルカが失敗をしても私が城を吹き飛ばせば王族や主要貴族を一網打尽いちもうだじんにできる。

 そのために私は、エンデスヘルツから渡された遠隔式の爆弾を設置して回っている。
 詳しいことはわからないけど、コントローラーから電波を放って電熱で信管を起動するみたいなものらしい。

 トランクケースにいっぱいに爆弾はあるけどこの大きな城を吹き飛ばすには城の構造や材質や強度や爆弾の威力をまえて緻密ちみつな計算を行って爆破ポイントや順番と起動時間をみちびき出す必要がある。

 非常に複雑だし、かなり専門的な知識と計算量が求められるが。

 私はひたすら珠算しゅざんと手計算と絶対に爆発させるという思いと想いの重さをもちいて、計算を終えた。

 本日、計算通りの場所に爆弾を設置していく。
 淡々と、大胆だいたんに、誰にも見つからず。
 戦闘音や破壊音が鳴りひびく、無人の王城を優雅ゆうがに進む。

 ああ、世界が壊れていく音がする。
 それが嬉しくて楽しくて気持ちよくてたまらない。

 さあ私も音を重ねよう。
 世界をぐしゃぐしゃに、ぶっ壊してぶっ殺すんだ。

 私は最終区画の爆弾設置を行う。
 ケーブルの皮膜ひまくがしてつないで、鼻歌じりに信管を刺す。
 親機に電波で起動信号を送れば、回路に入れてある計算した順番通りに起爆していく。

 技術推進派がジョー・ワタナベの開発した技術をエンデスヘルツが軍事転用して出来た試作型らしい。

 なかなかの最新鋭さいしんえい兵器だけれど、エンデスヘルツは満足した出来には満足してないらしくて将来的には全て無線化して個別に起爆可能にしたいとか。

 何人殺す気なんだろ、その爆発に巻き込まれるのはもれなくおまえら貴族が統治とうちすべき民なんだけどね。本当に腐って狂ってる。

 そんなどうでもいいことを考えながら作業を続けていると。

「……? ?」

 なんて、背後から男に話しかけられる。

 あらら見つかった。まあ逃げも隠れもしてないから、こういうこともある。思いと想いの重さは万能ってわけでもないしね。

 私は当たり前のように、ホルスターからピストルを抜きながら振り返っ――――。

「――なっ⁉ 危ねぇだろ! 流行ってんのかそれ!」

 振り返りざまに、男はそう言いながら私のピストルをつかんでうばって私をあっという間に組み伏せる。

 うわっ、思ったより強い!
 何こいつ、ダル、なんでこんなとこほっつき歩いてんのよ。状況理解できてんの?

「なんなんだ……発砲令嬢やら兄さんやら、警備ザルすぎないか? 俺が言えることじゃあないが…………あ? おまえ、ケリー・パウンダーか?」

 私の腕をしばり上げて、不愉快ふゆかいなボディチェックを行いながら男は私の名前を言う。

 誰だ? 私の名前を知ってるって。

「俺だ。ブロック・バルカードだよ。同窓生でバルカード侯爵家三男の……って言っても今はほとんど勘当かんどう状態で学園も追放されて下っ端の衛兵だがな」

 ボディチェックで私のコントローラーを見つけて取り上げながら、ブロック・バルカードは名乗った。

 ブロック・バルカード。
 私と同学年で、私を糾弾きゅうだんして追放した愚かな有象無象うぞうむぞうなガキ共の一人だ。
 そしてうちの竜騎士ウォールの弟に当たる。
 学園から追放? 勘当かんどう状態? バルカード家はその手のことにきびしい、ウォールも八極令嬢をおとしめようとして追放され、兵士として僻地へきち勤務を命じられていた。

 こいつもなんかやったのか? バルカードの三兄弟は六十六パーセント馬鹿ってことか。

「そうよ。私はケリー・パウンダー、あなたが糾弾きゅうだんして追放したから私はこの国に混乱をもたらす為に王族と主要貴族皆殺しにしに来たのよ」

 私はしばり上げられ伏せながら、悪びれることなくブロックに返す。

 正直、私の爆弾設置は予備プランでしかない。
 他のメンバーさえ……、というかルカさえ残ればどうにでもなる。

 私が捕まったところで何も問題はない。こいつも馬鹿だけど侯爵家の人間、どうせ後で殺される。

「………………そうか」

 私の話を咀嚼そしゃくするように聞いて、ブロックはそうつぶやいて。

「すまなかった……ごめんよ」

 そんな、理解不能なことを言った。
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