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46・魔王、決着をつける。

04間違えまくってやった。

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 たがいに紙一重で致命傷ちめいしょうけ続けながら必殺の攻撃を月面をけずりながらり出し続ける。

 これ次の夜に月見上げた天文学者が頭抱えんじゃねぇか、いや裏側ならそうでもねえのか。

 とにかく、そろそろ頃合ころあいだ。
 戦闘状況は煮詰につまった。

 これは他に当てはまる語彙ごいが特にねえから、初めて使うが……

 さっき、俺は勇者殺し方を観測……いや殺すことが出来るということを観測できた。

 あの暗殺者の男が擬似ぎじ勇者を、完璧に殺した。
 回復が追いつかない速度……いや、殺されていることに気づかせないほどに気配を殺した完全なる暗殺。

 この俺ですら知覚ちかく出来ないほどに、存在を消し去り気づいた時には擬似ぎじ勇者は死んでいた。

 戦闘技量や身体スペックはともかく、再生力や女神干渉かんしょうによる奇跡はダグラスと変わらない擬似ぎじ勇者をただの人間が殺した。

 俺もあれをやりゃあいいだけ。
 問題は、魔王のこの俺をもってしてもあれに再現性が無さ過ぎるということだ。

 あれってなんだったんだ?
 いや剣を握った手首を斬り落としたのと同時に肋骨あばらぼねの隙間から肺と心臓をえぐったってのはわかる。

 どうやって近づいたのかも不明で再生が起こらないほどの即死というか死にいたるという結果の押し付け……書きえと言っていい。
 思いと想いの重さで気配というか存在、思いと想いの重さ自体も殺して世界に観測されずに暗殺を決行していた。

 自分を殺して相手を殺す、そういうことなんだろうが。
 俺は不死身だ。
 自分を殺すことを想像出来ない。
 いや魔女いわく俺は死ぬらしいが、俺は不死身の殺し方を知らねえ。

 勇者の剣で貫かれりゃ死ぬんだろうが、あれは俺をこの世界の外の女神に戻すものであって一般的な死とはまた違う。

 あの暗殺者と同じことは不可能だ。
 基本的に何でも出来るこの俺でも、あれは出来ねえ。

 
 知覚ちかくが出来ないほど気配を殺すことが出来ないのなら。
 知覚ちかくが出来ないほどの速さで動く。

 俺はまとっていた破壊を足に集中させ月面をふみつける。

 月面は粉々に砕けて、砂として六倍の滞空時間をもって月に舞う。

 気休めだが視界はふさいだ。
 ほぼ同時に極超音速ごくちょうおんそくまで加速し接近。

 当然のよう勇者は反応し、俺に突きを合わせる。
 腕が伸びたこの一点、ここで俺は亜光速あこうそくまでさらに加速。

 ふところもぐり込み、亜光速あこうそくのまま剣を握る手首を手刀で落として心臓をえぐり瞬間転移で月の表側に離脱。

 しかし、転移に合わせて勇者も転移してきて俺を殴ろうとするが。

「――――――ッ⁉」

 音のない叫びと共に、苦悶くもんの表情で勇者は膝を着く。

 ほぼ真空の月面で勇者の剣を失い窒息ちっそく

 もだえて苦しみ、数十秒も待たず、静寂せいじゃくの中で崩れるように倒れて。

 勇者は死んだ。

 俺の勝ち………………ではないか。
 、俺はそう思う。

 亜光速あこうそくで手首を落とした時、勇者も亜光速あこうそくまで加速してギリギリで俺の胸をつらぬいた。

 だからこれは相討あいうちだ。

 自分の存在が消えていくのがわかる。
 息を吐きかけて曇った窓ガラスが、晴れていくように。
 溶けて、透明に、消えていく。

 ああ、これで終わりか。
 女神の使徒としても、魔王としても中途半端で不完全燃焼。

 正しさもあやまちも、何の証明も出来ず。
 達成もなく、辿たどり着けず、失敗した。

 だったらせめて、ここから人類を滅ぼすか。
 俺は月面から、人の住まう星に向かって手のひらを向ける。

「…………いや、どうでもいいか」

 俺はそうつぶやいて、手を下ろす。

 多分。
 魔王として、この八つ当たりというか癇癪かんしゃくは正しい。

 なら、間違ってこその魔王だ。
 正なら、善なら悪、聖なら魔、それが魔王。

 だから、俺は魔王だから、

「……すまない。ケリー、ウォール、ニィラ……。世界に混乱をもたらしきれなかった。本当にすまない、弱くてごめん」

 魔王らしからぬ、そんな脆弱ぜいじゃくななんの力も意味も無い言葉を吐き。

「でもおまえらは俺みたいになるな。第二第三の俺にはなるな、きよく正しく、世界のことなんか考えず自分の為だけに生きて死ね」

 魔王らしからぬ、そんな戯言ざれごとめいたことを並べて。

「仲間たちの幸せを、俺は願う」

 魔王らしからぬ、そんな嘘偽りのない心からの願いを言葉にした。

 最期に間違えまくってやった。
 魔王らしい、最期に俺は納得の笑みを浮かべ。

 世界から消えた。
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