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43・執事、仕事をする。

05後から思い出したらってやつだ。

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「……おいおい、思ったより早く飲まれたな。なんかあったのかい? お嬢ちゃん」

 魔王はちゅうに浮かぶ大剣をにぎる発光する女に向かって、ゆがんだ笑みでそうのたまう。

 あの剣……間違いない、マリシュカ・ネビルだ。
 俺はほぼ同時に上着の内側からナイフを二本抜いて両手ににぎる。

 会談に乱入してきた時と姿が違う。
 髪の色も真っ白になっているし、目の光り方も違っているし、狂った笑みも消えているが同じ顔だ。
 まあ、あんな馬鹿げた大きさの剣を持った女が他にいるわけもねえし間違いない。

 あの邪悪じゃあく権化ごんげからの脅しや魔王の発言やさっきの小娘の話からさっするに、どうにもマリシュカ・ネビルは勇者の剣とやらに完全に飲まれてエンデスヘルツ公爵のコントロール下から抜けた。

 それにより公爵護衛ではなく、勇者として魔王討伐とうばつに乗り出した……みたいなことか。

「悪いな……いや、良いのか。殺すぜ、お嬢ちゃん」

 魔王は黒くにぶく光を通さないゆがみのように影……いや闇をまとい、光り輝くマリシュカ・ネビルへと言って。

 激戦が始まった。

 光線入り乱れる爆発必至ひっし、世界を巻き込んだ空中戦――――ではなく。

 意外にも、地上での格闘戦だった。

 ただし、超高速。
 集中してやっと見えるくらいの速さ。

 それにとんでもない威力だ。
 互いに全ての攻撃が一撃必殺級。
 間合いに入った辺りの瓦礫がれきが、衝撃波で粉になっている。

 小さいだけで強力な台風二つがぶつかり合っているような戦い。

 俺は今からあの中に入って、マリシュカ・ネビルを殺さなくてはならない。

 不可能……ではない。
 戦闘を観察している中で、頭の中ではすでに二回は首を跳ねることが出来ている。

 

 俺は今、殺人用自動人形ナンバーナインとして暗殺にいどんでいる。ゆえに相討ち想定は当然だ。

 でも俺は死にたくない。

 ナンバーシリーズとしては有り得ない思考回路。
 欠陥けっかんと言ってもいい。

 音も気配も思想も心もおのれも殺意すらも、殺して殺す。それが殺人用自動人形ナンバーシリーズの暗殺だ。

 しかし俺は人間として死に、人間として生まれて、人間として育った。

 多少イカれちゃいるが、愛するものもできた。
 俺はアビィと共に生きていくんだ。
 死んでる場合じゃあねえ。

 だから生存した上での暗殺の成功がマストだ。

 観察を続ける。
 隙間すきま死角しかく盲点もうてん
 それを見つけ出せ。

 その状況下だけに動く、それだけのための機械。
 それ以外は一回全てを忘れて世界に溶ける。

 集中、いや集中しているという感覚すらも溶かして消え――――――。

 ここからは、後から思い出したらってやつだ。

 俺は歩いていた。
 完全に気配を殺して、ただ真っ直ぐとマリシュカ・ネビルに向かって歩いて近づいた。

 マリシュカ・ネビルの凄まじい間合いの突きを、魔王が下がってけたところ。

 突きで腕が伸び切り、魔王との距離が離れたその一点。

 左手のナイフで伸び切った腕を斬り飛ばし。
 同時。
 肋骨あばらぼねの四番と五番の隙間に滑らして、右手のナイフを通して左の肺から心臓をえぐり込むように。

 ナイフを振り抜いた。

 そして勇者の剣を切り離したことで、再生能力が無くなり。

「――――なっ⁉ なんだおまえ、何処から現れたんだ⁉」

 魔王が驚愕きょうがくの声を上げたところで。

「――――あれ……、姉さん……は?」

 マリシュカ・ネビルは輝きを失い、俺にもたれかるようにそうつぶやく。

「……先に行っているはずだ」

 俺がそう返すと。

「そっか……、ありがと……ね」

 光を失った目を細めて、そう言って。

 絶命ぜつめいした。

 暗殺完了だ。
 俺の仕事は終わった。
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