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43・執事、仕事をする。
02人はどさくさで死にやすい。
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実際、俺はアビィより少しだけ状況を把握出来ている。
先日、リングストン公爵邸に現れた邪悪の権化であるリリィという女から聞かされていたからだ。
エンデスヘルツ公爵が魔王を手を組み……、秘密兵器として魔王をも殺せるマリシュカ・ネビルを手に入れた。
さらにいえば勇者の一味にはあのキャロライン嬢も合流しているはずなので、多分キャロライン嬢も来ていると思われる。
ただあの馬鹿についてはマジにわからん。
あいつ何してんだ? 馬鹿みてえな格好してたし意味がわからん。私服の趣味が終わってるってのは納得できるにしても、ここはメルバリア王国の王族が暮らす城だぞ? 俺もそうだが、あいつみてえなやべえやつが入っていい場所じゃねえだろ。
まあ馬鹿について考えるのは時間の無駄か、全ての論理が馬鹿だからに帰結してしまう。
なんて、考えるのをやめたところで。
「何ぼけっと突っ立ってるのよ。気に入らないわね」
と、一人の侍女が真っ黒な瞳を細めて歪んだ笑みで俺に小さな声でそう言った。
全身の毛が逆立つ、ゾッとする。
身体中の血管が強ばる。
恐怖。
現れたのは、裏社会を統べる犯罪組織のボス。
この大陸で一番悪い人間。
邪悪の権化、リリィだった。
「ほら、何やってんのよ。今しかないでしょう――――」
驚愕する俺を気に止めることもなく、リリィはそのまま。
「――――マリシュカ・ネビルを殺せ」
それを、再び俺に言った。
そう、これが俺の仕事だ。
三百年ぶりの暗殺、俺はこれを遂行しなくてはならない。
これを出来なければ、こいつはアビィを確実に殺す。
俺に拒否権はない。
そして、確かに今しかない。
マリシュカ・ネビルを目視確認できていて、居場所もわかっている。
これを逃したら面倒だ。
戦乱という状況下は、実に暗殺向けでもある。
人はどさくさで死にやすい。
思考を切替える。
暗殺者として、殺人用自動人形ナンバーナインとして、切り替える。
「…………アビィ、すまん。少し離れる」
俺は気配を薄めながら、アビィに一言告げる。
「え? なに、トイレ……? お腹痛いの?」
マヌケ面でうちのお嬢様はそんな反応をする。
普段なら可愛いらしい反応だと思うが、今はそれどころじゃあない。
「すぐに戻る――――」
そう言って、俺は世界に溶けるように誰からも気づかれず部屋を出た。
城内から複数の戦闘音。
どれかが馬鹿怪人とマリシュカ・ネビルの戦いだろう。
あの馬鹿は相当強い、単純に殴りあったら俺よりも全然強い。だが魔王やらスペアシェリーなんかと同系統な世界の理から外れたマリシュカ・ネビルをどうにかできるわけがない。
早く探さねえと、アーチが死んでしまう。
アーチが死ぬと戦闘状況下で暗殺が成立させられなくなる。
戦闘に集中してるところを狙うのはセオリーだ。
死角や盲点や不注意や油断、そういったものは暗闇だけに生まれるものではない。
何かを行うということは何かが出来なくなっているということ、暗殺は成立する。
馬鹿が死ぬ前に暗殺を成立させないと、めんどくさい。
気配を完全に殺しながら、城内を索敵していくと。
天井の高い柱の多い広間にてキャロライン嬢と大男の戦闘を視認する。
凄まじい技量の戦いだ。
あの八極令嬢と拮抗しているあの大男は何者だ?
魔王軍にはあんな手練が……、気にはなるが俺がどうこうできる領域の戦いじゃあないしキャロライン嬢ならどうにかするだろう。
それどころじゃあない、一旦無視だ。
そこからさらに別の戦闘音を辿ると、そこは城の中庭。
こないだリングストン公爵拉致の際に見たスペアシェリーと金色に輝く赤い大きな美女の姿があった。
超次元すぎる戦闘、光線やら爆発やら光の壁だったり宙に浮く瓦礫。
完全に常識の範囲から逸脱している。
どちらが優勢なのかもわからん、いや拮抗しているということなのか? 判断ができない領域だ。
これにも巻き込まれたくないし、じゃまにもなりたくはない、さっさと消えよう。
先日、リングストン公爵邸に現れた邪悪の権化であるリリィという女から聞かされていたからだ。
エンデスヘルツ公爵が魔王を手を組み……、秘密兵器として魔王をも殺せるマリシュカ・ネビルを手に入れた。
さらにいえば勇者の一味にはあのキャロライン嬢も合流しているはずなので、多分キャロライン嬢も来ていると思われる。
ただあの馬鹿についてはマジにわからん。
あいつ何してんだ? 馬鹿みてえな格好してたし意味がわからん。私服の趣味が終わってるってのは納得できるにしても、ここはメルバリア王国の王族が暮らす城だぞ? 俺もそうだが、あいつみてえなやべえやつが入っていい場所じゃねえだろ。
まあ馬鹿について考えるのは時間の無駄か、全ての論理が馬鹿だからに帰結してしまう。
なんて、考えるのをやめたところで。
「何ぼけっと突っ立ってるのよ。気に入らないわね」
と、一人の侍女が真っ黒な瞳を細めて歪んだ笑みで俺に小さな声でそう言った。
全身の毛が逆立つ、ゾッとする。
身体中の血管が強ばる。
恐怖。
現れたのは、裏社会を統べる犯罪組織のボス。
この大陸で一番悪い人間。
邪悪の権化、リリィだった。
「ほら、何やってんのよ。今しかないでしょう――――」
驚愕する俺を気に止めることもなく、リリィはそのまま。
「――――マリシュカ・ネビルを殺せ」
それを、再び俺に言った。
そう、これが俺の仕事だ。
三百年ぶりの暗殺、俺はこれを遂行しなくてはならない。
これを出来なければ、こいつはアビィを確実に殺す。
俺に拒否権はない。
そして、確かに今しかない。
マリシュカ・ネビルを目視確認できていて、居場所もわかっている。
これを逃したら面倒だ。
戦乱という状況下は、実に暗殺向けでもある。
人はどさくさで死にやすい。
思考を切替える。
暗殺者として、殺人用自動人形ナンバーナインとして、切り替える。
「…………アビィ、すまん。少し離れる」
俺は気配を薄めながら、アビィに一言告げる。
「え? なに、トイレ……? お腹痛いの?」
マヌケ面でうちのお嬢様はそんな反応をする。
普段なら可愛いらしい反応だと思うが、今はそれどころじゃあない。
「すぐに戻る――――」
そう言って、俺は世界に溶けるように誰からも気づかれず部屋を出た。
城内から複数の戦闘音。
どれかが馬鹿怪人とマリシュカ・ネビルの戦いだろう。
あの馬鹿は相当強い、単純に殴りあったら俺よりも全然強い。だが魔王やらスペアシェリーなんかと同系統な世界の理から外れたマリシュカ・ネビルをどうにかできるわけがない。
早く探さねえと、アーチが死んでしまう。
アーチが死ぬと戦闘状況下で暗殺が成立させられなくなる。
戦闘に集中してるところを狙うのはセオリーだ。
死角や盲点や不注意や油断、そういったものは暗闇だけに生まれるものではない。
何かを行うということは何かが出来なくなっているということ、暗殺は成立する。
馬鹿が死ぬ前に暗殺を成立させないと、めんどくさい。
気配を完全に殺しながら、城内を索敵していくと。
天井の高い柱の多い広間にてキャロライン嬢と大男の戦闘を視認する。
凄まじい技量の戦いだ。
あの八極令嬢と拮抗しているあの大男は何者だ?
魔王軍にはあんな手練が……、気にはなるが俺がどうこうできる領域の戦いじゃあないしキャロライン嬢ならどうにかするだろう。
それどころじゃあない、一旦無視だ。
そこからさらに別の戦闘音を辿ると、そこは城の中庭。
こないだリングストン公爵拉致の際に見たスペアシェリーと金色に輝く赤い大きな美女の姿があった。
超次元すぎる戦闘、光線やら爆発やら光の壁だったり宙に浮く瓦礫。
完全に常識の範囲から逸脱している。
どちらが優勢なのかもわからん、いや拮抗しているということなのか? 判断ができない領域だ。
これにも巻き込まれたくないし、じゃまにもなりたくはない、さっさと消えよう。
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