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41・剣客夫人、推して参る。
03最速最短で。
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「……話とは何でしょう。逆賊との交渉はしないという国防の基本を貴方が知らないわけないでしょう」
私はそんな適当なことを言いながら、こちらに向けられた銃口に集中しながら歩みを進める。
私の間合いまで後十五歩、流石メルバリア城だ。部屋が広い。
「もうすぐに我々は逆賊ではなくなる。魔王とマリシュカが動き出し、武装したこちらの手の者たちも各所で兵士の駐屯地を制圧にかかっている。既に王族側は詰んでいるのだ」
エンデスヘルツは迷いなく語る。
後十一歩、もう少し語らせておきたい。
「この国、いやこの世界の人類は遅れすぎている。世界で一番の大国であるこのメルバリアですら、異世界に信じられないほどに差をつけられている。それは向上心を持たぬ者が民を導いている限り埋まることはない」
最早聴くというより聞こえているだけの語りを聞き流しながらゆっくりと歩みを進める。
後九歩。
「君の家であるバンフィールド家も、この国最強の剣技を誇るのにも関わらず評価されず子爵家止まりで騎士団長はバルカードが担う。何故か侮られ舐められている、それが正しいと思うのか?」
そんな問いかけに私は全く動じない。
バンフィールド家が子爵家止まりなのは剣技しかなく、祖父も父も他に何も出来ない馬鹿者であるからであり。
そんな人間が部下をまとめ上げることなど出来るわけもないが、なまじ最強が故に副団長の肩書きを与えられ。
他の騎士とでは技量に差があり過ぎて訓練には参加出来ず、暇なので飲み歩いていつも酒の匂いを漂わせて騎士団長であるお義父様に注意されていれば侮られるし舐められる。
つまり、バンフィールド家に対する評価はこれ以上なく妥当なものなのです。
後五歩、そろそろ会話を成立させないと不自然か。
「…………バンフィールドの剣は誰かに評価されたくて鍛えられたものではありません、斬りたいものを斬る為だけに生まれて受け継がれて更新されてきた、ただの武術です。そんなもので食べていけるだけの収入と、社会的地位を与えられていることに不満を感じるわけがないでしょう」
なんてことを返す。
まあ、これは本音というか、ただの事実です。
祖父と父の酔った時の口癖が「いや~剣が強くて良かったぁ、剣がなかったら俺みたいな何もできねえ奴絶対に路頭に迷ってたぜ……いやマジに」ですし、私自身バンフィールド剣術を使う者だったからシェルと出会えたわけなので全く不満はないのです。
さあ後二歩。
エンデスヘルツの指を落として、峰打ちでサンディ・ネビルを無力化する。
「……そうか、謙虚さは時に停滞を生むのだな。驕りや慢心で停滞するよりはマシだが――」
と、完全にただの音として耳を抜けている語りの途中ではあるが。
間合いに入いりました。
抜刀から一挙動で、最短最速の刃筋で拳銃を握る指ごと銃を斬り落とす――。
――寸前に破裂音。
銃口から光と共に弾丸が発射される。
一発であれば音と同時に軸をずらせば、どれだけ威力があろうとも一寸にも満たない点の突きでしかないので躱すことが出来る。
はずだった。
発射、いや炸裂したのは点ではなく、面。
銃口から散らばる細かな弾が視界いっぱいに拡がり迫る。
散弾、ああ私は馬鹿だ。
銃に対する知識の甘さが露骨に出た。
会談時や廊下で放った拳銃と今私に向けていた銃が違うことに気づけないほどに銃というものが同じに見えてしまっていた。
これを狙って、私を近づけさせる為に、こんな会話を。
極度による集中により、ほぼ時間が止まった感覚の中でそう思った。
しかし、ここはもう私の間合いです。
重力や自重、反力と抗力、筋力と遠心力、意念や思念、気合いと根性、まあ色々なものがありますが。
シンプルに鍛錬で、呼吸や歩行といった当たり前の領域まで叩き込んだ剣による脊髄反射で、出した刃筋を切り返して視界を埋める弾を薙ぎ払う。
頭と胴に当たらないように散弾の面を斬り裂いて、裂け目に踏み込んで抜ける。
左肩と右大腿部を散弾が削るが、構わずに踏み込む。
踏み込みと突きが一挙動となるように、最速最短で――。
そこに影。
この痛みすらも遅れて歪む時間の中に介入するように、私とエンデスヘルツとの間に。
サンディ・ネビルが割って入った。
私はそんな適当なことを言いながら、こちらに向けられた銃口に集中しながら歩みを進める。
私の間合いまで後十五歩、流石メルバリア城だ。部屋が広い。
「もうすぐに我々は逆賊ではなくなる。魔王とマリシュカが動き出し、武装したこちらの手の者たちも各所で兵士の駐屯地を制圧にかかっている。既に王族側は詰んでいるのだ」
エンデスヘルツは迷いなく語る。
後十一歩、もう少し語らせておきたい。
「この国、いやこの世界の人類は遅れすぎている。世界で一番の大国であるこのメルバリアですら、異世界に信じられないほどに差をつけられている。それは向上心を持たぬ者が民を導いている限り埋まることはない」
最早聴くというより聞こえているだけの語りを聞き流しながらゆっくりと歩みを進める。
後九歩。
「君の家であるバンフィールド家も、この国最強の剣技を誇るのにも関わらず評価されず子爵家止まりで騎士団長はバルカードが担う。何故か侮られ舐められている、それが正しいと思うのか?」
そんな問いかけに私は全く動じない。
バンフィールド家が子爵家止まりなのは剣技しかなく、祖父も父も他に何も出来ない馬鹿者であるからであり。
そんな人間が部下をまとめ上げることなど出来るわけもないが、なまじ最強が故に副団長の肩書きを与えられ。
他の騎士とでは技量に差があり過ぎて訓練には参加出来ず、暇なので飲み歩いていつも酒の匂いを漂わせて騎士団長であるお義父様に注意されていれば侮られるし舐められる。
つまり、バンフィールド家に対する評価はこれ以上なく妥当なものなのです。
後五歩、そろそろ会話を成立させないと不自然か。
「…………バンフィールドの剣は誰かに評価されたくて鍛えられたものではありません、斬りたいものを斬る為だけに生まれて受け継がれて更新されてきた、ただの武術です。そんなもので食べていけるだけの収入と、社会的地位を与えられていることに不満を感じるわけがないでしょう」
なんてことを返す。
まあ、これは本音というか、ただの事実です。
祖父と父の酔った時の口癖が「いや~剣が強くて良かったぁ、剣がなかったら俺みたいな何もできねえ奴絶対に路頭に迷ってたぜ……いやマジに」ですし、私自身バンフィールド剣術を使う者だったからシェルと出会えたわけなので全く不満はないのです。
さあ後二歩。
エンデスヘルツの指を落として、峰打ちでサンディ・ネビルを無力化する。
「……そうか、謙虚さは時に停滞を生むのだな。驕りや慢心で停滞するよりはマシだが――」
と、完全にただの音として耳を抜けている語りの途中ではあるが。
間合いに入いりました。
抜刀から一挙動で、最短最速の刃筋で拳銃を握る指ごと銃を斬り落とす――。
――寸前に破裂音。
銃口から光と共に弾丸が発射される。
一発であれば音と同時に軸をずらせば、どれだけ威力があろうとも一寸にも満たない点の突きでしかないので躱すことが出来る。
はずだった。
発射、いや炸裂したのは点ではなく、面。
銃口から散らばる細かな弾が視界いっぱいに拡がり迫る。
散弾、ああ私は馬鹿だ。
銃に対する知識の甘さが露骨に出た。
会談時や廊下で放った拳銃と今私に向けていた銃が違うことに気づけないほどに銃というものが同じに見えてしまっていた。
これを狙って、私を近づけさせる為に、こんな会話を。
極度による集中により、ほぼ時間が止まった感覚の中でそう思った。
しかし、ここはもう私の間合いです。
重力や自重、反力と抗力、筋力と遠心力、意念や思念、気合いと根性、まあ色々なものがありますが。
シンプルに鍛錬で、呼吸や歩行といった当たり前の領域まで叩き込んだ剣による脊髄反射で、出した刃筋を切り返して視界を埋める弾を薙ぎ払う。
頭と胴に当たらないように散弾の面を斬り裂いて、裂け目に踏み込んで抜ける。
左肩と右大腿部を散弾が削るが、構わずに踏み込む。
踏み込みと突きが一挙動となるように、最速最短で――。
そこに影。
この痛みすらも遅れて歪む時間の中に介入するように、私とエンデスヘルツとの間に。
サンディ・ネビルが割って入った。
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