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39・怪人、着せ替えられる。

06渾身のソバット。

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 僕を狙った物ではなく、ゆかを斬りきざんで僕を下の階へと落とした。

 落下中の僕にマリシュカは連続で突きをはなつ。

 しかしこれは想定されていた動きだ、昨日ダグラスにやられた。

「…………ッ! あああああああああ‼」

 僕も連打で応戦おうせんするが、あまりの速さにさばききれずに何発かもらってさらに下の階のゆかを突きやぶってさらに下の階の地面に叩きつけられる。

 よろいが硬くて肉までは届かなかったが効いた、いってえ……。

 すぐに立ち上がるも、今度はくびこしひざ左右左ひだりみぎひたりと超高速叩かれて一回転する。

 やべえ、これ想定より全然つええ。コンビネーションの内容自体はダグラスとほとんど変わらないが速さや重さが段違いだ。

 コンビネーションの種類は把握はあくできているが、コンビネーションから次への出し方やつなぎ方は不規則ふきそくでパターン化してこねえ。
 よろいがなきゃもう五十回は死んでいる、というか初撃しょげきで首が飛んでいる。

「ハハハハハハハッ! アハッ! ハー! ハハハアアアアア‼」

 楽しそうに大笑いしながらマリシュカは超高速で斬撃をぶん回す。

 そりゃあ楽しいだろうさ、そんだけ強けりゃあよ。畜生、マジに怪物だこいつ。
 なんて考えている間にがっきんがっきん叩かれる、最早もはやさばけている数の方が少ない。

 ガチガチにガードを固めて叩かれてからようやくくパターンを把握はあく出来る、ダメだこれじゃあ遅い、せめて初撃しょげきだけをガードしてコンビネーションを把握はあくしないと。

 目で追えたところで身体が反応しねえ、間髪かんはつ入れずに不規則ふきそくに様々なコンビネーションをつなげてきやがるから隙間すきまもねえ、初撃しょげきだ、どっかのコンビネーションパターンを初撃しょげき見極みきわめろ。

 左からのはらいをブロック。

 

「っつらあ――ッ‼」

 僕はコンビネーションを読み切り、渾身こんしんのソバットをり出す。

 ちなみにこの技はグロリア嬢のお友達であるルーシィ・コーディの技を真似まねて覚えた。ルーシィの蹴りはつい見蕩みとれちまうほど美しい、洗練せんれんされたものだ。

 なんて、あたかも「ああ、ルーシィの技で打破だはできた。感謝しなきゃな」みたいなふうに語っているが。

 僕のソバットは、余裕でくうを切った。

 それなりに、ルーシィほど洗練せんれんはされてなかったにしても最高速で、現状出来うるベストなタイミングではなったソバットは容易たやすかわされて、完全に僕のリーチの外に出ていた。

「ん~~~…………いや……、んー…………飽きちゃった。下手なんだもん」

 マリシュカは突然気だるそうに、男の自信をぐようなことを言う。

「そうだ、姉さん……。あれ、姉さんはどこだろ……あれ……? そっか、戻らないと」

 さらに、なにやらぶつぶつとつぶやいてきょろきょろと辺りを見回す。ちなみにマリシュカの大暴れのおかげで部屋は三つくらい壁がなくなり元々何の部屋だったのかわからない程度ていどにはれ果てている。

 つーか情緒じょうちょが不安定すぎておっかねえし、嫌な予感が途切とぎれねえ。

「うん……終わらせよ」

 かろうじて僕はそう言ったマリシュカの、何の興味も失った、食べ終わった果物くだものの皮をゴミ箱に捨てる時のような表情を見て取れた。

 

 速すぎてもう目に追えない、不可視ふかしの状態から徹底的てっていてきに斬られ続けている。
 ガードも出来るわけもなく、根性でっているだけに過ぎない。

 スペアシェリーご自慢じまんの、わけのわからない馬鹿なけ声まで出して着装ちゃくそうしたよろい、クォーターノアががりがりけずられてがされて行くのだけがわかる。

 入ったことはないけど、鉱山に置いてある粉砕機ふんさいきの中に入った気分だ。

 つまり死を覚悟している。

 畜生、さっきまでは遊んでやがったんだこの女。
 ぶっ壊れてやがる、いやぶっ壊されてんのは僕なんだが。

 必死に根性でマリシュカを探す為に、集中しながら視野を広げる。

 全っ然見えねえ、追い切れねえ。
 と、そこで。

「気をつけるのですわクリス、足元あしもとが悪いのですの」

 聞こえるはずのない、しかして僕が絶対に聞き違えることのない声が聞こえた。

 僕は脊椎反射せきついはんしゃで声の主を注視ちゅうしする。

 そこには、瓦礫がれきで転ばないようにスカートのはしをちょんとつまんで、足元あしもとに注意をはらいすぎて口が開いたままで、ゆっくりと歩く。

 グロリアの姿があった。
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