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40・八極令嬢、竜騎士と踊る。

04勇者の色。

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 かなり消耗しょうもうしているようだが手にはまだ剣がにぎられている。
 アーチボルトはどうしたんだ? まさか負けたのか?

「……姉さん?」

 マリシュカは不安そうな声で、サンディの頬をでながらつぶやく。

 この間とは違う。
 会話が成立しないほどに精神を勇者の剣にむしばまれて狂っていたが、今はかなり落ち着いているように見える。

「血が……、ちょっと、ねえ……、お、お医者様を呼ばないと……」

 ふらふらと立ち上がりながら、マリシュカは狼狽うろたえる。
 あの出血量と、サンディの体力を考えると……もう…………。

「姉さんが、姉さん……、誰か……」

 マリシュカは大きなひとみにいっぱいの涙を溜めて、正常に取り乱す。

 と、思ったが。

「姉さ――――、あ、あ、あ、あ、あ」

 突然、思い切りり、大きく口を開けて、痙攣けいれんしたように引きつった声を漏らし出す。

 どうしたんだ、アーチボルトのが効きすぎ――。

「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」

 マリシュカは思考をかき消すほどの声量で、なんて音なのか判別はんべつできない、最早もはや衝撃波ともいえる叫び声を上げる。

 たまらず耳をふさぐ、脳がき立つような、凄まじい音が全身を飲み込む。

 眼球がんきゅうふるえて、目を開けていられない。
 なんだこれは、どういう現象なんだ。

 数秒の後に音が止み、マリシュカに視線を戻す。

 マリシュカの大きなひとみかがやくどころか強烈きょうれつ発光はっこうし、美しいブロンドの髪の毛は真っ白な白髪はくはつへと変わる。ダグラスと同じ、髪の色……勇者の色。

 全身の怪我や汚れががれ落ちるように消えり、ひとみ発光はっこうが全身をつつむ。

 目の前で起こる超常現象にどう対応するかをめぐらすが。

 マリシュカは不可視ふかしの速さで剣を振る。
 見えたわけじゃない、手元と剣が見えなくなったからこそわかった。

 そして、ゆかと壁と天井が同時に、ばらりとくずれる。

 浮遊感ふゆうかんを感じたその時にマリシュカは音もなく消えた。

 突然の出来事に判断はんだんが遅れたが、最初に動いたのはエンデスヘルツ公爵。つまり父だった。

 飛び込むようにサンディをかかえる。

 我が父ながら流石だとしか言えない、判断はんだんが早い。

 遅れてアンナはさっきまで天井の役割をたしていた瓦礫がれきはらいながら、父にせまる。

 しかしこの浮遊感は、先程さきほどのウォールとの戦いで体験みだ。

 私は不安定な足場をはじくように飛び込んで、父を窓の方へ押し出してアンナを蹴りではじく。

 父とサンディが窓からがきに落ちるのを確認し、瓦礫がれきと共に下の階へ着地して、同じく着地したアンナと対峙たいじする。

「……退いてください、キャロラインさん。私の狙いは国家転覆こっかてんぷく関与かんよが見られるエンデスヘルツ公爵のみです。貴女を斬る理由がありません」

 アンナは私にそうのたまう。

「私もエンデスヘルツです、ここで退くわけがないことは貴女にもわかるでしょう。それに私にはサンディを傷つけた貴女を打ちくだく為という、これ以上ない理由があります」

 私はそう言って構える。

「わかりました……。これ以上はもう言葉は不要ですね」

 そう返し、アンナは剣を構え。

「バンフィールド剣術、アンナ・バルカード。参る」

 肌をすような圧力あつりょくはなちながら名乗った。

八極拳士はっきょくけんし、キャロライン・エンデスヘルツです。よしなに」

 私はアンナへと名乗り返す。

 どうにも私はバルカードにえんがある。
 ウォールの次は剣客けんきゃくアンナか、バルカードと二連戦なんてそうそう起こる出来事じゃあない。疲労ひろう損傷そんしょうも決して軽くはない。

 しかし、父を狙い、サンディをしたアンナを私は叩きつぶさずにはいられないのだ。

 水入みずいりになったウォールとの決着けっちゃくわりとするなら不足はない、十分すぎるほどの相手だ。

 エドのかたきをナガサキでつというやつだ、エドもナガサキも何かはわかりませんが。

 燃える怒りで叩きせる。

 死闘が始まった。
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